第1ミッション 掃除せよ
「はぁ~」
薄暗い部屋で明かりは、パソコンにモニターの光だけ。
さっきパソコンをつけたばかりだから、まだ起動画面で手元が見える程度の明かりしかない。
ブルーライトを気にして、部屋の明かりをつければいい話だけど、なんとなくこのままがいい。
デスクトップ画面に移行し、カタカタとまだパソコンが動いているのでマウス操作はしない。
ようやく動作音が落ち着いてきた所で、今やっている9年前にリリースされた2DタイプMMORPGのアイコン上でカーソルを合わせ、ダブルクリック。
ゲームが起動されるのを待つ。
「古いんだよな、僕のパソコン」
親に買ってもらって2代目となる僕の愛パソなのだが、6年ほど前に購入したせいで、多分いろんな”ごみプログラム”が溜まってたり、ハードディスクにも磨耗があったりで、動きが遅い。
必死にカタカタと動くパソコンをそろそろ買い換えたいと思っているが、それはできない。簡単な理由だ。お金がない。
バイトにいける年齢ではあるが、僕は・・・。
それは置いておこう。
理由を考えただけで胸が苦しくなり、頭痛がしてくる。
今はゲーム内の仲間達と楽しいチャットと狩りができればいい。
気持ちをゲームに持っていくと、モニターが暗くなりやっとゲームに繋がると前のめりになる。
しかし、5分待てど、その画面からゲーム画面に切り替わろうとしない。
「いつもなら、もうとっくにログイン画面が出ててもおかしくないんだけどな」
いくら遅いパソコンを使っているとはいえ、ここまで時間がかかるのは、壊れたかとちょっと怖かった。
今オンラインゲームが僕からなくなってしまったらと思うと非常に怖い。
仲間との繋がりがなくなってしまいそうで・・・。
「え?」
ようやくモニターに映し出された表示を見て、僕は疑問の声を上げる。眉毛をしかめて目を凝らしてよく見る。
”神様からのミッション1”
と表示されており、その下には
”速くここをクリックしないとPCが壊れちゃうぞ”
と書かれていた。
ウィルスにかかってしまったのかと、ウィルスバスターをフリーソフトにしていたのを悔やんだ。
「このフリーソフトはネット上では非常に優秀だと言われていたのに」
ため息しか出てこない。
パソコンの中には秘蔵のお宝映像もあり、ハードディスクをクラッシュさせられてしまっては、もう見れなくなってしまう。
それにオンラインゲームのアカウントとパスワードも、メモ帳で保存しているだけで、紙ベースで残していない。
色んな事が悔やまれる中、”クリック”と表示された部分がだんだんと速く点滅し始める。
「だめもとだ!」
”クリック”にカーソルを合わせ、マススの左ボタンを押す。
パンパカパーン!という効果音と共に、またモニター中央に文言が表示される。
”PCが置かれた机の上を片付けなさい”
その下に
”タイムリミット1時間 レディゴー!”
と表示され、え?と顔をしかめる。
さらに画面が切り替わり59分59秒と表示され、カウントダウンが始まる。
「ちょ、ちょっと何これ?!」
よくわからないが、どうやら僕のパソコンが置かれている机の掃除をしなさいということらしい。
確かに、お菓子の箱やその中に入ってる開けられた残りかすが入った袋、それ以外にもポテチの残骸袋などあり、正直すごい汚い。
「片付けるか」
立ち上がり、部屋に常備しておいた45リットルのゴミ袋を広げて、その中にごみを入れていく。
小さなごみはティッシュで包み、最後にパソコンのほこりもティッシュで拭いてごみ袋の中へ。
僕は意外と凝り性で、一度やり始めたら、徹底してやるほうだ。
本当は雑巾で拭き掃除もやりたいのだけど・・・。
まぁいいか。気がつけば画面の表示は残り1分。
危ないと思いながら最後にゴミ袋の頭を閉めて、パソコンの前にある椅子に座りなおす。
すると。
”ミッションこんぷりーと!”
と画面いっぱいに表示され、ドンドンパフパフなどの効果音と花火などのエフェクトが表示される。
なんともいえない顔でそれを見ていると、また画面が切り替わり。
”あなたに小さな幸せが訪れますよ”
と表示される。
「小さな幸せ?」
特に体に変化はない。
なぜか右腕を上げて沸き汗なども確認してみる、いつもどおりだ。そして服にも特に変わった様子はない。
もし服に変化があればそれは小さな事ではなく劇的な事だなと、思いなおし最後に行き着いたのは目の前に広がる綺麗な机。
「確かにちょっと幸せかも」
よくわからないが、片付いた机を見てなんとなく満足した僕は、よくわからない出来事にまぁいいかと心にしまいこんで、次に表示されたいつものログイン画面にほっとする。
ゲームにINした僕は、ギルドのメンバーがまだINしてない事で、どうしようかと悩む。
「そういえば、今日ガチャの更新日だった」
今日行われたゲームメンテナンスでアイテムガチャが更新されている。
ガチャ画面を開くと、Newの文字が光っていた。
「よし今日こそはゲキレアを当てて見せるぞ」
今までゲキレア装備なんて当たった事なんてない。
ギルドのメンバーはみんな、結構いい装備当たってたりするのに、僕だけ何回回しても、即効回復POT10個セットなど正直いらないアイテムしか当たらない。
しかも伝説的ネット掲示板のスレッドには、今日のアイテムガチャは乱数制御されており、絶対にゲキレア剣装備+15なんて当たらないということだった。
親からもらっているなけなしの、お小遣いを使って課金したばかりの1000円で絶対当ててみせる。
「神様仏様、当ててください!」
左クリックと共に、アイテムガチャのコインエフェクトが発生。
両手を組んで、見守る中、ぱぱらら~~~と大きな効果音と共に、画面に+15の剣が表示される。
思わず立ち上がり叫び声をあげる。
「うぉーーーーーー!!マジデすか!!!やったーーー!!」
喜びと共に急に立ち上がった事で、机に膝をぶつける。
「いでーーー!!でもよかった」
しっかりとアイテムBOXに当てた商品が入っているのを確認し、満足した僕はにやにや顔で、チャット欄に流れてくるレアアイテムが当たったときだけに、表示されるキャラネームのせいで送られてくる見ず知らずのおめでとうログと、売ってくれログを眺めながら、あれ?っと思い始める。
「小さな幸せってこれのこと?」
僕にとってそれは小さな幸せではなく、大きな幸せをくれた神様に感謝していた。