第2話
夢の中で夢を見るってのも何か変だけど、あたしは夢を見た。
壮絶に可愛いお子様が「姉上、姉上」ってあたしの後をついてくる夢。
あたしもそのお子様を抱きしめたり、本を読んであげたり、とても可愛がってた。
現実にも弟妹が一人ずついるけど、こんなに仲睦まじくはない。
口を開けば喧嘩腰。あたしの毒舌が鍛えられたのは、きっとこのおかげだ。
まぁ、別に仲が悪いってわけじゃないけど。
だから、まぁ、夢だと思っても恥ずかしいわけですよ。
こんなにラブラブ? な姉弟は。
あぁ、起きなきゃって思う。
レポート、あと少しで終わるし、締め切りは午後三時だから、死ぬ気でやれば何とか間に合うかも知れない。
あの教授、レポートだけで成績を判断するから、これをしくじると、今までマジメに講義に出席してたのが、骨折り損になるんだよね。それだけは避けたいわ。
ぱちっと目を開けると、布が見えた。
何度か瞬きをして、どうやらそれが天蓋だと分かった。
天蓋付ベッドなんて、初めてだよ、あたし。
寝返りを何回打っても落ちなさそうなこのサイズ。
キングサイズっていうの?
シーツは清潔で真っ白だし、よく陽に当てたのか、いい匂いがする。
ただし難点をいえば、枕が高すぎることかな?
あたし、ぺっちゃんこの枕でしか、安眠できないんだよね。
部屋にはテレビで見た外国のお金持ちがコレクションしているようなアンティーク調の家具があって、あたしの部屋のゆうに十倍はある広さだ。部屋の中で徒競走くらいできそう。
ふと、すーすーするなぁと思って自分の体を見てみると、家にいる時にいつも愛用している高校のジャージじゃなくて、真っ黒のノースリーブのワンピースを着ていた。
肌触りが最高に素晴らしい。これは絶対合成繊維なんかじゃない天然モノだろう。
え〜と、ていうか、ここ、どこよ?
夢から目覚めたらまた夢でした、ってか?
おいおい。早く起きないと、ホントに単位落とすよ、あたし。
こりゃ、気合を入れて起きねばね。
う〜ん、夢から目覚めるには、どうしたらいいのかねぇ。
行儀は悪いけど、ベッドの上であぐらをかき、うんうん唸ってると、ドアがノックされた。
起きてるのに黙ってるのも何だし、返事した方がいいのかな?
「はい?」
「姉上、起きた?」
ガチャリとドアノブが回って顔を出したのは、あの天使の上を行く可愛さのお子様だった。
その後ろには、眉間にくっきりシワを刻んだお兄さん。
折角の美形なのに、その不機嫌な顔で五割は損してる。
そういうのがいいってご婦人もいるんだろうけど、あたしは嫌だな。
こっちまで気分が沈みそうな表情だ。
「姉上?」
とててててと犯罪的可愛さのお子様が、ベッドの側に駆け寄ってくる。
う、走り方まで可愛らしい。
っていうか、えらくリアルな夢だな。こんなにリアルな夢は初めて見たよ。
いつも変な夢ばっかし見るもんな。
ゾンビ犬に追いかけられたり、サメに襲われたり、ギニ●ー特戦隊がマンションの上に出現したり。
……ホント、ろくな夢見てないな、オイ。
「あ〜、あれか? いくら若いからと言って、徹夜はやっぱし駄目だったか」
昔から徹夜って苦手なんだよね。
「姉上?」
「睡眠って大事だよね。何せ人間の三大欲求の内の一つだし」
ちなみに後の二つは食欲と性欲だ。
「姉上!」
「早く起きてレポート書かなきゃ」
たっぷり寝た後のように頭がスッキリしてるから、きっとはかどることだろう。
「姉上ってば!」
「は?」
夢って触覚あったっけ? 確か痛覚はないんだよね?
天使も裸足で以下略なお子様が、ぎゅっとしがみついてくる。
不満気に口を尖らせて、あたしを上目遣いに睨む。
可愛い子ってどんな表情をしてても可愛いということを、この日学びました。
「さっきから姉上は独り言ばかり言って。僕の話は聞いてくれないの?」
「は? え〜と、あの、さっきから姉上、姉上って言うけどさ、あたしにこんな可愛らしい弟はいないハズなんだけど……」
あまり可愛くない弟と妹ならいるけどね。
あたしがそう言うと、天使も以下略なお子様は首を横に振った。
「ううん。姉上は僕の姉上だよ。ちゃんと分かるもの。キュレオリア姉上の魂だ」
「あのさ、あたし、キュレなんたらとかいう名前じゃないんだけど」
尾上 千歳っていう、立派な名前があるんですけど。
やっぱり夢だね、展開がワケわかんないし。
「そんなことないよ! 僕が姉上の魂を間違えるなんてあり得ないもの!」
天使以下略お子様がきっぱりと言い切った。
大した自信だな、オイ。
ぎゅっと天以下略なお子様にしがみつかれるのは悪い気はしないけど、今は夢なんて見てる場合じゃないんだよね。
こういういい夢は、もっと余裕のある時に見たいもんだわ。




