第24話
「ぎゃふ」
っつ、痛ってぇ。
こ、この感覚、二度目だよ。
垂直落下式スリルライド。ただし安全バーも座席もないバージョン。別名召喚とも言う。
実に六年ぶりだね。また見事に着地に失敗して、腰打ったし。
「チトセ!」
「おう……って、誰?」
この美少年と美青年の中間くらいの、一番オイシイ時期の美形さんは。
尻餅ついてるあたしに手を伸ばしながら、その美形さんが笑う。
「あれ? 分からない? 僕だよ、ビュー、ビュレフォース」
「えぇっ、陛下!?」
うっそお!
立ち上がったあたしより、拳二つ分くらい背の高いこの美形さんが、あんなあたしの腰ちょっと上くらいまでしかなかった陛下!?
魔王の陛下は百六十歳で外見五歳児だった。
じゃあ、あっちでは六年しか経ってないけど、こっちの世界は一体何百年経ったのさ!
あんぐり口を開けて見上げるあたしを、陛下は頭からつま先まで見回して言う。
「チトセは全然変わらないね」
「あ、当ったり前でしょ! 向こうじゃ六年しか経ってないんだから!」
「へぇ、そうなんだ」
「へぇって、あんたね!」
こういう人を食ったような所は全っ然変わらないな!
あたしは怒ってるってのに、陛下はくすくす笑う。
ったく、ますます腹立つな!
「こっちじゃ大分経っちゃったから、チトセがお婆さんになってるんじゃないかって、ちょっと心配だったんだけど、杞憂だったみたいだね。まぁ、僕は例えチトセがお婆さんでも、全然構わないけど」
「うわぁ……」
甘っ、何その砂吐きそうなくらい甘いセリフ!
めちゃ痒い! あたしダメだわ! こういうの!
何気に引き気味のあたしを気にせずに、陛下はちょっと困った顔をする。
「何さ」
「うん。あのね、こっちの都合でチトセを呼んでしまったけど、大丈夫?」
へぇ、そういうコト気にするようになったんだ。
前回はそこんとこ、まったく無頓着だったからな。少しは成長したじゃん。
「ん、まぁね。いずれこっちに来なきゃなんないってことは分かってたし。いつこっち来てもいいように、手紙書いてあったから」
その手紙は分かりやすいように、あたしがいつも使ってる棚のひきだしに入れてある。
何とか助手として残れた大学や、家族や友達にはいきなりの失踪で迷惑をかけるかも知んないけど、少なくともそれは自分の意思だってコト、伝えなきゃだし。謝罪と感謝の言葉を、自分の言葉で綴ったつもり。
まぁ、魔力だとか魔王だとか、そんなコトは伏せたけどね。絶対信じてもらえないって。
結局、こっちのコトは誰にも言わなかったしな。
いつも首からチェーンに通した指輪を提げてたら、結構詮索されたけどね。意味深に笑っておいたけど。
「でもさ、あたしこっちに来ても、今度は王姉って立場ないから、まず住むトコと仕事探さなきゃね。陛下、何かいい物件と仕事ない?」
そう尋ねると、陛下は不満気な顔をする。
「城に住めばいいよ。仕事もしなくていいから」
「そんなワケにはいかないでしょ! 少なくともあたしは嫌だね、そんなの。タダ飯食いなんて真っ平ゴメンだよ。そんなコトになるんだったら出てってやるから」
「だ、ダメだよ! それじゃ呼んだ意味がないよ!」
「じゃあ、紹介しなさいよ」
「……分かった。ジュトーに空いてる城の仕事ないか訊いてみるよ」
「あ、そうそう。ジュトーの兄さん、元気? ついでに今、外見いくつくらい?」
爺さんになっても、あの人はカッコよさそうだけど。不機嫌な面は健在かね。
「元気だよ。宰相として頑張ってくれているし、作るお菓子は美味しいし。外見? 人間でいうと……えぇと、四十代半ばって所かな?」
へぇ、まだ菓子作りしてるんだ……。四十代半ばのナイスミドルがエプロン姿でお菓子作り……。それは是非とも拝見しないとね!
「さぁ、陛下、さっさとこの陰気な地下室から出よ? こんなトコに長時間いたら、カビ生えちゃう」
「また陛下って言った。ビューって呼んでって言っているのに……」
「聞こえないなぁ。何か言った?」
「あの時は呼んでくれたじゃないか」
「まったく何も聞こえませーん」
地上への階段を上りながら、あたしはワザとそう言った。
あの時は特別サービスだったんだってば。
背後からむっとした気配が伝わってきたけど、振り返って何かやんないもんね。