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第4話

まぁ、とりあえず泣き止んだみたいだし、気をそらす作戦成功。

そして助け舟は、意外な方向から現れた。

ジュトーの兄さんだ。

これ以上無駄な堂々巡りさせて、執務に影響出るのを嫌ったに三千点。

「陛下、この娘はキュレオリア様の生まれ変わりでしょうが、キュレオリア様ご本人ではありません。陛下の御名を存じないのも、無理はなかろうかと」

生まれ変わりって、輪廻転生だよねぇ。

だから魂がどうのこうのって言ってたのか。

全部信じるワケじゃないけど、これが夢じゃないのは確かだ。

だって痛かったし。

魔王陛下はちょっと考える様子を見せて、コクリと頷く。

「うん、そうだね。僕ちょっと興奮し過ぎちゃったみたい」

陛下はあたしの手をぎゅっと握って言った。

「姉上、僕の名前はビュレフォース。ビューって呼んでね」

「あ、どうも。尾上 千歳です」

つられて名乗る。

「こっちがジュトール=フェイ。僕の補佐をしてくれている宰相なの。ジュトー、ご挨拶は?」

魔王陛下に言われて、不機嫌そうな顔はそのままに、ジュトーの兄さんが一礼する。

流れるような綺麗なお辞儀を、あたしは生まれて初めてみたかも知んない。

現代日本では滅多にお目にかかれないだろうな。

「王姉殿下におかれましてはご機嫌麗しく、ご尊顔拝し奉り、恐悦至極にございます」

雄牛? あぁ、王の姉で王姉ね。

あの、ぜんっぜんご機嫌麗しくなんてないんですけど。

むしろそんな馬鹿丁寧な挨拶をされたことなんてないから、ムズかゆくてしょうがない。

「あ、ご丁寧にどうも」

なんてマヌケな返事しか出来なかったし。

っていうか、普通ここでどうやって返すかなんて、知るわけないじゃん。

あれか? 苦しゅうないとか言っちゃうのか?

「あの、で、陛下」

「ビューだってば」

「……ビュー様」

「ビューって呼んでよ!」

「陛下、帰らしてください」

「ヤダ」

ヤダってナニ!? ヤダって!

「とにかく帰りたいんです。絶対落とせないレポートの締め切りがあたしを待ってるんです」

「そんなこと知らないもの」

このガキ!

という言葉は、かろうじて飲み込んだ。

なんせ御歳百六十歳の魔王陛下に、ギリギリ十代のあたしが投げかけれる言葉じゃない。

それに陛下の後ろに控えてる兄さんがギロリと睨んできてるし。

でもさ、いきなり連れてこられて帰せないって何様?

って、魔王サマだった……。

こんな天使みたいなナリしてても、魔王サマに違いないってか?

ふざけんじゃねぇよ。

「とにかく、あたしの前世が陛下の姉であろうが雄牛であろうが、関係ありません。今のあたしは尾上 千歳っていう人間です。元の世界に戻してください」

見かけに騙されちゃいけない人っているよね。

まぁ、ヒトじゃなくて魔族だけど。

「ダメ、帰らせない。帰っちゃダメだよ」

陛下がぎゅっとあたしの手首を掴んでくる。

そのあまりの力の強さに、思わず顔をしかめる。

「いたたたたたた! あの! マジで痛いんですけど!」

見かけは五、六歳だけど、結構力があるらしい。

あたしが叫ぶと、陛下はぱっと手を離した。

あ〜あ、手首に真っ赤な手の跡がついてら。まさか骨に異常はないだろうな。

そう思ってくいくいと曲げてみるけど、たいした痛みはない。

どうやら異常ないみたいだ。

「姉上、ごめんなさい。大丈夫?」

しょんぼりした顔で素直に謝られちゃ、強く怒れないのは、まぁ、しかたないよね。

反省してるようだしさ。

「じゃあ、帰してくれます?」

「それはダメ」

前言撤回。素直だからって、すべてが許せるもんじゃないな、うん。

「陛下」

ジュトーの兄さんの不機嫌な声が響く。

別に大声出してるわけじゃないんだけど、声が響く人っている。

そしてどうやら、この不機嫌な声がデフォルトらしい。

幾分かは機嫌のせいだろうけど。

たったその一言で、魔王陛下は全てを察したらしい。

ちなみにこれはあたしにも分かった。

つまり『仕事しろよ、コルァ。決裁待ちの書類が山ほどあるっつってんだろ』てことでしょ?

多分、言葉遣いはもっと丁寧なんだろうけど。

陛下は渋々ベッドから降りて、言った。

「とにかく、姉上は僕の姉上に間違いないからね。勝手に帰っちゃダメだよ?」

ちょっと待て、勝手はどっちだよ。

っていうか、帰り方なんか分かんないし。

「でも異なる世界をつなぐ技は、僕しか出来ないけどね」

だったら言うなよ!

帰らしてください、マジでお願いします!

「じゃ、また来るね」

「ちょっ、陛下!」

あたしの、待ってください、っていう言葉も聞かずに、陛下はとててててと走って出て行った。

恐ろしく自己中だな、オイ。

我侭放題のガキなんて大嫌いだ。

その我侭陛下の後をジュトーの兄さんが追う。

こっちは流石に走ったりしない。長いコンパスですたすたと歩いて行く。

そしてドアの所で、こっちに振り向いて言った。

「ここであなたは望む望まずに関わらず、王姉殿下として扱われる。その自覚を持ち、決して陛下の邪魔をしないように、胆に銘じておくんだな」

「ちょっ、それどういう意味ですか!」

あたしの問いかけを無視し、言いたいことだけ言って、不機嫌兄さんはさっさと部屋を出て行きやがりました。

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