第21話
ふっと、意識が浮上する感覚。
気持ち悪さを堪えて目を開けると、陛下のどアップがあって、マジでビビった。
「あ、あ、あ」
「あ? 何? あんぱんでも食べたいんですか?」
「姉上!」
「ぐはっ」
「良かった。姉上が無事で本当に良かった!」
ちょっと待て! 苦しいから! マジで苦しいから! んな抱きつくな!
毎度毎度同じコト言わせんなよな! あんたの力は普通の五歳児並みじゃないんだっつーの!
「気がついたか」
「あ、宰相閣下」
陛下に抱きつかれながらも、何とか体を起こすと、いつもに輪をかけたように不機嫌なジュトーの兄さんがため息をついた。
「あ、宰相閣下ではない。かなり派手にやったようだな」
「え?」
あー、こりゃひでぇや。
大型家具があっちこっちにちらばってるわ、壁に大穴開いてるわ、もうぐっちゃぐちゃ。
もしかしないでも、これやったの、キュレオリアの魔力だよなぁ。
「……弁償とか、しなきゃダメですか?」
そんな金、持ってないんですけど……。
そういうと、兄さんはまた大きなため息をついた。
「そんなことは気にせずともいい」
「そうだよ。姉上が無事だったのだから、それだけで十分だよ。ごめんね、もっと僕が気をつけていれば、こんな目に会わなくてすんだのに……」
あぁあぁ、またそんな涙浮かべて。
君主がそう簡単に涙なんて見せるもんじゃないって。
大体、もう百六十歳なんだからさ。
「別に、そんな気にしなくても大丈夫ですよ。結果オーライってヤツです」
いくらかはあたしがもっと気をつけておかなきゃなんなかったコトが原因だったし。
なおも抱きついてくる陛下をひっぺがし、寝間着の裾を払う。
そして目に入ってきたのは、長い黒髪じゃなくて、肩口までの茶髪。
キュレオリアの言った通りだったみたいだね。
う、キュレオリアの服、胸の辺りがゆるくて、腹が苦しい……。何かムカつくな。
久しぶりの自分の顔を、倒れてる鏡台のひび割れた鏡に映す、何だか気恥ずかしいもんだ。
っと、そうそう。
白い鏡台ってコレだよな。
よっと。
ひきだしを全部引っ張り出して、散らばった中身の中に、黄ばんだ封筒を見つけた。
まぁ、四十年もこの中に入ってたみたいだし、元は白かったんじゃないのかね。
宛名は“親愛なる弟、ビュレフォースへ”。
裏にはキュレオリアのサインが入ってるし、コレで間違いないな。
ハイと手渡した手紙とあたしの顔を、陛下は交互に見る。
「姉上?」
「そう、コレ、陛下の姉上から」
「え?」
「だからキュレオリアから、陛下に宛てた手紙を渡してくれるように頼まれたんですよ」
「姉上が……」
陛下はその手紙をじっと見つめてた。
結局、あたしはその手紙の内容は知らない。
けど、まぁ、多分それは他人が知っていいことじゃないんだろうと思う。