日常の職場に届いた一通の連絡
今、月雲由斗は二人の大人と向かい合っている。
一人は白髪の混じった中年の男だが、老いはほとんど感じない。もう一人は、まさにキャリアウーマンといった金髪の女性だ。その髪色は月雲の傍らに立つ女の子と似通った色調だ。
(……なんでこんなことに…………………)
事の発端は一本の電話から。
時は幾ばくか遡る――――
一騒動あった後は休日だったが、その翌日の出勤は疲れた表情だった。
「ユート? どうしたお前、今日元気無ぇじゃねえか」
「いつもですよ………」
投げやりな調子で返す月雲の背中を、笑って叩いた直接の上司(親方)―ライドン・メイソン。月雲は仕事に集中します、と一言告げて資材置き場へ向かった。
(昨日たっぷり寝た筈なのにな………)
非日常からの帰還を果たした月雲は休日を桜花(ぐっすりと睡眠)した。しかし、慣れない銃撃戦からの疲れは抜けきらず、未だ体がダルい。
「おい、月雲!!」
呼ばれて振り返る。
この職場で苗字で呼ぶ奴は一人しか居ない。
「どうした、いつもと全然様子が違うじゃねぇか」
心配そうな表情で(日本語で)話しかけてきたのは、同期で歳は月雲より一個上の品川修司だった。見るからに日本人の彼と月雲は同じ日本人という特徴で意気投合し、同い年のように仲を深めていた。
「疲れ溜まってるなら家来てもいいからな」
「妹さんもいるし、大変だろ? 気持ちだけ受け取っておくよ」
そうか、と品川が言った後、遠くの方で図面とにらめっこしている上司に品川が呼ばれた。
「じゃあな、無理するなよ」
「おぅ、ありがと」
去っていく品川。月雲は溜め息を一つ、その後資材の整理にとりかかった。
「今日は俺のおごりだ。た〜んと食えよ」
涙が出そうだった。
日本料理店―但し表記はJapanese―で月雲とライドンの二人は座敷席に座っていた。
お疲れの月雲を見かねた親方は優しさMAXの顔で月雲を誘ったのだった。
お昼時の稼ぎ時店員たちが忙しそうに行き交う。
ライドンはあぐらをかくが、月雲は親方に言われ、“ジャパニーズ・セイザ”をしていた。勿論足が痺れてくるものである。しかし月雲は純粋な日本人。忠実に再現された日本料理(お刺身や茶碗蒸し)を行儀よく箸で食べていく。
「やっぱ美味いもんだな。料理も最高だ」
フォークでマグロの握りをぶっ刺して食べる、ライドンは言った。彼はかなりの親日家で、日本が大好きなのである。
「そういえばこの間、和食が世界遺産になんちゃらって…………」
勿論お寿司も箸で上品に食べる月雲、ライドンにあやふやな知識で話題提供する。
「そうだなぁ。俺も嬉しい限りだ」
そう言った彼はスープの如くスプーンで味噌汁をすくって飲んでいたが、月雲の正しい飲み方を見習って飲み方を変える。
「和食なんて凄い久しぶりですよ。ニ、三年ぶりくらいかな。祖国の味ってやつですね。懐かしいですわ」
焼き魚を箸で綺麗に食べる月雲。対してライドンは豪快に食べては骨を口から出している。
「今日はありがとうございました」
感謝の気持ちを最大限のお辞儀で表現する。勿論直角九〇度。
「いいってことよ。それより疲れは取れたか?」
「はい!! おかげ様で」
「そうか。なら午後からはこき使ってやるから覚悟しろよ」
「あっはは。そいつは勘弁ですよ」
苦笑交じりに返す月雲。その時ポケットの中の携帯が有名なアメリカのアーティストの曲を奏でた。
「何だ? エロ広告か?」
「違いますよ」
笑いつつ、携帯の画面を開く。
スライドして、メール欄を確認。どっかのアダルトサイトの広告等ではなく、アイリス・マクロウェルからのメールだった。
中々沢山の文章に若干苦戦しつつ、読み終えた月雲は溜め息を一つ。
「彼女か?」
「違いますけど、どうやら今日仕事終わってからも休めそうになさそうです」
肩を落とし、ライドンの歩く速さに合わせて付いて行く。
「そうか、女か。そりゃお前に気があるぞ」
「そんな事無いですよ」
先ほどまでは晴天だったが、太陽が暗い雲に隠れてしまった。
(アリスと関わると、ロクな事にならない気がする)
偏見だが、実体験と第一印象に基づいたものだった。
結構日本が文化が多かったのですが、私自身が日本大好きなので仕方ないですね(ノ´∀`*)