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第23話

陛下に案内されてやって来た地下室は、記憶通りに陰気でかび臭い。

「もっと綺麗にすればいいじゃん。金はあるんでしょ……ぎゃっ」

うへっ、またガサゴソいってるよ!

まさか黒光りしてるアレが出るんじゃないでしょうね! 他にも茶色かったりするアレが!

陛下が魔方陣のチェックをしながら答える。

「でもこちらの方が雰囲気出るから。いかにもって感じでしょう?」

雰囲気かよ!

って、ひぃっ、何アレ!?

「あ、そっちの方は魔術の道具だから、触らないでね」

変なモノばかりが並んでる棚に、いわゆるしゃれこうべを見つけて、ちょっとビビった。

もっと平たく言うと髑髏どくろ、正しくは頭蓋骨か。

暗くて陰気でかび臭い地下室で見ると、かなり怖いよ。

つーか、何でこんなモンがあるんだ? まさかホンモノじゃあるまいな!?

……深く考えるの、よそう。

うん、何か取り返しがつかないことになりそうだ。

「チトセ、準備できたよ」

「う、うん」

地下室の床には、畳二畳分くらいの魔方陣がチョークみたいので描いてあった。

「あ、チトセ。魔方陣に入る前に、これをあげるね」

そう言って陛下は自分の指にはめてた指輪を、あたしの中指にはめようとした。

「きっとチトセのことだから、向こうに還ったらこちらのことを夢だったとか思うでしょう? だからちゃんとこちらのことが現実だったって証拠をあげるね」

ちっ、あたしの性格見破られてるよ。何か、シャクだな。

って、いたたたたたたた。

「無理矢理はめようとすんな! どう見ても指の太さ違うだろうが! まず外見五歳児がしてた指輪を、十九のあたしにはめようって考えが無理なんだよ!」

試しに小指にもはめようとしたけど、絶対無理だね。入らないって。

「痛いっつってんだろ!」

「だって……」

もう、そんなコトで泣きそうな顔すんじゃないよ。ったく。

あたしは陛下が持ってた指輪を受け取った。

「向こう着いたら、チェーンでも通してネックレスみたいにするから、それでいいでしょ?」

それまでは握りしめて、絶対離さないから。

陛下は袖口で顔を拭って頷いた。

「うん。じゃあ、始めよう。チトセ、円の中心に立って」

「ハイよ」

それまで被ってたシーツを取って、言われた通り、魔方陣の真ん中に立つ。

やっと還れるんだ。日本に……。

近い内にあたしは向こうの世界に相容れない存在になる。

でもそれまでは、一生懸命生きたろうじゃないの!

「じゃあ、行くよ? 準備はいい?」

「モチロン」

陛下があたしには聞き取れない、呪文みたいのを唱え始める。

それと同時に、ビリビリしてきた。

何だかこう、ひっぱられて、力を貯めてるような……。

「じゃあ、また会おうね、チトセ」

「じゃあね……ビュー」

しばらくはお別れなんだし、特別サービスだよ。特別!

だからそんな嬉しそうな顔すんなっつーの!

こっちが恥ずかしいだろ!

「はっ」

「うおっ」

気合の声と同時に、あたしは宙に放り出される感覚を味わった。

ぎゃあ! かなりの加速度だよ!

何だっけ! こういうの! え〜と、え〜と、あっ、あれだ!

逆バンジー!

来る時垂直落下式スリルライドで、帰る時は逆バンジーかよ!

あり得ねぇ!

すぽーんと何かを抜ける感覚のあと、気づけば自分の部屋のパソコンの前に、あたしは何事もなかったみたいに座ってた。まるで長い夢でも見てたみたいに。

でも、やっぱりあれは夢じゃない。

何しろ、あたしの手の中には、例の指輪があったんだからね。


目の前のパソコンはスクリーンセイバー画面だった。

おっかしいなぁ。あたし、一月も行方不明になってたんだから、とっくに電源切られてていいハズなのに。

あっ、もしかして……。

あたしはネットにつながってることを確認して、現在日時を調べた。

「……やっぱり」

あたしがあっちに行ってから、まだ六時間くらいしか経ってない。

あれか! 異世界ファンタジーお約束の、向こうとこっちじゃ時間の流れが違ってる法則!

ははは、なんだぁ、そっか。一月もどこに行ってたのかって、問い詰められなくて良かったよ。

ちょうどその時、カーテンの隙間から光が射し込み始めた。

おう、夜明けか! 久しぶりに浴びる日本の朝日は格別だね!

ん? ……ちょっと待て、今日があの日だってことは……。

「レポート提出日じゃん!」

ヤバッ、あと何時間!? しっ、資料! ワードファイル、どれ!?

これ、落とすワケにはいかないからね! 単位は大事! 全力で書き上げるぞ!

さぁて、元魔王陛下の姉、今大学生で、もうすぐ魔族の底力、見せてやろうじゃないの!

あたしは猛烈な速さで、キーボードを叩き始めた。



そして…………。

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