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UnfairCity  作者: やきたらこ
三話~偶然から知る事件~
10/16

拾ったモノは爆弾だった

 仕事を終え、ボロアパートへの道を歩く月雲由斗つくもゆうと

 そんな平和まっただ中の彼だが、とあるモノを道中で拾った。


「なにこれ?」


 ソレは黒の四角い形で、幅一センチ、長さ四センチ程度の小さい直方体だった。

 月雲は反射的に辺りを見回す。ほとんど通行人もいなかったため、落とした人が誰かはすぐに察しがついた。

 壮年のスーツの男が黒いビジネスバッグを持って歩いていたのだ。

「すいませ~ん、落としましたよ~」

 月雲の呼びかけ虚しく、壮年の男は停めていた黒セダンに乗って、さっさと発車してしまった。

「ま、いいか」


 ソレ関連の機器は持っていない月雲だが、この程度の常識は分かる。

「USBメモリだよな? あとでアリスにでもあげようかな……」

 失礼極まりないし、他人の物だが、落とし主と連絡はつかない。故に有効活用出来るならそれに越したことはないのである。

「だいぶ、この街にも慣れたもんだよなぁ」

 基本、交番に届けた物はそこの担当の警官の物となる場合が多い。それなら拾った本人が使うこともあまり大差ない。




 月雲は後日、マクロウェル宅に訪れた。出迎えてくれたのはアイリス・マクロウェルだ。

「あ、ユート。いらっしゃい。くつろいでいってね」

 勝ち気そうな目、引き締まった口元に高めの鼻。そして輝くような流れる金髪を後ろでまとめてポニーテールを作っている。スタイルの良い体がまとっているのは、センスの良いデザインが描かれているTシャツの上に黒い革製の上着、同じく黒い革製の短いスカート、ブーツも長い黒だ。アイリスのその風貌は絵に描いたような美しさを備えていた。

「お邪魔しまぁす……」

 以前あった出来事を思い出し、こっそりと入る。アイリスに案内されるまま、邸宅を進んだ。


「散らかっててゴメンね」

 通された部屋はアイリスの自室だった。白が基調の部屋を“汚い”とアイリスは言うが、十分綺麗だし、月雲の部屋よりも断然大きい。

「てきとうに座って」

「あ、あぁ……」

 圧倒されつつ、かろうじて答え、テレビ前のソファに座った。甘く良い香りが鼻腔をくすぐった。


「何する? なんか映画でも見る?」

 月雲の家では決して見れない魔法の箱と、薄い液晶が置いてあるデスクの回転椅子に座ってアイリスが問いかける。

「いや、英語ばっかりだとあんまし雰囲気伝わらないから……」

 実際これは本当だった。月雲の頭で理解出来るのは日常会話までである。映画の雰囲気は日本とは違うのであまり慣れず、移住してから映画やドラマなどほとんど見ていない。

「日本語でも私はオーケーだけど……」

「いいって、大丈夫…………それよりこれ……」

 言ってGパンのポケットから取り出したのは黒いUSBメモリ。

「なにそれ?」

 キョトンとした目でUSBメモリを見つめるアイリス。

「拾ったんだけど、俺こういうの使わないし、アリスは上手く再利用出来るだろ?」

 それを聞いたアイリスは顔をパァッと輝かせ、

「ちょうどよかった!! 今度、記録媒体を買いに行こうと思ってたところだったの。ありがたく使わせてもらうわ」

 喜んでもらったようでなによりだ。

 月雲はアイリスの細く透き通った手にUSBメモリをちょこんと置いた。


「さっそく中身を確認して、使えそうなら使わせてもらうわ」

 デスクに向き直り、魔法の箱の電源を入れ、キーボード(無線)を取り出す。薄型のモニターに光が灯り、つらつらと英文が流れていく。

 アイリスはデスクに置いたUSBメモリのキャップを取り、魔法の箱の穴に挿した。


 ポロン、という聞こえの良い音と共に、モニターにUSBメモリのプロファイルが表示される。月雲も立ち上がり、アイリスの肩越しにモニターを覗き込んだ。

「結構な量入るわね…………あっ!! でも、ほとんど資料ファイルで埋まってる。一回開いて確認してみましょうか……」

 マウス――勿論無線――を巧みに操り、次々と資料ファイルに目を通していくアイリス。その様子に月雲は舌を巻く。


 いくつかのファイルを開いたところでマウスを操る手が止まった。

「なに……これ……」

 そこには、とある議員の汚職の履歴と予定が記されていた。

「なぁ、これって――」

 月雲の言葉は最後まで続かなかった。アイリスがデスクを叩いた音でかき消されたのだ。

「こんなの……許しておけない!!」

 アイリスは勢いよく立ち上がり、扉を開けた。その拍子に回転椅子が倒れるが、気にしていないようだ。

「お、おい!?」


 月雲は色々となにかを準備しているアイリスを見た。そこには、短いスカートをたくし上げ、――もう少しで可愛らしい(だろう)布が見えてしまう――細いベルトで白い太ももにホルスターを巻きつけていた。

 巻きつけると、手の平に収まるほどの小さな銃を入れる。黒い革製の上着の内側にも、このあいだ見た、黒光りする連射小銃(UZI)をしまっていた。

「何するつもり?」

 月雲が問いかけると、アイリスは当然のようにこちらへ同じサブマシンガン――先日アイリスに教えてもらった――とピストルを手渡してきた。

「止めに行くのよ。今夜に政治家とギャングの麻薬取引が行われるわ」

 二丁の銃を受け取った月雲はアイリスの意見に真っ向から反論した。

「無茶だ!! 俺たちだけで止めるなんて……警察にこのUSBを持っていけば――――」

 だが、その発言もアイリスに遮られる。

「こんなことに警察は動かない!! ましてやこの政治家は、警察を影で操ってるとかの黒い噂があるのよ!!」

「駄目だ。せめてアイリスの父さんや母さんに――」

「母さんや父さんを待ってたら手遅れになる!! ユートが来ないっていうなら私だけでも行く!!」

 アイリスは踵を返し、部屋を出て行ってしまった。


 月雲は溜め息をついて、後頭部を掻きながら、

「お前が心配なんだよ…………一人で行かせられるワケないだろ……」

 誰に語るでもない独り言を残し、月雲はアイリスの後を追った。

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