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第18話

ごうごうっていう風の音が、やけに大きく聞こえた。

多分、それだけ神経が敏感になってるんだと思う。

頭の中がぐるぐるして、色んな考えが巡る。

マジかよ! に、ウソでしょ! と、どうして! や、ちょっとの、あぁ、っていう気持ち。

あたしは暴れるのを止めた。

この人相手に暴れても無駄じゃん?

あたしが暴れるのを止めた所為か、大声を出すなっていう条件で、口をふさがれてた手が外された。

「ふぅ、苦しかった。っていうか、あなただったんですね。……ピロッツ将軍。でも少し軽率な行動だと思いますけど? こんなことをしなければ、あなたに疑いの目は向けられなかったハズじゃないですか」

「チトセは、今の状況が分かっているのかな?」

将軍がいつもと同じ爽やかな笑みを浮かべた。

でもこんな時に見ると、その爽やかさが逆に嫌らしく見えるね。いい男が台無し。

「もちろん分かってますよ。あたしが襲われてるってコトでしょ?」

「それにしては冷静だね」

「まさか、とても驚いてますよ」

いや、ホントにとっても驚いてるから。驚きすぎて一回転しちゃうくらいにね。

だから表面的には落ち着いて見えるんだろうけどさ、まだぐるぐるしてるもん、頭ん中。

「でもさっきのは違うんだよね」

「は? さっきのってどれですか?」

「俺が疑われてないっていう所だよ」

将軍の笑みが自嘲的になった。

こっちを向きながら、あたしじゃない遠くを睨みながら言う。

「特に宰相閣下がね。普通将軍職は国政に関わらないから、目をつけられた。知ってるかな? 君の侍女の過半数は俺の推薦だったんだよ」

「……人払いしたのは、将軍ですか?」

「そうだよ。でも意外だったな。君なら彼らの誘いに乗ってくれそうだと思ってたのに」

「やっぱり、あのオッサンたちの裏で糸引いてたのは将軍だったんですね。でも残念でしたね。あたしを引っかけたいなら、もっと顔のいい方を用意しとけば良かったんですよ」

「本当にね。あれは迂闊だったな。チトセが一月でここまでたくましくなるとは思ってもみなかったよ」

そして将軍はあたしの、キュレオリアの髪を一房、あたしの両手を押さえていない右手ですくう。

「なぁ、手を組まないか? 君の王姉としての立場と俺の能力があれば、あの辛気臭い宰相閣下も廃せるかもしれない。どうかな?」

「それだったら、最初っからそうしたら良かったんじゃないですか? こんなコトする前に。それにちょっとお尋ねしたいんですけどね。戸締りはしっかり確認したハズなのに、どうやって入って来たんです?」

そりゃもう、念入りにチェックしたハズなんですけどね。

鍵もまじないも、寝る前はちゃんとなってたんだけど。

「まじない? あぁ、あれも侍女に頼んでちょっと細工をさせてもらったよ。鍵なら簡単に開けられるしね。それと初めから君を誘わなかった理由だったかな? それはチトセがあの馬鹿なキュレオリアの生まれ変わりだからだよ」

「馬鹿ぁ?」

そういえば、あたしはキュレオリアのコト、ほとんど知らなかったな。

死んじゃった人のことって、あんまり聞けることじゃないし、特に近しい人には。

でも馬鹿っていうのは聞き捨てならないね。

だって認めたくはないけど、あたしの前世だっていうし、一応今はキュレオリアの体になってるワケだしさ。

あたしが軽く睨むと、将軍は嘲るような笑みを浮かべた。

ムカつく!

「あぁ、知らないのかな? キュレオリアは愚かにも人間に恋をしてね。その人間をかばって死んだんだよ、でも結局、その人間も助からなかったんだけどね。本当に愚かな女だったよ。王姉という身分も捨てて男に走ったのだから」

「人と恋に落ちることの、何がいけないんです?」

「だって人は愚かで、すぐに死ぬじゃないか。大体長生きしても八十年くらいしか生きられない。そんなのと交わったら、誇り高い魔族の血が穢れるよ」

ホントに、将軍はそう思ってるんだろう。

血が穢れるって言った時、ホントに汚いモノを見るような目をしてた。

こんなヤツを爽やか将軍だとか言ってたかと思うと、自分の人を見る目のなさに泣けてくるね。

いくら顔がよくたって、一方的な考えしかできないヤツはゴメンだ。

「こっちの人間がどんなだかなんて、会ったことないから知らない。けどね、あたしも十九年間、人間として生きてきたんだよ。そこまで人間を馬鹿にされて、大人しく黙ってるとでも思ってんの?」

一月も側にいたのに、そんなことも分からないなんて、あまりにもあたしをなめてるんじゃない? いい加減にしろよな。

「でもチトセ、君は賢いだろう? 一月を過ごして分かったよ。一緒にこの国の覇権を握ろう」

「ふん、そんなに権力が欲しければ、反乱でも何でも起こせばいい。自分の手で陛下を討てば? 将軍は武人なんでしょ?」

「それは無理だよ、チトセ。君は何故この城が浮いているか知ってるかな?」

「いつも移動して、しかも空を飛んでる城なら、外敵や逆賊から守るのに有利だからでしょ」

「うん、正解。では、こんな巨大な城を動かす動力は何だと思う?」

は? え〜と、この国の動力の大半は魔力。

石油はないらしい。石炭くらいはあるのかも知んないけど、この国じゃ使われてない。

一般の魔族はランプとかロウソクを使ってるんだってさ。

そもそも、電気や熱でこんなデカイ城が飛ばせるとは思わないけどね。

羽根もプロペラもないんだから。

「やっぱり、魔力しか考えられないね」

「そう。しかも魔王の魔力だ。だから代々の魔王は魔族の中でもっとも魔力の強い者がなるんだよ。余剰を蓄えているから、魔王が急死しても一年くらいは大丈夫だけど、その余剰魔力を使い切ったら、この城は落ちるよ。ちなみに俺にはこの城を支えるだけの魔力はない。だから一番いい方法は、魔王を裏から操ること。その為には陛下の弱点を押さえないとね」

「その弱点があたしだっていうのね」

ちなみにこれは問いかけじゃなくて、確認。

将軍はなぞなぞを解いた小さい子どもを見るような目で笑う。

マジで馬鹿にするにも程があるっちゅうの。

「俺が欲しいのは権力だ。兄がいるから領地は継げない。腕に自信があったから表の十将軍にまで登りつめたけど、将軍は国政にまでは口を挟めない。あの大臣たちはフェイの手の者と君が言えば、陛下は信じてくださるじゃないかな。フェイのヤツを宰相の座から引きずり落とし、裏の十賢者の証を剥奪し、追放する。俺が初の将軍職からなった宰相で君が王姉。二人でこの国を牛耳ろうじゃないか。君とならきっと出来るよ。君だってもっと贅沢したいだろう? 元の世界の話をよく話してくれたけど、向こうではただの庶民なんだろう? 本当に戻りたいのかな? 戻らなきゃならないと、そう思い込んでいるだけじゃないのかな?」

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