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68話:3章 結末

 初めてリヴァイアサンと対戦した時から一週間、予告の日になりました。

 準備はすでに万端……と思いきや、わたしは宿の裏で穴掘っていたりいます。


「忘れてたんですよ! 綺麗サッパリ!」

「なんで私まで穴掘り手伝わされてるわけ?」


 一緒に穴掘ってるベラさんが苦情を言っています。

 いいじゃないですか、あなたは元々余剰戦力だったし。


「宿の中の配置はすでに決まってましたし、いいじゃないですか。それにこの穴掘り作業は大事なのです」

「なんなのよ、これ」

「お風呂です!」

「はぁ?」

「正確には『後で露天風呂に使えるなら、裏に穴掘っていいよ』と、宿のご主人に言われたので」

「で、これはなにに使うわけ?」

「お風呂ですよ?」


 わたしの答えに再度首を傾げるベラさん。そういう仕草は可愛いのですね。

 バーヴさんに見せてあげればいいのに。


「大体なんで私が余剰なわけ? 中で対応した方が良くないかしら?」


 彼女の危惧も、まあ妥当でしょう。

 現在の配置は、わたしたちの部屋には完全武装したハスタールが。隣の部屋にはベラさんを除いたフォレストベアと、イーグが待機しています。

 そして裏庭ではわたしとベラさんが穴掘り中。


「おっと、ベラさん。そこは配水管に使うので余り掘り過ぎないように」

「あ、ゴメン……」


 わたしが魔術で大雑把に穴を掘り、ベラさんとシャベルで細部を調整し、最後に表面を焼き固めてコーティング。

 重いシャベルはわたしには持て余し気味で、早くも腰に来てます。

 ふと月が翳ったような気がして空を仰ぐと、()()()()()夜空が広がっています。


「……来ましたかね? これは急がないと」

「だったら部屋に!」

「こっちの方が重要なのです」


 焼き固めた浴槽に井戸から水を汲み上げ、水の流れを確認します。

 問題が無いとわかれば水弾の魔術を使い、一気に水を張り、熱球をブチ込んで湯を沸かします。

 本来はポンプを使って水を汲み上げ、薪で湯を沸かす仕組みなのですが、今は時間が惜しいのでショートカットです。

 そうこうしてると、宿の部屋から奇声が発せられました。


「ふはははは! 怪盗リヴァイアサン参上である! 部屋を変えた程度で誤魔化される私では無いのだー!」

「来やがったか! おい、行くぞ!」

「アギャー!」

「お前は邪魔だからどけ、チビ!」


 隠密行動できる技があるのに、なんで盛大に名乗りますかね? 馬鹿なの?

 騒々しい部屋からドスンバタンと、暴れる音と埃が立ち、たまにブレスが窓から飛び出していきます。

 隣の部屋の窓からハスタールが顔を出し、こちらを確認。わたしも一つ頷いて返します。


「ここで捕まえる事ができれば一番楽なんですが」

「何してるの、早く戻らないと!」

「まだ我慢です。しばらくはここで待機です」


 リヴァイアサンの目的はイーグ。ならばあの子には危害は加えないはず。

 もし素材にする目的だったとしても、幼竜では鱗も固まっておらず値段はそれほど付きません。

 数年は飼育しないと、わりに合わないでしょう。


「それに……レヴィさんがイーグを傷つけるとは思えないのです」


 初めて会った時、人懐っこくイーグを撫でてたあの表情は嘘では無いはず。

 しばらく騒動が続いた後、ボフンと部屋から紫色の煙が立ち上りました。


「やはり薬を使いましたか」

「薬? 危険なものじゃ――」

「いえ、多分眠り薬でしょう。今までの逸話からしたら、あれで自分も眠ったりしても、おかしくないのですが」


 イーグを無力化する上で、もっとも効率がいいのは眠らせることです。

 古来より、ドラゴンは眠らせた後に奇襲することで倒される逸話が沢山ありますし。

 そして窓からイーグを抱えたリヴァイアサンが飛び出してきました。


「さすがに無かったですか。さて、追うとします。ベラさんはここでハスタールを待っていてください。そのために彼を別室に待機させたのですから」

「ヘ? ええ、わかったわ」


 わたしはベラさんに指示を残し、リヴァイアサンを追って夜空に飛び出しました。



 夏の生温い空気を切り裂くように、夜空を翔ける。

 まるで『アニメのワンシーンみたい』と苦笑しながら、前方の怪盗を追います。


「さあ、第二ラウンドですよ、リヴァイアサン!」

「ム、来ましたねユーリちゃん。だがすでに勝負は付いてます!」


 イーグを抱えたまま大きく旋回し、開いた手でなにかをこちらに投擲する彼女。

 わたしは減速して警戒し、その前方で幾つもの煙幕が炸裂します。


「煙幕弾! こんな物まで用意していたのですか」


 幾分芝居がかった口調でそんなことを叫んでみます。

 逃亡するんだから用意しててもおかしくないのですけどね。ここは乗ってあげないと。

 害が無いとわかれば突っ切るのみです。煙幕を突っ切ったわたしは、その向こうにリヴァイアサンの姿を――見つけられませんでした。


「っ! どこに!?」


 ここで見失うのはさすがに不味い。あまりにも()()()()

