3-2
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今日は朝から体調が優れなかった。目覚めた時に昨日とは違うと感じ、体が重たいことを知った。高く昇っている太陽の光を浴びながら眩しさに目を細める。秋晴れの空は抜けるように青く、今も昔も空の高さは変わらない。
どうかと願ったのが、間違いだとは思っていない。目的は遂げた。他に生まれたものは、告げることなく持って行こう。それがこの小さな想いから派生したものでも、この身には過ぎる。抱えることも許されないようなものなのだから。
あなたはいつも、優しかった。その優しさが本物だと、会う度にわかった。それがあったから、この命を犠牲にしても会えて良かった。みんなと違う一生を、後悔しない。
空の青に、白い真昼の月が浮かんでいた。
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やはり、何もない。
虹也は森を抜けた先に病院も民家のようなものもすぐ其処にはないことを知った。秋羽は此処にはいない。森を指差したのに特に意味はないか、記憶が錯綜しているか。何処か掴みどころがないような、本当のことは何ひとつとして知らされていないような、そんな気がした。
此処にいてもどうしようもないと思い、虹也は踵を返してまた森の中へ戻る。陽が傾いており、完全に暗くなる前に森を出た方が良いと判断したからだ。深い森ではないし、幼い頃から虫捕りや釣りに訪れて親しんでいる森なので迷う心配はないが、気温が下がる。万全とは言えない体調の虹也が長く留まる理由はなかった。
サクサクと落葉した枯れ葉を踏みしめて虹也は元来た道を戻る。先日の雨とあまり陽があたらないことから土と葉は湿っており、ぬかるんでいる部分もあった。
「ん?」
虹也はふと足を止めた。傾いた陽の陰になる森の暗で、ポッと何か光ったような気がしたからだ。目を凝らしてみれば草むらで青白くまた何かが光る。草のまだ緑の部分を反射して少し緑がかった光を灯していた。
「何だ……?」
そちらに足を向ければ、虹也がよく釣りを楽しむ小川があった。夕陽が水面を照らして一部オレンジに染めている。その周囲の草むらが時折、明滅していた。そっと覗き込んだ虹也は小さく声をあげた。
「……ホタルだ……」