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第二章 市街地戦前編

 無骨な格納庫の中で俺様は開口部が開くのを待っていた。

 これから街で暴れている否定する者を雅、オリヴィア、花瑠と一緒に殲滅しに向かう。


「チーム・ガラハッドの諸君」


 カラクリから鼻につく大仰な言い方が聞こえてくる。指揮官の影森が遠くから俺様達に話しかけてきた。


「状況はあんまりよろしくない。対否が先に市民の避難行動とディッズルの撃破に取りかかっているけど、苦戦中」


 対否とは警察主体の否定する者への対抗をする部署の名前だ。


 人間に否定する者の相手は厳しいが、()然代(タリア)は数が少ないからな。それに組織の面子の維持や戦えない者の意地の行き場として機能している。加えて危険に伴う報酬も動機付けにはちょうどいいか。


 振動が変わる。飛行機とヘリコプターのあいの子が進むのをやめて滞空する。

 また振動。今度は床の一部が傾斜になっていき、格納庫に隙間が現れる。


 吹き込んでくる風。

 青空、街がだんだん大きく見えてくる。

 その下は戦場か。


「飛び降りと同時にマグナ・ルズを起動。んじゃあ予定通り、行ってみよう」


「参る」

「行きます」


 俺様と雅は一気に傾斜を下り、街に向かって跳んだ。

 浮遊感は一瞬、空気抵抗が落体となった俺様を襲う。

 (もも)の辺りに固定したデバイスのスイッチを押す。


 デバイスに組み込まれた錬金術によって服は瞬く間に分解、戦う力へと再構築される。

 その結果、頭以外の全身が黒い装甲に包まれ、赤い力が模様となって流れる。

 エクスカリバーはマグナ・ルズと呼んでいるが、長いので俺様は黒い力と呼んでいる。


 雅、後から跳んだオリヴィア、花瑠も既に黒い力を身に纏っている。

 ちなみに流れる力は、雅は青でオリヴィアは濃い緑、花瑠は桃色をしている。


「んもぉー、なんで、よりによって大事な時期なのにぃー」


 花瑠が怒りを爆発させている。


 今日は週末で高校が休みだった。花瑠は赤点を回避する為に雅から勉強を習っていた。

 俺様の修行の効率を犠牲にしてな。

 否定する者のせいにしているが、現れなかったとしても、花瑠の勉強がはかどる事は無い。


「二人とも大丈夫かな………」


 怒りから心配か。


 否定する者が現れたところは、花瑠が一緒に組んでいるアイドルユニットの仲間が修行している所の近く。


 突撃銃の連射音が複数聞こえる。


 光沢のある青い巨大な芋虫。正面のツルツルした顔以外は無数の棘に覆われている。上体を起こしたまま、撃たれている事を意に介さず往来を突き進んでいる。

 俺様が弱体化する前、力を吸収してきた頭の悪い奴ではない。ちと強い雑魚だ。


「雅、奇襲だ」


「やりましょう」


 俺様が使う流派は孤高の鷹、雅は計羅討凄流古武術の中分類である朱雀、流派は違えど滑空する術はある。


 巨大芋虫の頭上を狙える好位置。

 体を一回転させ急降下。

 鷹と朱雀による獲物を狩る蹴りが炸裂する。


 強烈な同時攻撃により芋虫は伸びたが伸びただけで、粒子となって消滅する兆候を確認できない。


 魔法で作った水の球に入ったオリヴィアが着地。落下の衝撃を殺したと同時に水の球は霧消する。


 花瑠は三角形の盾を上に掲げ滑空機にしている。あの大きさでは滑空機としての機能は果たせない。実際には黒い力による限定的な念動力を使って着地している。


 芋虫が唸り声を上げて起き上がる。

 棘の周りに隙間ができる。

 棘が飛んだ。


 単なる飛び道具ではない。殺意がある。棘一本、一本が否定する者だ。

 くちばしを持ち、杖の様に細長い体、端は球状になっている。

 突っ込んでくるそいつを俺様は腕で弾く様に打つ。


 簡単に壊れるな。突撃銃や小火器でも事足りる。だが、数が多すぎる。


 無数の中の一体が細い体をしならせ、球になった部分を俺様にぶつけてくる。

