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 虹也(こうや)はそろーっと首を伸ばして泉公園と名のついた児童公園を覗く。其処に虹也に最近つきまとって三日目になる謎の少女はいない。


「よっしゃ」


「こんにちはー」


 耳元でした少女の声に小さくガッツポーズをしていた虹也は、うひょわおぇ、と自分でもどうしてそんな単語を選んだのか、そもそも単語なのかも判らない言葉を発して文字通り飛び上った。


 虹也が振り返ると細い絹のような黒髪を背中まで伸ばした少女が満面の笑みで其処に立っていた。

 ぱっちりした二重の目、日差しに当たっても焼けないのであろう白い肌、平均よりも背が低い虹也よりも小柄で華奢な体、何よりも無邪気そのものの表情を浮かべた少女が虹也を見て嬉しそうに笑った。


 一見すれば可愛い少女はだが、虹也につきまとう。虹也ととても話したそうにする少女に付き合ってしまった初日は、日が暮れてもなかなか帰してもらえなかった。虹也は明日も来るからと言ってその場を逃れたが、少女は不満そうな顔をしたままだった。


「ねぇねぇ、少しお話しよ?」


「しない」


「ちょっとで良いの、ホントにちょっと」


 そのちょっとがちょっとではないから、昨日は振り切るようにして逃げたが、虹也の胸は痛んだ。元々、虹也は人の頼みを断れない性格だ。純粋そうな彼女の頼みを無下にしたことを、昨日の夜から気にしていたから、今日もこの公園の前を通ってしまった。


「ねぇ、虹也、虹也のこと知りたいの」


 虹也は眼鏡の奥の目を眇める。虹也は特に特徴もない地味な顔だし、スポーツが得意な訳でも勉強が得意な訳でもない、目立たないただの男子高校生だ。これといって異性に人気があった記憶もないので、そんなことを言われてもどうすれば良いのか反応に困ってしまう。からかわれているだけじゃないのかと、周囲をきょろきょろと見回したりもした。


「ぼくのことなんて知っても、なんにも面白くないよ」


 虹也がそれとなく拒んでも、彼女には関係ないようだ。ふるふると小刻みにかぶりを振ると、彼女は眩しいような笑顔を浮かべ無言で否定する。


「――秋羽(あきは)さん」


 彼女の名を呼んで、虹也は彼女――秋羽――を正面から見つめた。秋羽は軽い記憶障害を起こしているのだと虹也は思っている。自分の名前さえ秋羽は咄嗟に出てこなかったからだ。名を訊いた時も虹也が名乗り、君の名前は? と訊いて初めて彼女は秋羽だと名乗った。一日中、虹也と同じ年くらいなのに学校に行っている雰囲気もなく、公園にいられるのも、療養中だからだと。


「ありがとう」


「へ?」


 虹也が何か言うより先に、秋羽が笑顔でそう告げた。がくり、と肩を落とし虹也は困惑した表情で、絆創膏を貼った右の頬を右手の人差し指で掻いた。先日、釣りに行った際に川を汚したまま帰ろうとした大人達を注意したら殴られて少し切ったところだ。治りかけているからか、少し痒い。


「だから、昨日も一昨日も言ったけど、秋羽さんにお礼を言われるようなことなんて、ぼくは何もしてないよ」


 虹也がそう言えば決まって秋羽は、きょとんとした顔をした。きょとんとしたいのは虹也の方だ。何故、秋羽が虹也にこうも絡んでくるのか理由が解らない。


「してるよ」



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