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第三章 俺様とアイドル(6)

 朝、俺様はXRトレーニングルームで修行を始めている。

 一応、ぷれそっくすの護衛をする日でも修行は欠かさなかったが、今朝は違う。雅がいる。日程が合わなかった事が多かったからな。ようやく(りゅう)鱗不退(りんふたい)とその派生である逆鱗龍苛(げきりんりゅうか)が習得できる。


 さて場は清めた。


 扉を開く音がするので俺様と雅はそっちを見る。

 珍客だ。早朝に花瑠がここに来るとは。


「おはようございます」

「おはようございます」


「ちょっと、すみっこで練習したいんですけど大丈夫ですか?」


 今日は偶像にとっての最大の興行であるライブまで後八時間。少しでも修行をして技術を向上させたい訳だ。

 歌を聞きながらの修行は嫌悪に値するが、それでも気持ちは理解可能だ。許すとしよう。


「かま――」

「ダメです」


 意外な事に雅が強く拒否を示した。


「ぇっ、歌はうるさいですよね。歌は歌わないので、ちょっとすみっこでダンスするなら、いいですか?」


「そういう事じゃありません。疲労が溜まっているから、少しでも休んで欲しいんです」


「いやいや、私、疲れてませんよ。緊張はしてますけどね」


「テスト勉強にライブのレッスン、それが連日。一日とはいえアイドルのお仕事も入っていたんです。疲れないわけありません」


「雅ちゃんだって勉強して修行してるじゃないですか。私だって、まぁ似たようなスケジュールですよ」


 言われてみれば、花瑠の無駄にはつらつとした元気が陰っているな。


身体(スーパー)強化型(フィジカル)と比べないでください。本当は私が勉強を少しでも早く切り上げるべきでした。ごめんなさい」


 時間管理に落ち度があったと雅が花瑠に頭を下げた。そうする前に一瞬、俺様を睨んできたけどな。

 勉強、偶像は花瑠が選んだ道だ。何故、俺様が管理せねばならん。


「頭を下げるより、私の練習を止めないでください」


「それはできません。場合によっては力づくでも休ませます」


 雅は本気だ。静かに凛と構えている。必要とあらば、黒い力を使うのも辞さない。殺しはしないが半殺しにして回復できるカプセルに放り込む。


 雅は覇道の師匠だ。が、花瑠の練習したい気持ちを汲んではやりたい。超能力の神髄を探るのはもちろん、実戦に向けて技を研鑽したい欲求には共感できる。


「折衷案だ。三十分、俺様と花瑠、雅の修行時間を三十分とする。時間経過後は全て休息とする。勉強も無し。休みに徹する。これなら不平等感は無いだろう」


「そうですね」


 雅が俺様の意見にすぐ賛成するとは意外だ。


「本当は今すぐ休んで欲しいですけど、無理やり能村さんを休ませて、陰で練習されても困りますからね」


「わかりました」


 俺様は花瑠の歌を聞きながら龍鱗不退を習得できているか雅に示していた。

 攻撃を受け続けながら前へ進む。


 ぅぅむ。雅の攻撃を受けなければならず、その上嫌いな歌が耳に入ってくる。肉体と精神への負担が大きい。

 捨て身で相手の攻撃に耐えながら攻撃する奥義なのに、前へ進む以外は禁止とは不合理だ。


 殺意が漲ってくる。


 腑抜けた歌詞だ。


 俺様は雅に拳を打つ。


 受け流され、体勢が崩れる。


「本当に歌が嫌いなんですね」


 雅に見下ろされ皮肉まで言われる始末。素人みたいに投げられるとはな。


「いつもの荒々しさと狡猾さがありませんでした。大嫌いなのは分かりますが、もう少し自制してください。次に教える技は冷静さが必要なんですよ」


 雅とて感情を制御できていないだろ。性的な話題を出せば過剰に攻撃的になる。仲間が極大な被害を被ったら激昂する癖に。

 修行が進まんから口には出さんぞ。


「久しぶりですし、今までの技のおさらいをしましょう」


 やり直させたいが、一心不乱に歌と踊りの修行をしている花瑠は妨害になっている。

 排除したいが、先の約束を反故にするのは無粋。


 俺様は大人しく技のおさらいをしていた。

 花瑠の歌を聞きながらな。

 寝れると感じた瞬間は無かった。やはり三人そろわないと起きないのか。



 三十分が経ち、約束通り修行を終えた俺様達は朝飯を食った。


「私は最終打ち合わせなので先に失礼します。能村さんを休ませてくださいね」


 雅も会場に来るようだ。中ではなく外側で待機し有事に対応する。五次元先から攻めてくる否定する者には後手だが、社会的都合が枷になっているのだろう。


 朝の約束は守る。破門だなんだと揉めるのは面倒だからな。


「あの時、賛成してくれてありがとうございます」


「歌は聞くに堪えぬが、勝利したい気持ちは理解できる」


「勝利って、誰に勝つんですか? 今日は私達だけのライブですよ」


「偶像にとっての勝利とは信者を魅了する事だ」


「魅了って」


 花瑠が苦笑を浮かべた。


「来てくれた人が元気になって、明日もがんばるぞーってなるのが、私、私達にとっての勝ち、になるのかな」


 最初に会った頃も同じ様な事を言っていたな。


「俺様は元気になるどころか腸が煮えくり返ってしょうがないけどな」


「本当はみっちーにだって届けたいんですよ」


 花瑠は偶像の善性を本気で信じている。


 俺様も信者と同様、ある意味で救えると思っているのだろう。お人好しの押し付けで胃がもたれそうだ。


 えりだったら、自分達の歌や踊りで、俺様に元気になって欲しいとは言わない。触れようともしない。


 花瑠は夢見がちなのだ。


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