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23話:2章 お仕事を請けよう

 というわけで出発日です。

 初めての家族旅行と言うことでウキウキです。お出かけ用のワンピースの裾を翻してクルクル回ったりしますよ?


「ユーリ姉、浮かれてるなぁ。そんなに楽しみなのかなぁ」

「ユーリはほとんどこの庵から出ていなかったからな。本来好奇心旺盛な性質だし、はしゃぐのも無理は無いさ」

「ユーリさん、かわいいです」

「ユーリ姉は浮かれるとどっかで絶対ヤラかすんだよな……」

「アレク、お黙り」


 失敬な事を言ったアレクを指差し警告しておいて、荷物を担ぎます。

 着替えヨシ、お財布ヨシ、武装ヨシ……


「ユーリ、それは置いていきなさい」

「え、武器は大事ですよ?」


 師匠が指摘したのは、わたしの開発した『2つ目』の新武装の『クリーヴァ』です。

 全長二メートルを超える持ち手の先に、巨大な、あまりにも巨大な鉄塊が固定された――戦槌。

 本来ならわたしどころか師匠の体重よりも遥かに重いその鉄塊に、軽量化、頑強、加速、強打(未完成)の四つが付与されています。

 鉄塊の中心部に銀を配置し、その周囲を鉄で覆う多重構造で、付与数を増やした試作品です。

 軽いくせに、大質量を超加速で叩きつけることのできる、トンデモ超兵器になったと思います。

 ただ、見た目が……百キログラム近い鉄塊と言う無骨さがスマートではありませんが。


「仕方ないですね、こっちだけにしましょう」

「そうしてくれると助かる。見た目幼女がそんなゴツイの持ち歩いてるとか、物々しすぎるからな」


 そういって羽織ったのは、維持と接続を組み込んだマントと、身体強化:筋力を組み込んだ腕輪。

 コレも使い勝手の悪い身体強化の対策として開発したものです。

 マントはその広い面積を利用して、外部の魔力タンク的役割を果たします。腕輪は複数発動できない身体強化を簡単にマルチタスクする補助具ですね。

 もっとも今のところ、並列起動できるわたししか使えませんでしたが。

 そして、矢筒と弓。これは二年の間に開発した『三つ目』です。


「では出発するとしよう」

「おー」


 予定では庵から馬車に乗り、マレバに向かいます。

 マレバでハルトさんに馬車を預け、コーム行きの乗り合い馬車へ乗り換えます。

 そして、コームからフォルネリウス聖樹国行きの馬車に乗り換え、揺られること十日でソカリスに到着と言う訳です。

 途中で国境の関所を通るのですが、通行証は師匠やアレクが持っているので、問題ありません。一応わたしも持ってますけどね。


「後はユーリ姉が失敗しないことを祈るのみ!」

「アレクはお昼抜きです」



「ごめんなさい、やらかしました」


 ショボン、と肩を落とすわたし。

 三日かけて、やって来ましたコームの街。この世界に五年居ますが、リリス以外では初めて見る大きな街です。

 賑やかな人通り、露店、様々な音や匂い。

 多少エキサイトしたとしても、責められはしないでしょう……財布を()られなければ。


「まあ、わたしも気付かなかったからな、仕方ないさ。幸い大した額でもないし」

「師匠、金貨百枚と言うのは、世間では大した額って言うんだぜ?」


 旅行と言うことで、多めに持ち出してきましたから。

 今の所持金は、アレクの持つ金貨十枚のみ。この金額だと行って帰るだけでギリギリでしょう。


「最悪、この指輪でも売ればいいが……」

「それは最終手段にしておきたいですね」


 出かける前に念のため、全員に抵抗の指輪(強)を配布しています。

 うっかりわたしの眼鏡が外れた時用に。


「取りに帰りますか? わたしなら明日までに往復できますし」

「いや、それ身体強化使って全力で飛んだ場合だろう」


 飛翔の魔術が制御できるようになったので、わたしは敏捷強化分をフルに使って移動できるようになってます。

 地上だと、蹴り足が地面を粉砕してしまいますから。

 マントの効果があれば、往復でも余裕があるはずです。


「まあ、無理に取りに帰る必要もない。こういったハプニングも旅の醍醐味」


 師匠は家吹っ飛ばされるよりマシだし……とか、こっそり言ってます。古傷抉らないでください。

 涙目で師匠を見つめていると、目を逸らされました。


「師匠は気楽っすね。とにかく金が必要なんだし……んじゃ、ちょっと盗難届け出した後、仕事でも探してみますか」

「仕事ですか?」


 首を傾げて尋ねるマールちゃん。わたしも詳しく聞きたいですね。


「こういった街だといろんな仕事があってね。冒険者ギルドとか言う連中が取り仕切ってることが多いのだが……」

「モチロンあそこが一番信頼は出来るんだけど、登録とか面倒だしなぁ。フォルネリウス行きなら、フリーでも何かあるだろうし調べてみるよ」

「すまないな、アレク」

「別に登録してもいいと思うんですが。登録、面倒なんですか?」

「頻繁に仕事請けるわけじゃないしね。年会費とか更新とか面倒じゃん」

「それに、ユーリは『賢者様』で私は『元賢者』だからな」


 風の賢者が冒険者に……それは確かに面倒そうです。主に心労的意味で。


「この時期なら護衛の仕事はあるだろうし、上手く行けば、フォルネリウスに行く冒険者の荷運びにでも潜り込めるかも」

「あ、アレクが頼もしい……だと」

「なんでだよ、俺いつも頼もしいじゃん!」

「そうです、アレクさんはカッコいいんです!」


 思わず漏れた本音に、アレクはともかく、マールちゃんにまで責められてしまいました。

 失敗です。今日はどうも調子が出ないです。


「でも護衛の仕事は無理でしょうね」


 ざっと一行の装備を見て意見を述べます。

 武装しているのはアレクと師匠が長剣を腰に佩いているだけ。わたしが弓持ちで、マールちゃんは見た目は全くの村娘です。

 アレクはともかく、師匠も今回は普通のズボンとシャツ。いつもの魔術師然としたローブは着けていません。

 見せ掛けの迫力が全く足りません。やはり『クリーヴァ』を持ってくるべきでしたでしょうか?


