第17話
無事に部屋にたどり着いて、あたしはもう一度呼び鈴を鳴らしてみた。
ちょっと待っても、やっぱり誰も来やしない。
なんかオカシイよな。
あたしはふかふかのベッドに腰を下ろして、さっきのことを考えてみた。
普段なら、ちょっと呼び鈴鳴らしただけで、すぐに侍女のお姉さんがすっ飛んでくるのに、誰も来なかったから、あたしは直接出ようと思ったワケだし。
それにあのオッサンたちは、明らかにあたしを待ち伏せしてるみたいだった。
偶然を装ってたけど、それにしては態度が不自然だったね、あれは。
あと気になったのは、オッサンたちが誰かの指示で動いてるみたいだったコト。
相談してる声が少し聞こえたけど、『あの方』がどうのこうのって言ってた。
なんか、ヤバイなぁ。っていうか、きな臭い。
あんな小物じゃなくて、もっと大物が後ろにいそうだなぁ。
マジで気をつけた方がいいかも知んない。
まさか部屋まで押しかけるってコトはないとは思うけど、念のために窓とドアの鍵とまじないを確認した。
ただ鍵をかけただけじゃ、あまり効果ないらしいからね、強い魔力を持った人にとっては。
「シリアスって苦手なのになぁ」
あたしって、コメディ派なんだよね。
なんでこんなコトになっちゃってんだろ。権力争いとかお家騒動とか、無縁な世界に生きてたハズなのにさ。
「これもそれもあれもどれも、全部陛下の所為だ! ちくしょう! 何かあったら呪ってやる!」
そんなことを叫んで、これまたふかふかの枕をぺっちゃんこにするため、ボカスカ殴り、とび蹴りをくらわし、ジャーマンスープレックスホールドをキメたトコで、少しスッキリした。もちろん最後はちゃんとブリッジだ。
よし、枕もいい具合にぺっちゃんこになったことだし、これで安眠できるね。
この世界に電気なんてモンはないらしいけど、どういう仕組みだか明かりはある。
ピロッツ将軍に聞いたら、これも魔力がエネルギーらしい。
ホントに便利だね、魔力って。しかもエコだ。
あたしは明かりを消して、ベッドに入った。
某あやとりと射的が天才的な少年のようにはいかないんで、すぐには寝付けないけどね。
それでも大分うとうととしかけた時、微かな物音がした。
最初は風でしょって思った。
上空に浮かぶ城は、結界が張ってあるとかでそこまでの強風と寒さはないけど、地上に比べればそれなりに風は強い。
初めの頃は気になって眠れなかったけど、最近はもうぐっすりだ。
だから今回も気にしないで寝返りを打つ。
その時、ベッドが不自然に揺れた。まるで誰かが乗っかって来たみたいなカンジで。
あたしは飛び起きようとして、誰かの手で口を押さえられて後ろに倒れた。
ちょっとまってよ! まだ頭がスッキリしないんですけど! え! 何! どうしたの!
声を出そうにも押さえられちゃ無理だし!
「むがっ、もがっ」
暴れようとした手は、まとめて頭の上に押さえつけられた。
「大人しくしろ」
え……? この声は……もしかして……。
暗闇に慣れた目に、目の前の男の顔がぼんやりと見えた。