エピローグ
神無月も終わろうかという頃、虹也は泉公園と名のついた児童公園の前にまた佇んでいた。すっかり秋めいて冬が到来しようとしている今時季、マフラーに手袋をして虹也は制服のポケットに手を突っ込んでいる。
吐く息はまだ白くはならないが、冷え込む朝は度々、霜が降りるようになっていた。通学路にあるこの公園を、虹也は何ともなしに目をやる――それが日課にすらなっていた。
しかし其処に、ジャングルジムの天辺で足をぶらぶらさせる少女はいる筈もなく、虹也は息をついて家路を辿る。それを幾度も、繰り返してきた。そして今日も、虹也は公園の前で足を止め佇んでいる。
あの一週間が本当のことだったのかすら、疑うこともあった。夢を見ていたのではないか。誰も彼女を目撃していないことから、そう思いそうになることもあった。
だが姉の部屋からワンピースは確実に消えており、それを怪訝に思う者は虹也の家には誰もいなかったが、その意味を虹也は確かに知っている。確かに彼女は、存在したのだ。そして目の前で、光となった。
公園内は閑散としており、少子化が叫ばれる現実が其処にはある。がらんとした公園で動くのは風に揺られるブランコのみで、人っ子ひとり、猫の子一匹いない。虹也は視線を外すと体の向きを家路に変えた。
重たい足取りで、一歩、前に歩き出す。思い出がある公園を立ち去りがたいのか、辛くて長居したくないのか自分でも判らないまま、虹也はまた息をついた、その時。
「こんにちは」
声をかけられて、虹也は足を止める。
「神様が、此処を去る前に私に命を与えてくれたの。誰かさんが、強く祈ってくれたんだって」
虹也が振り返る前に声をかけた人物は喋り出す。
「会いたくて、戻って来ちゃったよ。
ただいま、虹也」
虹也は信じられない思いで後ろを向く。
虹也が其処にいた人物を認識するより早く、長い黒髪が揺れた。
Fin.