「なに、荷運びでも構わんさ。体力には自信があるしな」

「俺も俺も」

「わたしはありませんよ」

「すみません、わたしも……」

「子供にまで護衛や荷運びやらせようと言う連中もそういないだろう。仕事を手伝う代わりに、連れてってくれって交渉する手もあるし」

「討伐っぽい依頼は無いんですか? それならすぐに済ませられるし、お金稼げますよ」

「そういうのはギルドが一括管理してるんだよね。騎士団にもいくらかは回ってくるけど、一般に依頼するパターンはほとんどないと思うよ」


 それもそうです。通りがかりの人に魔物を倒してくれと依頼するようなものですしね。

 しかし、そうなるとわたしが出来ることって、ほとんど無いんじゃないでしょうか?


「気にするな。私は意外とこの状況も楽しんでいるぞ?」

「コルヌスまで旅した時を思い出すなぁ」

「じゃ、私はユーリたちを見ているから。アレク、いろいろ頼むぞ」

「お任せあれ」


 ピッと敬礼する姿はさすが現役騎士です。サマになってます。

 あ、マールちゃんがポーっとしてます。



 とりあえずアレクのお金で宿を取り、食事を済ませた後で、今日の成果を聞きます。

 ちなみに宿は二人部屋二つで、わたしと師匠、マールちゃんとアレクという部屋割りです。

 なぜ女性と男性に別れないかって? わたしが師匠の側じゃないと眠れないからですよ。


「で、アレク。首尾はどうだ?」

「ポーターとして、ソカリス行きの商人の護衛の人に雇われました。子供二人が同行ってことで、報酬がその分引かれて、一人一日銀貨三十枚」

「フム、二人だと十日で金貨六枚にはなるか」

「一人当たりの荷役はおよそ四十キロだそうです。師匠いけますか?」

「それくらいなら容易いな」


 師匠の筋力は魔術師離れしてますしね。

 アレクも年齢の割りに筋力が異様に高いです。普通の両手剣を片手で振るために、いつも修練してるそうですし。

 ちなみに筋力の指標として、師匠もアレクも一般人のおよそ二倍ほどだそうです。


「商人の名前はエルリクさん。奥さんと使用人が一人居て、護衛対象はこの三人。馬車二台でソカリスまで行くそうです」

「馬車二台? 個人の商いにしては、結構大掛かりですね」

「ソカリス近辺は火山が多い分、鉱脈も多彩と聞くからな。人が集まる分、食料に水、採掘道具の消費も激しいだろう」

「はい、積荷は野菜を始めとした生鮮食品が主です。後はシャベルやピッケルの補充品がいくつか、それと鉱石の買い付けの為の金貨だそうですね」


 鉱脈……あ!

 しまった、指輪とか買って付与して売れば、それでお金稼げたじゃないですか!?

 またウッカリしたとか言えないので、コレは黙っておきましょうか。

 と言う訳で、1人冷や汗を流すわたしでした。


「護衛は『フォレストベア』と『バルチャーズネスト』と名乗ってるパーティ二つが付きます。各五人ずつで計十名」

「戦歴は?」

「フォレストベアはまだ若いですね、登録して二年程度です。バルチャーズネストは中堅位ですか、もう十年近くギルドに所属してます。両者とも目立った功績は無し」

「だが十年か……ならギルドの信頼も厚いか」

「ネストの方はそこそこ、じゃないですかねぇ。悪くは無いんですが、酒が入ると問題を起こすことが稀にあるそうです。ベアは『威勢がいいけど、まだ未熟』だそうで」

「アレク、護衛の前歴も調べてきたんですか?」


 ギルドに所属していないわたしたちは、ポーターとして雇われる為に商人に直接交渉を持ちかけたとか。

 幸いエルリクさんはアレクの顔を知っていて、快諾してくれたそうです。

 その後護衛のパーティ名を調べ、評判まで聞き込んできたとは……よくそんな時間が有りましたね。


「ギルドを通した依頼じゃないし、同行者の前歴くらい調べないと危険でしょ。師匠もユーリ姉も、その辺は抜けてそうだし?」

「うっさいわぃ」

「いや、確かにそこまで気が回らんかったな」

「アレクさん、すごーい」


 うぬぬ、アレク株が急騰してますね……別にいいんですが。


「俺達が運ぶのは冒険者の水や食料ですね。十人×十日分で百日分となると、結構な量になりますから」

「妥当な所だな。保存食の輸送だと後になるほど軽くなるから、荷運びとしてはありがたい」

「代わりに途中で手に入れた素材やらなんやら持たされるから、そんなに甘くないと思いますけどね」

「入るとは限らんさ」

「出発は明朝の八時です、今日は早めに寝ないといけませんね」


 そうして、コームでの一泊は早めに寝ることになったのです。

 観光……したかったなぁ。


実は師匠は弟子に甘々です

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