第7話
まぁ、自分でも何が起こったんだか、よく分かんないんだけど、とにかくあたしは無事、地面に着地することが出来た。
やっぱり怖くて落下中、目つぶっちゃったんだけど、何の衝撃もなくて目を開けたら、ピロッツ将軍の爽やかな笑顔が、どアップでありました。
いやぁ、近くでも見てもガッカリしない男の人って、なかなかいないもんだと思うんだよね。
何か魔族って美形率高いっぽい。
って、まだ魔王陛下と宰相閣下と将軍殿の三人しか知らんけどさ。
たまたま美形にばっか遭遇してるんだとしたら、あたし大分運使ってんな。
あぁ、こっち連れてこられたこと自体が運悪いんだから、プラマイゼロか。
ひょいと将軍に下ろしてもらって、お礼を言う。
「有難うございます、ピロッツ将軍」
「どういたしまして、チトセ。でも将軍は他人行儀だし、ミハイルでいいよ」
「え〜と、善処します」
なんか政治家のヘタな言い訳みたいだけど、年上の人を呼び捨て出来るほど、あたしアメリカナイズされてないもんで、心の中では将軍って呼び続けます。すんません。
こうして同じ地面で向き合うと、将軍は結構背が高かった。
百八十近くあるんじゃないかな。
あぁ、でもジュトーの兄さんのが高そうだな。
あの兄さんバカでかかったし。多分百九十はあるよ、ありゃ。威圧感ありまくってたからね。
うんうん。それに比べて将軍は丁度いいサイズだわ。
やっぱり高けりゃいいってモンでもないっしょ、背丈って。
将軍が落ち着いて話せる四阿があるというので、案内してもらうことにした。
その道すがら、将軍はズバリと尋ねてきた。
「異世界から連れてこられたって、本当?」
「あの、何でご存知なんですか?」
「城はもうこの噂で持ちきりだからね」
あたしが連れてこられたのは、多分昨日か今日あたりだと思うんだけど、情報が早いな、オイ。まぁ、噂ってそんなモンだけどさ。
「そうなんですか」
「うん。だから一足先に一目見たくて、あそこまで行ったんだ」
偶然じゃなかったのか。
そうだよねぇ、そうそう都合のいいことあるワケないし。
「でもびっくりしたよ。叫び声が聞こえた時はね」
「すいません。それは忘れてください……」
将軍、お願いですから、思い出し笑いとかしないでくださいよ!
よりにもよってこんなカッコイイ人に聞かれるとは、余計に恥ずかしいったらないな、くそ!
その後、将軍から得た情報によると、この国の住人はやっぱり大抵が魔族で、将軍自身もそうらしい。
魔族っていうのは、その身に宿した魔力が大きければ大きいほど、歳をとるのが遅くなるんだそうな。
あの外見五歳児の百六十歳の陛下は、そういった理屈で成り立つらしい。
あ、でも精神年齢は外見に比例するんだって。
能力なんかはまた別らしいけど。
「じゃあ、やっぱり陛下は歳をとるのは遅い方なんですか?」
「あの方はかなり特別だよ。何せ俺は今、百八十四歳でこの外見だからね」
あたしの目には、将軍は二十代半ばくらいにしか見えないんですけどね。
なんかもう、自分がスゴイひよっこに思えてくるわ。
あっちの世界でもひよっこに違いはないけどさ。
「あの、普通の二十歳前後の人って、どのくらいの外見なんですか?」
「う〜ん、二十歳くらいだと、多分、陛下くらいか、ちょっと上くらいじゃないかな?」
つまりあたしって、スゴく老けて見えてるってことですか、そうですか。
こっちの人、っていうか魔族には、あたしって何歳くらいに見えてんだろ。
……聞くの怖いから、やっぱり止めとこ、うん。
将軍に案内された四阿は、周りから浮いてるわけでなく、埋もれてもない、絶好の趣がある所だった。
キチンと手入れもしてあるし、いいトコだわ。
「気に入った?」
「はい」
「それは良かった」
にっこりと笑う将軍の笑顔が眩しく見えるわ。
爽やかで癒されるもん。
ついついあたしも笑い返しちゃうし。
「あ〜ね〜う〜え〜!」
ぐはっ。
うぅ、いきなり腰にタックルかまされて無事に済むのは、レスリング選手ぐらいだってコトを分かってください、陛下。
っていうか、気配なかったんですけど!
「あれほど勝手な行いを慎むよう、申し上げたはずですが?」
ジュトーの兄さんの低ーい声が、遥か頭上から降ってきた。
あはは、座ってると更に威圧感を感じますねぇ、オマケに逆光っスか?
ヤバッ、怖!
魔王陛下の手が回された腰もかなり痛いんですけど、恐怖って点じゃ兄さんのが上。
でもねぇ、それで素直にゴメンナサイできるほど、あたし、可愛い女じゃないし、人間も出来てないんだよね。
だからにっこり極上の笑顔を浮かべて言ってやる。
「あら、申し訳ございません。何せ右も左も分からない世界にいきなりつれてこられて、何も知らされずに閉じ込められたものですから、自分が置かれている状況の把握に努めようと思うことは、至極当然のコトだと思いますし、あたしはそれを実行に移したまでですけど、もし仮に事前に説明してくださっていたら、納得するしないは別にしましても、このような無茶はしなかったことと思いますわ、閣下」
つまりは『てめぇらが説明しないのが悪いんじゃろうが、ボケ』ってコト。
さっきはいきなりワケ分からんことばかり言われてたから、一方的に言われっぱなしだったけど、普段のあたしがそれに甘んじると思ったら大間違いだ。