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第3話

姉上だ。

いや違う。

という不毛な論争に終止符を打ったのは、お子様の後ろに背後霊よろしく張り付いていた、不機嫌そうな美形の兄さんの一言だった。

「陛下。そろそろ執務に戻られませんと。今日中に裁可願いたい懸案がいくつもございます故」

「え〜! もう少しいいでしょ? ジュトー。折角姉上と再会できたのだもの」

お〜、兄さんの顔は好みじゃないけど、声はものすっごく好みだわ。

って、陛下? このお子様が?

ぎゅうっと首にしがみついてくるお子様と、ジュトーと呼ばれた兄さんを交互に見て、その素直な感想を口に出す。

「はぁ? 陛下ってこんな小さい子が?」

しかも王座に座っているだけじゃなくて、なにやらこのお子様が政務をしてるような口ぶりなんですけど?

不機嫌な顔の兄さんは、あたしをジロリと睨みつけて言った。

「魔王陛下は御歳百六十歳であらせられる」

は?

すいません。あたし今、信じられないことを二つ聞きました。

まずはこの天使も裸足で逃げ出す犯罪的可愛さのお子様が、実は魔王陛下であるということ。

もう一つは、どう見ても五、六歳くらいにしか見えないこのお子様が、御歳百六十歳だということ。

おいおいおい。いくら夢でも無茶な設定だろうよ、そりゃ。

夢って自分の記憶を整理するために見るっていうけど、こりゃないでしょ。

「夢なんかじゃないってば!」

はいはい。

夢の住人って、必ず否定するんだよね。お約束。

あ、そういえば夢の中でまた寝ると、起きられるんだっけ。

それに思い至ったあたしは、豪華天蓋付ベッドに横になった。

目をつぶってブランケットを頭まで被る。

お休みなさ〜い。

って、痛ェ! 重っ!

「ぐぇっ」

ついつい女子大生にあるまじき声を出しちゃったよ。

頭を出すと、魔王陛下があたしのお腹の上に、ていっと腹這いになっていた。

丁度あたしと陛下で+の形になる感じ。

あの、重いんですけど……。

「もう! 姉上、無視しないでよ! 折角また会えたのに。僕、姉上に会える日をずっと待ってたんだよ?」

魔王陛下はぷんすか怒ってらっしゃいますが、この際、そんなことはどうでもいいです。

重要なのは、痛覚を感じたこと。

もしかして、いやにリアルなのは、現実なせいですか?

ホントにリアルだったりするんですか?

「うっそ! マジで!」

今更ながら慌てて自分のほっぺたをつねる。

「いひゃい」

うわぁ……。

ガックリと肩を落としているあたしに追い討ちをかけるかのように、不機嫌な声が降ってきた。

「馬鹿か」

その言葉はあたしの心にクリティカルヒット。

もう駄目です。HPゼロだわ。


がっくしくるけどね、ここでヘタレてる場合じゃないし。

沈んだら沈んだだけ、浮上しないと。

さっさと帰らせてくんないかなぁ。

このまま一生帰れないパターンと、行ったり来たりするパターン。

あたしの場合はどっちだろ?

つーか、マジで帰りたいんですけど。

「え〜と、陛下。いくつか質問があるんですけど、よろしいでしょうか?」

実年齢が百六十歳だという魔王陛下に、ついつい敬語になっちゃう。

はたから見たら五、六歳のお子様に敬語使うのは、変に見えるかな。

あぁ、どうせ偉い人だから、敬語でも問題ないか。

「うん、いいよ姉上。でも僕のこと、ちゃんと名前で呼んでくれたらね」

え? 魔王陛下の名前なんて知らないんですけど……。

無茶言うな。このお子様が。

お願いします。そんなキラキラした期待の目で見ないでください。

心の中で謝ったり怒ったり、まぁちょっと混乱中。

なかなか答えないあたしに陛下はちょっと不満気だ。

「姉上、もしかして僕の名前、忘れちゃったの?」

「忘れるも何も、初対面なんですが」

こんな可愛いお子様に一度でも会ってたら、絶対忘れないって、普通。

「むぅ。ホントに? 覚えてないの?」

うわっ、今度はうるうるですか!?

止めてよ! まるであたしが泣かしたみたいじゃん!

どうしよう! ウチのチビ共が泣いてたら、泣き止むまでほったらかしとくけど、さすがにこんな可愛いお子様を、ほっとくわけにもいかないよねぇ?

これがもし街中だったら、あたしに非難轟々だよ。

まるで犯罪者を見るような目つきで見られちゃうって!

あの! っていうか、陛下、ホントに百六十歳ですか!

百六十歳って、もっと老成しててもいいじゃないんですか!

何でこんなことで泣くのよ!

あぁっ、もう!

抱きしめて慰めればいいんだか、そんなことしたら失礼なのか判断つかないよ、あたしには。

はぁ。

「あの、陛下?」

「にゃに?」

ずびびびぃと鼻をすすって顔を上げる魔王陛下。

ヤバッ、何ですか! その返事は!

あたしに鼻血出させたいんですか!

心の中の葛藤を見事に押し殺すことに成功したあたしは、表面上は平静な態度で尋ねた。

「陛下、あたしは陛下のお名前を知っているはずなんですか?」

「うん」

「どうしてですか?」

「僕の姉上だから」

堂々巡りだな、オイ。

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