 その攻撃に興味はあるし、受けてもたかが知れているが、受けたいとは思わんな。

 かわし、細い体を捕まえ、小枝みたいに折る。


「グァァァァッ」


 対否の一人の叫び。撃ち漏らしたみたいだ。肩にくちばしが突き刺さり、胸部が酸によって火傷している。


 杖が完全消滅する前に、球になった先端部を襲ってくるくちばしに打つ。

 球が割れて液体が飛び出し、くちばしの頭や体を溶かす。

 受けたくなかった理由は、苦しめようとする悪意が気に入らなかったからだな。


 俺様達はくちばしを倒し続けている。芋虫は棘もといくちばしを放つと、すぐに新しいくちばしが生えてくる。


 現状、くちばし退治は変幻自在に水の魔法が使えるオリヴィア頼りだ。問題は魔力が切れる前に発生源である芋虫を倒せるかどうかだ。


 雅は黒い力によって手から光弾、溜めてビームを撃つ事ができる。大雑把にならざるを得ないオリヴィアの補助として機能している。


 花瑠は超能力で作った三角形を投げてくちばしを倒している。制約と威力にバラつきが見られる。投げて命中しないと次の三角形が作れない制約。威力は五、六体倒せるときもあれば、一体倒すのがやっとの場合もある。


 俺様が倒した数は花瑠や対否よりは多いぐらいだな。

 さて、くちばしの数がだいぶ減り頃合いだな。俺様は魂に火山を感じて覇道の奥義を繰り出す。


 覇道(はどう)森羅(しんら)一体流(いったいりゅう)火烈怒(かれつど)(ぼう)(しゃく)(かん)奥義(おうぎ)火岩(かがん)(けん)


 燃え上がる拳を離れた芋虫に向かって打つ。

 拳骨よりも大きな炎の砲弾が爆裂し、芋虫を仰け反らせる。

 ぅうむ。ツルツルの顔みたいなところは弱点では無いようだ。無駄に頑丈に作りよって。


 芋虫がくちばしを大量に放ってくる。これで三度目か。


「大変そうだね~、イナゴの駆除」


 影森が通信してきた。


「からかうなら殺すぞ、ナイア」


「またナイアって呼ぶ~」


「無駄話ならやめてください」


「実はアイツ等のせいで避難が捗ってなくてさ~、オリーのお友達を借りたいんだよね」


 芋虫が放つくちばしは数が多く、俺様達のところばかりに飛んでいくわけではない。街のあちこちに飛んでいる。


 つまり臆病者共の安全を確保できる者が不足しているから、オリヴィアが召喚できる魚面を貸せと言うわけだ。


「安藤君さ~、あのデッカイのをワンパンしろって言わないから、オリーの代わりに小物を駆除してくれない。格闘家の王なんだからできるでしょ」


「チッ」


 最初の蹴りで芋虫がかなり屈強である事が分かった。単体なら容易く滅ぼせるが、奴の出すくちばし共の集中攻撃は受けたくない。強酸にくちばし、束になれば黒い力にかなりの損傷を与えかねない。雑魚共に構えば、その間に巨体の突進を受ける羽目になるだろう。


 覇道(はどう)森羅(しんら)一体流(いったいりゅう)旋風(つむじ)()(がま)奥義・二丁風刃(にちょうふうじん)


 手刀で空を切り、離れた敵を斬る風の鎌。くちばし共を一気に減らす。


 一息。


 芋虫がくちばしをまた放つ。風刃で減らせはするが、連続二回が限界。その間にまた増えているから繰り返しになってしまう。


 覇道の真の力を引き出せるようにはなったが、体力の消耗の割に威力は決して高くない。まだまだ鍛えないといけない証拠だ。


 光弾が飛んできた。

 咄嗟に俺様は身を少し下げて回避する。


 光弾が破裂する音。どうやら誰かに当たったみたいだ。


「安藤、対否の事を考えてください。あの人達のアーマーは決して強くないんですから」


 面倒だな。


 複数の高台に、機銃いや長い銃身になっているのを背負った軟体動物共がいる。

 俺様達を包囲する様に空間が歪み、刃物になった腕を四本生やした人型共が現れた。


 援軍の始末に加え、対否を守ってやらんといかんのか。露払いだけでなく盾になれと。心底面倒だが、消極的だった事が原因で死なせてしまえば、雅に破門を告げられるかもしれん。


