第22話
そして、その後の顛末を少しだけ。
まず、ピロッツ将軍のことからかな。
将軍はキュレオリアが魔力で壁に大穴開けた音で駆けつけてきた兵士たちに取り押さえられたらしい。
まぁ、彼らが駆けつけてきた時には、あたしも将軍も気絶してたんだけどね。
処遇はまだ決まってないけど、かなり大きな計画を立ててたらしくて、彼の仲間たちも続々と捕まってる。
ちなみにこれはあのお菓子に似た名前のオッサンたちが吐いた情報による。
将軍は一切口を開かず、黙秘を続けているみたい。
国外追放か終身謹慎か。死刑にはほんの少しだけ、罪状が足らないらしい。
普通こういう中世っぽい世界だと、反逆者は皆死刑のハズだけど、この国にも死刑反対論者が結構いるとのこと。
まぁ、あたしも死刑にはして欲しくないと思ってるからね。
将軍のしたことは許せないっていうより、馬鹿げてたと思うから。
その辺は司法の手に委ねられるでしょ。
ジュトーの兄さんは相変わらず不機嫌そうな面して、忙しそうに仕事してる。
一斉検挙したヤツの穴埋めとか、後任とか、あとこまごましたことが色々と。
それでも合間をぬって、またお菓子を作ってる姿は、悪いけどやっぱ笑えるよ。
エプロンが世界一似合わない男の称号を贈りたいね。
あ〜、あとは、陛下?
アレも相変わらずだね。姉上姉上ってマジうるさい。
でも時たま、あたしのこと、チトセって呼ぶようになった。
その代わり、自分のことはビューって呼べってうるさいんだよ。
あと敬語禁止令が発令中。
まぁ、そう簡単に言うコト聞いてやるような可愛い女じゃないんでね。
未だに陛下って呼んでマス。
そして迎えた元の世界に戻れる日が今日だ。
こっちに来てから苦節一月と十四日。
こうして数字として見ると短いけど、結構濃い一月ちょっとだったなぁ。
絶対、現代日本じゃ味わえないような経験ばかりだったからね。
したくてしたワケじゃないけどさ。
楽しくなかったって言えば嘘になるんかな。
ジュトーの兄さん他、お世話になった人たちには、もう別れの挨拶は済ませた。
召喚魔術って、代々の魔王にしか伝えられない秘術だとかで、
他人がそこに立ち会うことは出来ないんだって。
あ? 何で陛下があたしを元の世界に戻す気になったかって?
なんでも、自分が未熟なばかりにあたしを危険な目に合わせたから、もっとしっかり国が治められるようになるまで、自分の世界で待ってて、とか勝手なことをぬかしていやがりましたけどねっ。
なんでこっちに帰ってくること前提で話すかね、あれは!
ホントに自己中だなぁ、オイ。まぁ、もう、慣れちゃったけどさ。
「準備できた?」
「え、まぁ、ね」
そっと部屋のドアを開く。
半壊させちゃった部屋はまだ修理中だから、寝泊りしてるゲストルームで着替えた。
何でも時空を渡って来た時となるべく同じカッコの方が、還りやすいんですと。
でも、ねぇ、来た時のカッコって言ったらさ、高校時代のジャージに前髪がウザイからって、パイナップルみたいに結んでるっていう、絶対人前にゃ出られない姿なんですけど!
ううっ、恥ずかしい!
あまりに恥ずかしいから、頭からすっぽり白いシーツを被って出た。
後姿は、某毛が三本しかないお化けのようだよ。
あー、このネタが分からないお嬢ちゃんやお坊ちゃんは、お父さんかお母さんに訊くように。
「ねぇ、チトセ。やっぱり帰ってしまうんだね」
あたしが召喚された魔方陣がある城の地下への道すがら、ぽつりと陛下が呟いた。
つーか、あたしにはこのカッコをツッコまないアンタの方が気になるけどな。
「仕方ないでしょ。あたしが生まれたのはあっちなんだし。それにこの国じゃ、多少なりとも魔力がないと生活すんのが大変なんでしょ?」
あたしはもう身も心もただの女子大生、尾上 千歳でしかないから、もう魔力なんてないハズだもんね。
「あ、あのね、チトセ。それがそうでもないみたいなの」
はぁ?
陛下がまた変なことをほざき出したんですけど。
だからそんなもじもじすんなっつーの。
「言いたいことはハッキリ言え、ハッキリ」
「うん、じゃあ言うね。確かにチトセの身体は外見は元に戻ったけど、一度引き出された魔力はそのままになってしまったみたいなの。身体はまだ人間に近いけど、このままだと……多分あと五年くらいで、身体も完全に魔族化してしまうと思う」
「……ちょっと待て、それって……つまり……どういうコト?」
スンマセン。あんまり理解したくないんですけど、その言葉の意味。
脳が理解するのを拒否ってるよ。己防衛機能ってヤツ?
「ん〜、具体的には歳をとるのが遅くなったり、ちょっと身体が丈夫になったり、魔術が使えるようになったりかなぁ?」
「マジでぇ!?」
「うん、マジで」
うっそ! 何ソレ! あり得ないんだけど!
「それって、向こう還っても有効なワケ!?」
「多分。だって世界の理とかに関係ない身体に直接起こった変化だから」
「……ねぇ、魔力を封じる方法とかないの?」
「ないよ」
「んなさらっと言うな! さらっと! ホントはあんだろ! 隠し立てするとヒドイからな!」
あたしがそう言うと、陛下はその可愛らしいお顔に満面の笑みをたたえた。
しかもイジワルな笑みだ。
初めて見る顔にあたしは嫌な予感を覚えたよ。むしろ悪寒か?
「な、何さ」
「ううん。ただ例え仮にそんな方法があっても、きっと教えないと思って」
「はぁ? 何でさ。一国の王がそんなケチくさいコト言うんじゃねぇよ」
「だってね、チトセが魔族になったら、こっちに来るしかないでしょう? チトセのいた世界は人間が支配しているんだっていうからね。それとも、向こうでこそこそ隠れて、あちこちを流転する生活を送りたい?」
こ、こ、コイツ! もしや確信犯か!
くそっ、コイツの頭を思いっきし殴りてぇ!
でも今殴って機嫌損ねたら、還してくれなくなるかも知んないし!
我慢、我慢だ、尾上 千歳。
例えいつか時の流れが違っちゃって、こっちの世界に来なきゃなんなくなっても、今はあの世界に還りたい。
向こうでやりたいことはたくさんあるんだからな!