4-2
虹也は二の句が継げないまま秋羽の顔を見つめていた。秋羽は苦しそうに浅い呼吸を繰り返す。虹也が秋羽の話を信じようが信じまいが、秋羽の命は本当にもうすぐ尽きてしまうのだろう。変わった一生を望んだ秋羽は、生きた証もないまま多くの仲間に見守られながら、淡い光の中に消えていこうとしている。
「……虹也」
秋羽が小さく笑い声をもらして、虹也の目元をその細い指で拭う。虹也は霞んだ視界に秋羽の表情がよく見えない理由を、それで知った。
「私は小さなヘイケボタル。泣かないで、長くは生きられないものだから」
秋羽の言葉に我に返って虹也は秋羽を責めるように捲し立てる。
「そんな、そんなことって、ないよ。どうして突然やって来て、突然いなくなろうとするの。いきなり声かけて来て、ありがとうなんて言って、毎日毎日、鬱陶しいくらい構って来て、かと思ったら雨の中ずぶ濡れでいたり、反応なかったり、いつもの場所にいなかったりする。無遠慮なくらいぼくの生活の中に入り込んでおきながら、勝手にいなくなろうとするなんて、そんなのないよ」
ごめんね、と秋羽は呟いた。謝ってほしいわけじゃないんだ、と虹也は言い募る。そうじゃない、でも、何と言って良いのか、判らない。
「虹也、虹也に会えて良かったよ」
そっと虹也を包むように秋羽が虹也の溢れる涙を拭いながら言う。気付けば、虹也は秋羽をぐっと引き寄せていた。虹也の周りでもホタルが舞う。
「行かないで」
素直に、虹也の唇から言葉が零れた。嗚咽に震える虹也のそれが伝染したか、秋羽の体も震える。秋羽の目尻からも雫が流れるが虹也には見えない。
「何処にも、行かないで」
秋羽は何かを堪えるように、辛そうに空を見上げ、固く目を閉じた。ぐいっと虹也を引き剥がして、秋羽は泣きながら笑う。
「ありがとう、虹也」
秋羽の体に纏わりついていたホタル達が一斉に飛び上がった。星の瞬きのようなそれは眩しく、秋羽の体を包む。秋羽の体が、ひとつひとつ小さなホタルに分解されていく。
消えていく秋羽に、虹也は喉が裂けんばかりに叫んで引き留めようとしたが、空しく宙を掻くばかり。掻き抱くように光を掴もうとしても、ホタルは虹也の腕からすり抜けて行く。
頼む、どうか、どうか彼女を……。
見開いた虹也の目に、秋羽の姿は映らない。もう、いない。ホタルの光になって彼女は消えてしまった。
「――っ!」
固く握りしめた拳を地面に叩きつけて、虹也は土を涙で湿らせる。ホタルは落ち着きを取り戻し、やがてぽつぽつと地面に降りたが、虹也はいつまでも其処を動けないでいた。




