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――いない。
虹也は今日一日で五度は覗いた児童公園をまた覗く。だがブランコにも、ベンチにも、ジャングルジムにも、シーソーにも、秋羽の姿はない。町内の疾走は病み上がりの体に鞭打つようなもので、虹也の息はとっくにあがっていた。
秋雨はあの日だけで、翌日からはまた秋晴れだった。青い空の下を駆け回りながら虹也は汗まみれになり、また風邪をひき直しそうだと苦笑を零した。刺すようになってきた空気を吸い込み肺を冷たい空気で一杯にしながら、虹也は公園内をきょろきょろと見回す。だが何度見ても、何度訪れても秋羽の姿はない。
秋羽を見送った後、洗濯をしようと家の中に戻った虹也は、秋羽が着ていた服を見つけられなかった。持って帰ったのだろうかとも思ったが、秋羽は手ぶらだった筈だと思い直し何度も何度も首を傾げた。その後ぐっしょりと冷たい雨にあたった上に、すぐに体を温めなかった虹也は風邪をひいてしまい、二日間寝込んだ。熱もひき、健康とは言えないが回復した虹也は服のことを訊こうと、秋羽を探している。結局、今でも秋羽が着ていた筈の服は見つからず、その間会ってもいない。
あの雨の日に公園にいたことから、今日も児童公園で時間をつぶしていると虹也は思い込んでいた。だが、何処にもいない。
何処に行ったのかと虹也は探し回ってみたものの、秋羽のことなど何ひとつとして知らなかったことを思い知らせるかのように、結局はこの児童公園に戻ってきてしまうのだ。
何も、良いではないかと虹也の心は囁く。別に何が何でも今日会わなければならないわけではなく、また別の日に此処で会えば良いだけだ。そして服のことを訊いて、もしも虹也が失くしてしまっただけなら謝罪して新しい服でも何でも買って許してもらうしかない。
しかし、嫌な胸騒ぎを覚えて虹也はこうして何時間も秋羽を探している。今日を逃せば二度と会えないような、もう秋羽が二度と姿を現さないようなそんな気がしている。
「秋羽さん……」
虹也は秋羽の名を呟く。そうすれば秋羽が現れるような気がしたからかもしれない。あのにこにことした満面の笑顔で、虹也、とひょっこり現れるのではないか、そう思ったのだ。だが秋羽は現れない。虹也は公園のベンチに腰を下ろして深く息をついた。
秋羽が何処に住んでいるのかも、虹也は知らない。あっち、と森の方を指差されただけだ。行くしかないか、と虹也は顔を上げて森の方に視線を移す。抜けた先に病院でも民家でもあるかもしれない。
ベンチから腰を上げて虹也は森の方へ歩いて行った。