ファストフード店にて
音程の整った入店音が響く。
スマホをいじっていた店員が月雲由斗たちへ視線を向けたがすぐに手元の画面へ落とした。
「先ず座ろう」
アイリス・マクロウェルに促されるまま、一番奥のテーブルへ向かった。
「はい、これ」
素っ気ない調子で注文していた品々を渡された。
クレームの一つでもと考えた月雲だったが、アイリスの話に思考を遮られた。
「先ずは私の親から」
言うと、アイリスは両手で持ったカップのストローへ口を付けた。コーラの炭酸に弱いのか若干顔をしかめる。
「私の両親はこの腐った街の議員なの」
ここで月雲はハッと顔を上げた。マクロウェルというファミリーネーム、聞いたことがあると思っていた。議員の名前だったとは。
「お母様もお父様も議員。私の為にお金を掠め取る生活」
僅かに目を伏せ、ストローから中のコーラを吸うアイリス。やはり炭酸が苦手なのか、顔をしかめた。
「うんざりしたから言ったわ“どうしてそんなにお金の為に貪欲なの?”って。そしてら、私の為なんだって」
月雲は半分まで食べたハンバーガーを置き、ポテトを数本まとめて口へ運んだ。
「私の為ならもうやめて、この街を良くするやり方を考えてって伝えたの。でも、全然聞く耳を持たなくって。母さんも父さんも、お金しか見てない、私の事なんて」
アイリスは無意識のうちに両手へ力を加えていた。段々と変形するカップ。それを握る両手を月雲は優しく包んだ。
「大丈夫、アリスの両親とはまだ解り合える時間がある。だから諦めちゃ駄目だ」
「………ユート?」
キョトンとした表情のアイリス。
月雲は自分の口から出た恥ずかしいセリフにはにかみながら、ハンバーガーにかぶりついた。そして話を逸らす。
「でも、襲ってきたあいつらはなんなんだ?」
銃を使って襲ってきた連中を思い浮かべ、月雲は質問を投げた。
「あいつらは恐らく、母さんと父さんと敵対する議員が仕向けた刺客ね。多分ハーヴェルトや、ミストの差金だと思うわ」
段々と語尾も変わり、饒舌になっていくアイリスをポカンと見つめる月雲。
「どうしたの?」
軽い調子で問いかけられ、慌てる月雲だったが答えを返す。
「いや、最初あんまり喋らない奴なんだなって思ってたけど結構喋るんだなって」
言われたアイリスは僅かに頬を赤らめ、プイッとそっぽを向いてしまった。
「う、うるさい」
怒った彼女も可愛いと思った自分もいた。月雲はゴメンと一言、そしてハンバーガーやポテトを食べる手を進めた。
色々話した。他愛も無い世間話といったどうでもいい話だ。
「それじゃ、またね」
手を振るアイリス。
振り返す月雲。遠ざかっていく少女の背中を見つめていた。
(不思議な体験だったな)
ぼんやりと思っていたのも束の間。彼女はコチラへ振り返り、走ってきた。
息を切らしながらアイリスは言った。
「……ユートの………連絡先……聞いてなかった………………」
「そんな事かよ」
言いつつ、ポケットから携帯を取り出した。
「ほい、」
連絡先を交換し終えた後、彼女は先ほどと同じく、走って行ってしまった。
「明日が休みでよかった。ゆっくり寝てよう。すっげぇ疲れた」
肩を落として自分のボロアパートへ帰る月雲由斗だった。