 イーグに仕掛けた発信の術式を探知の魔術で探し出して、後を追います。


「あれ、解除されてない?」


 彼女も魔術の神才を持つなら、発信の仕掛けはすでに見抜いているはず。

 なのに解除もせずに逃亡するなんて、後を追ってくれと言わんばかりです。


「どういう意図があるんでしょうね?」


 とにかく、『アレ』に頼らず後を追えるのはありがたいです。

 彼女はどうやら、街の排水溝から港方面に向かっている模様。あちらには倉庫が沢山並んでいましたね。

 この街は海沿いだけあって、大波対策に大規模な排水施設が設置されていると聞いてます。それを利用しているのでしょう。

 空を飛ぶ利点を利用し、何度か先回りをして移動を妨害し時間を稼ぎます。


 そして、充分に時間を稼いだと判断した時、わたしは彼女を見失いました。



「といっても、発信を解除していない以上、跡を追うのはたやすいのですが。本当に何を考えているのやら」


 倉庫街の一角に身を潜めながら、疑問を口にします。

 発信は未だに継続的に反応を返し、また『アレ』の反応もあるので、目の前の倉庫に潜んでいるのは間違いないでしょう。

 そして後続のハスタールたちも追いついてきました。


「待たせた、ユーリ」

「いえ、ジャックさんたちは大丈夫だったです?」

「予想通り、睡眠薬の煙幕だったな」

「ドラゴン退治には眠り薬が定番ですからね」

「なんだよ、知ってたなら教えといてくれよ」


 イーグは物じゃないです。そんな相手を盗むとすれば無力化するしかない。

 生かしたまま盗むなら、麻酔か睡眠薬を使うくらいしか思いつきませんでしたし。


「むしろ、なぜ気付かなかったのかと聞きたいです?」

「ぐぬぬ」

「それでハスタールさんを別室に待機させていたのね」


 少し紅潮した表情のベラさん。いいからハスタールの傍から離れなさいよ、彼氏持ち。


「そろそろ大丈夫だと思うので。ハスタール、お願いします」

「ああ、行ってくる」


 倉庫に、堂々と正面から歩み寄る彼。

 もちろん中から(うか)がっているのなら、これも気付かれているでしょうが。


 しばらくして、彼はイーグを抱えて出てきました。

 彼は扉を開け、送風の術を使って換気。そしてそのまま、宿の方へ向かって飛び去っていきます。


「お、おい、いいのか?」

「いいんですよ」


 彼が居なくなった後、わたしたちは倉庫に突入しました。

 中には――発情して悶えるリヴァイアサンが一人。


「はぁ、はぁ――なんやの、これぇ……」

「うおぉ!? なにこの天国!」

「こりゃ目の毒だな」


 悶えるリヴァイアサンに興奮するジャックさんとケールさん。

 これだからデリカシーのない野郎共は!

 いや、わたしも少々、あまりの色っぽさに目を奪われましたが。


「オークの体液をイーグの鱗に仕込んで置いたんですよ」

「なんで、そんなモン持ってるんよ!?」

「研究の必要性に駆られまして」


 そう、わたしとベラさんという『女性陣』をイーグから引き離しておいたのは、この体液の影響下から逃れるため。

 時間稼ぎしたのは、逆にリヴァイアサンをその影響下に置くためです。


「じゃあ、あのお風呂は?」

「イーグを丸洗いするためのモノですよ。室内のお風呂だと、匂いが篭って酷いことになるのです」

「なんだか経験ありそうな話ね?」

「スゴカッタのです」


 ええ、まさかこのわたしが、男性を押し倒してしまうとは思いませんでしたとも。おっと、それは置いておくとして!

 わたしは手早く彼女に拘束具を取り付けました。ついでにギフト封じの足枷もセットします。

 すると、認識できなかった彼女の顔が、レヴィさんのそれと一致します。なぜ気付かなかったのかと、疑問に思うくらい。

 これが認識阻害のギフトの効果なのですね。


「とにかく、ベラさん。彼女に解毒の術を。このままだと話も聞けません」

「そうね、男性陣の目の毒だし?」


 彼女のその手は、こっそりバーヴさんのお尻を抓っていました。

 意外と嫉妬深いのですね。


「男性陣も外に出るのですよ。ほれほれ」

「えー、いいじゃんもう少し――」

「風弾」

「うおぉ!? いってぇ!」


 威力を弱めた風弾の魔術でベシベシ折檻しながら男性陣を追い出しました。

 その間にベラさんが解毒を済ませてしまいます。

 ついでにわたしとベラさん本人も解毒してもらいました。

 残り香とはいえ、この体液の効果を利用して後を追ったのですから、少しばかり危険だったのです。

 まさか体液に当てられて少々興奮していたなんて、知られたくないですしね。


「ふぅ、これは本当に危険なシロモノね」

「でしょう? 冒険者ギルドのオークの危険レベルはもっと引き上げるべきだと、わたしは思うのですよ」


 ベラさんも表情から赤みが消えて、いつものクールビューティに。

 でもきっと、今夜はバーヴさんがタイヘンな目に遭うのでしょうね。


「あいつらが馬鹿だから事無きを得てるけど、これ女性じゃ対応できないわよね」

「今のうちに防毒マスク的なモノを開発しておいた方がいいのでしょうかね?」


 女性としてそんな危険性に身を震わせていると、間の抜けた声が響きました。


「ふえぇ、もうお嫁に行かれへんやん~」



 どうやらリヴァイアサンも正気を取り戻したようです。

 さて、宿に戻って尋問タイムと行きますか。


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