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UnfairCity  作者: やきたらこ
二話~突然振ってかかった災難~
8/16

練習

ピンクの乗用車が着いた先は古びたアパート――但し、月雲由斗つくもゆうとの住むアパートよりは格上――だった。

「一体何するつもりだ」

 痛みに顔を歪めながら月雲は問うが、白衣の女性は答えない。

 白衣の女性は無言のまま後部座席のドアを開けた。

 月雲は促されるまま車から降り、アパートへヨロヨロと歩を進めた。



 中は薄暗く、雑多な感じだった。

 床には沢山の医学書か何かが散らかり、机の上には同様に医学書やら何やらが乱雑に置かれている。とある棚には医療で使う道具が大雑把に置かれている。

「こっち」

 ボソリと一言。言われるまま、ふらつく足で月雲は白衣の女性についていった。



 そこはまるで手術室のような内装だった。

 先ほどの部屋は(一言で言えば)汚かったが、この部屋は妙に小綺麗な感じで清潔感溢れる空気だったし、部屋の中央に手術台の如き偉容で一つのベッドが置いてあった。

「寝ろと?」

 聞くと、間髪を入れずコクリと頷く白衣の女性。

 もう、どうにでもなれ!! という思いで、痛む腹部を抑えながら横になった。



「麻酔は、今日は全身にしよう。練習したいし」

 なにやら不穏な単語を聞き取ってしまった気がする。

 天井を見つめるだけの月雲は確かめるべく首を動かそうとしたが………動かない。

(……なん……だ?…………………眠……く…………――――――)

 そこで月雲の意識は暗い水中に沈むかのように途絶えた。




 深緑のソファからばさりと芸能雑誌が落ちる。その拍子に、汚い髭面がだらしない寝顔で外気に晒された。歳は二十代後半。フケ混じりの黒髪は乱雑で整えられていないし、緑のシャツの上に白ベストなのだが着崩されている。

 見てくれからしてだらしない男――オーレイ・キリンジュは医学書の散らかる汚い部屋のソファで芸能雑誌を読んでいたが、誰某だれそれが結婚しただの不倫だのの話ばかりで早々に飽きてしまい、眠りこけてしまったのだ。そんな彼に話しかけた人物が一人。

「あら、起きたの? オーレイ」

 短めでぴっちりした黒のスカート。黄色いセーターの上に白衣という奇妙な服装で、右目の泣きぼくろが特徴の女性。

 その白衣の女性を見て、オーレイは体を起こした。

「フレイか。着いてたなら起こしてくれよ」

 フレイ・アル。面白い趣味を持ち合わせている女性だ。

「あんたが気持ちよさそうに寝てたから悪いと思って」

 そう言うと彼女はソファの隣に腰掛け、タバコを要求。

 オーレイは仕方なく胸元の箱から白い紙タバコを二本取り出し、一本をオーレイに、一本を自分の口に咥えて火を点ける。

「今回の獲物は?」

 タバコを吹かして問いかけると、フレイは彼からライターを取りあげてから親指で指し示した。

 視線を移すとそこには一人の少年が(上半身裸で)横たわっていた。高校生ぐらいだろうか。

「物好きだよな」

「実戦勉強と言いなさい」

 オーレイはフレイの行動を笑ったが、彼女の腕には舌を巻くものがある。上半身のどこかを刺されたのだろうが、どこを刺されたのか分からない。

「医師免許でも取りにいけばどうなんだ?」

「実技的なものは楽勝だけど、筆記がね………」

 つまり彼女はほとんど知識も無く―基本的な部分はある―ほとんど感覚的に手術を成功させているということだ。

(こういうのを“天性の才能”っていうんだろうな)

 ぼんやりと考えながら一度口からタバコを外す。


 その時、被害者の少年の方から呻き声があがった。

「起床の時間だぞ」

「分かってる」

 灰皿に吸い殻を入れ、フレイが立ち上がる。

 あの少年も不幸なものだな。


 もう一度横になるオーレイ・キリンジュ。その際、彼のベストのポケットから一つの手帳が落ちた。

 そこの一ページ目にはこう書かれている。


 ――――ベルエム中央警察署 

          捜査一課  課長 オーレイ・キリンジュ――――

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