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第三章 俺様とアイドル(7)

 信者共の強烈な欲望と熱気。

 直接見てはいないが、舞台袖、上手側にいても伝わってくる。


 高校の制服や使用人の服を足して二で割った服を基に、高めの彩度で色づけた衣装。


 三人それぞれの個性を出せるよう装飾には差異を設けている。花瑠なら桃色で花、えりは赤に星形、隈は濃い紫にひし形だ。

 当然、信者が劣情しやすいよう、スカート丈は短めで、靴下だかタイツだか知らんが生足との配分に気を配っている。


 三人が偶像なのだなと実感する。


「それじゃ」


 三人で円を作り、リーダーであるえりが最初に手を伸ばす。

 集団としての結束力と個の力を引き出そうとする慣習を始める様だ。


「みんなの為に」


「私達の為に」


「輝こう」


「アイドル~」

「アイドル~」

「アイドル~」


「GO!!」

「GO!!」

「GO!!」


 三人の声が重なり、重なった三つの手で願をかける。円陣の完成だ。


「何かあった時はお願いします」


 俺様としては今すぐ災厄に来てもらいたいくらいだ。


「見惚れないでくださいね~」


 着飾ったところで灰汁は強いままだ。見惚れる要素など無い。


 えりと隈がすぐ舞台に出られるようにしている。


「みっちー」


 花瑠も話しかけるのか。どいつもこいつも、さっさと舞台に行けばいいものを。


「楽しんでもらえるようにがんばっちゃいますね」


「さっき見惚れるなと言われたばかりだぞ」


 俺様がそう返すと花瑠は少し陰った。


「いってきます」


 笑いかけてくる。作りとは違う明るさだな。切り替えが早い。偶像になったのだろう。


 三人が舞台へ出る。


 待ちわびた歓声が響く。それを早くて無駄に明るい序奏が上書きする。

 待たされて溜まった欲望を発散させる為だな。


 ただただ甘いだけの歌が忌々しい。


 が、練習に付き合った時よりも環境は劣悪。信者共だ。

 光る棒やうちわを振り回し、予め取り決めたかの様な掛け声。

 俺様には何が楽しいのか理解できん。ただエネルギーを浪費しているだけだ。


 忌まわしき騒音と信者を魅了せんとする踊りに殺意を覚えながら、自己を保たねば。

 五次元先から攻めてくる否定する者の殺気を逃す訳にはいかぬ。社会的に正当な理由で俺様の怒りをぶつけられるのは奴等だけだからな。


 曲は雑音。

 歌詞は無意味。

 踊りはただの動き。


 不本意だがこれも混沌だ。


 三曲目は静かな箸休めか。些末な悩みの詩に腸が煮えくり返る。

 ぅぅむ。否定する者の気配は感じぬ。片耳を塞ぐイヤホンに緊急事態の知らせは無い。


 ここまで見聞きして人気の分布が分かった。


 一番に人気があるのはえり。舞台に出た瞬間から一番に呼ばれ、盛り上がるところでは更に熱量の高まりを感じた。


 二番目は隈。これは信者の格好や持っている物の差異で判断した。


 三番目が花瑠。隈との差は少しだけだが、呼ばれた数、支持を意味するだろう行動や物品、どれも少ないのだ。


 その証拠に今は休憩を兼ねた喋りでは、えりが話す時は共感を示す反応は多いが、花瑠だと共感される数は少ない。話が独特な部分もあるから本人のせいも多分にあるが。


「大変な事はありましたが、こんな時だからこそ歌で元気を届けたい」


 些末な話や宣伝をやめて、この前の否定する者の襲撃について触れる。明るかった信者共は暗くなった。

 同情を誘いたくないからか、本来三人を支える立場にいたふじが負傷した事には触れなかった。


「今日来てくれた皆には本当、感謝ですよ。今日、誰もいないんじゃないかなってガクブルしてましたからね」


 嘘つけ。今日来た信者の人数を一番に確認し、来る前は情報の海を調べていただろ。


「ののえるも、いーーーっぱい元気をお届けしちゃいますからね」


 元気の押し付けだな。が、信者共に多少は影響しているのか雰囲気は明るくなっている。


「楽しみましょー」


 花瑠め、大きく胸を弾ませる躍動をしよった。なるほど、盛り上げなければと使命感に必死だな。


 ここで早い音楽が流れる。この勢いに演奏が便乗してきた。