 足元に水が広がっている。範囲は俺様達の周りよりも広い。二、三人なんてケチな数じゃないな。


「……………(準備できた。飛んでいる細々した敵を狙って)」


 ただでさえか細いオリヴィアの声が、エネルギー弾や銃声等の戦闘音でかき消えているな。


「腕四本は撃つな!! くちばしを狙え」


 しょうがないから俺様が口を出しておいた。対否の有象無象も聞くよう指揮官以上の威厳でな。


 くちばしの数は順調に減っている。


「引き付けろ!!」


 俺様達を囲むように現れた腕四本共が白兵戦を仕かけようと迫ってくる。ほとんどが罠に足を踏み入れているな。


 浅水から鋭利な銛が伸び腕四本を串刺しにする。


 悪くないぞ。十六体の腕四本が、串刺しで無様にだらんとしながら消滅していく光景は。


 処刑執行人は魚の頭をした人型。口を使わず首にあるエラで呼吸し、手足には水かきが付いている。オリヴィアが召喚した『友達』だ。


「撃つな!! 味方だ!!」


 対否の銃口が否定する者ではなく魚面に向いていたからな。先手を打っておいた。服こそ着てはいるが、頭は人間じゃないから恐怖や嫌悪を覚えるのは無理もない。


「魚は味方だ。撃つな」


 対否の無線から上司の声が聞こえた。仕事の質としては粗末だが、影森は向こうに伝えていたようだ。俺様がいなかったら、オリヴィアが友達を撃たれたと混乱していただろう。


 だいぶ雑魚も減った。どうせまた、くちばしの大量放出だろう。


 地鳴り。

 芋虫の巨体が上体を起こしたまま動き出す。俺様達の方に突っ込んでくるかと思い身構えたが、旋回して逃げた。


 観察すると、奴の地面に接している胴体部分には無数の節が左右均等にあり、それが小刻みに前後している。


「ちょっと、そっちに行かないでください。えりえり、くまゆん、ふじっちが、まだいるかもしれないんですよー」


 慌てた様子で花瑠が芋虫を追いかける。

 確か、アイドル仲間は二人なのに、出てきた名前が三つあるのは何故だ。


「能村さん!! 勝手に行かないでください」


 雅の警告が本人に届く事はない。

 敵に謝る呑気な奴だが、花瑠は味方を助ける行動を取る傾向にある。この独断はかなり焦っているな。


「雅、無駄だ。花瑠は仲間の無事を確保できん限り御せんぞ」


 反論無しで唸るのみ。俺様より雅の方が花瑠との付き合いが長いからな。思うところがあるのだろう。


「お嬢、あのデカブツを()るんじゃなくて、人間共の救助に協力でいいんですね」


「お願い」


 周囲が落ち着いたからオリヴィアと魚面共で方針の確認か。見覚えのあるアジやイシダイもいるではないか。


「はい、じゃーみなさん、あのデッカイの追いかけちゃってください。そして倒しちゃってください」


 影森が話しかけてきた。

 魚面を救助に充てる話が終わったからな。芋虫と花瑠をそろそろ追いかけるとするか。


 走る俺様と雅、後続にオリヴィアがいる。


 先行している花瑠は、約一メートルの三角形を何度か芋虫に投げつけているが、分厚い皮膚に防がれていて効果はあまり無い。


 芋虫が直進をやめてビルに突っ込んだ。


「やめてぇぇぇ」


 ベキベキグシャグシャ。芋虫がビルを破壊していく。


「止まって!!」


 なにがなんでも止めようと花瑠は三角形を投げる。雅も被害を防ごうと光弾を撃っているが焼け石に水だな。


 しかし妙だな。芋虫はビル正面に突っ込まず、ビルとビルの間を破壊し、獲物を絞め殺そうとする蛇みたいに陣取っている。


「エイっ」


 花瑠の投げた三角が芋虫のツルツルした顔面に命中する。一瞬止まった程度。やはり弱点ではないな。


 芋虫が花瑠に側面を見せる。一本でも多く俺様達にくちばしを飛ばしたい様だ。

 一斉に打ち出される大量のくちばし。


 大きくした三角形を投げただけでは大群を減らすのに足りん。

 俺様は火岩拳、雅がビームを放つ。残ったのはオリヴィアの水魔法で一掃した。

 これで合流できたな。


「能村さん、勝手な行動をしないでください」


「ごめんなさい。でも、えりえり、くまゆん、ふじっちが心配で」


 言葉だけで、花瑠の視線は芋虫が絡みついているビルの方に向いている。


「ウワァァァ、まただッ!!」


「今助けます」


 ビルの中から聞こえる男の叫びに花瑠がすぐ動き出す。

 芋虫がまたくちばしを大量に放ってくる。


「雅、俺様は花瑠と戦う」


「ちょっと」


 くちばしは雅とオリヴィアに任せるとしよう。

 一階は芋虫で塞がっているから二階部分の壁を火岩拳でぶっ壊す。


「え、ちょ!?」


 間髪入れずに驚いている花瑠との距離を詰めて捕まえる。


「ぇええッ!!」


 覇道(はどう)(じゅう)操流(そうりゅう)()()鍬形(くわがた)奥義(おうぎ)無情投(むじょうなげ)


 俺様は驚く花瑠を腰から持ち上げ、捻りを加えて放り投げる。身体能力及び今日の能力を考慮しての判断だ。

 跳んで二階に空けた大穴に入る。


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