 場がかなり盛り上がっているな。俺様にはかなり辛く、壁に寄りかかりたくなる。


 舞台裏が慌ただしくなり服を持った人間が集まりだす。なに、俺様も手伝えだと。


 終奏に差しかかると三人が俺様の方に戻ってくる。


 衣装を脱ぎだしたし、周りの人間が引き剥がしてもいるぞ。


 なるほど、次の曲は別の衣装で歌い踊るみたいだ。

 衣装はボタンや細かい繊維で接合する構造になっているのか。黒い力とは違い人力とは不便だな。


 俺様は持たされた衣装を渡していた。


 ただ一切の説明も無いまま三人分の衣装を持たされ、どれが誰のか理解できぬままだから当然間違いも発生する。おかげで、理不尽な罵倒を受ける羽目になった。


 殺意が高まる。今すぐこの場にいる者をと思ったが。

 次が最後の演目だ。それに、ここで台無しにしたら雅、花瑠との関係が悪化する。ここまで我慢できたのだ。我慢してやろうではないか。


 その代わり、罵倒した者には背筋を震撼させるくらいの殺意を向けるくらいにしておいた。


 曲が変わり、再び三人が舞台へ上がる。


 作り物臭がする爽やか然とした奴か。

 曲の音が前よりも増えている。忌々しく耳障りである事に変わりないが。


 信者共のやかましさが減じている。名を呼ぶ、称賛しているが、予め取り決めた掛け声が無いのだ。

 今、新曲を披露しているわけか。


 えりと隈、二人の歌と踊りが鋭く、いやそれぞれの持ち味いや魅力が増している。


 えりの綺麗さに少し輝きを感じる。特に踊り、型通りの印象を脱し軽やかだな。

 隈は懸命さが足された事で灰汁が抜け、可愛さを発している。普段との振れ幅が大きいから蠱惑的なのだろう。


「スゲーな、はるちん」

「カミ、てんしー」

「ののえるーーー、サイコー」


 三人の中で信者共を一番魅了しているのは花瑠だ。


 何者かの幻覚の使用、長時間歌にあてられた事による疲労かと疑い、精神を統一する。

 血飛沫、悲鳴、絶望、これを夢想して、蜂蜜の如き甘さを打ち消し、静寂の闇を心に据える。


 やはり踊りの面では三人の中で一番劣る。


 が、極限まで高まった集中力によって花瑠は入神(トラ)状態(ンス)になり、楽しんで欲しいと言う情念が技術を超え芸術とかの域をちと跨いだのだろう。

 少なくとも信者共にはそう見えている。


 曲は盛り上がり最高潮になっていく。踊りもかなり動的になっている。

 知らない筈だが、信者は空気にだいぶ酔っている。


 偶像が舞台で歌い踊る事で信者共が反応し熱が生じる。

 何故、人間が偶像を星に例えるのか。二十等星にも及ばぬが通じるところがあるのだろう。


 舞台で綺羅星の如き花瑠。


 が、花瑠は星じゃない。人間、せいぜい()然代(タリア)

 輝きを放ったとしても、超新星爆発には遠く及ばず、ここから観測するよりも長くは持たない。


 エルユー。

 エネCh――――


 花瑠が手で愛を現したが、舞踏する足がもつれ舞台の床へと倒れゆく。


 休んだとは言っても疲労は抜けていなかった。加えて回復したと思い込み休める中盤以外は全力疾走。元々の体力の低さ。

 三つの要素が重なり無様に倒れる姿を晒した。


 気付いている二人は歌い踊り続けている。


 花瑠は倒れたままだが意識は薄っすらある。立ち上がるまで三十秒くらいか。


 取り返しのつかない事態だな。信者共は動揺し、熱が一気に冷めた。


 それでも続けているのは、二人に花瑠を助ける義理は無いし、興行を続けるのも偶像としての矜持。選択としては妥当である。


 俺様は何もしない。花瑠の転倒は否定する者の介入ではなく、蓄積した疲労によるものが原因。決定するのは偶像を管理する側だ。


 花瑠はどうにか立ち上がったが、曲の方が早く終わった。


 沈黙。


「ありがとうございましたー」


 綺麗に通った声と深い角度に下げたお辞儀。

 えりの誤魔化しにすぐ隈が続く。

 最後にその場にいるだけでやっとの花瑠が頭を下げた。


 まばらな拍手と共に三人が舞台を去る。


 終わりだ。ようやく興行と言う名の苦痛から解放される。

 俺様は自然と体を伸ばしていた。


 最初から最後まで否定する者の気配を感じなかったが、今はどうでもいい。

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