第16話
あ〜、何か、ホントにスンマセン。
ちょっとアレですよ。
しくじった?
あはは、まぁ、そういうこともあるさ、うん。
小難しいマナーに毎回てこずる豪華な晩餐の後、見事に捉まりました。
脂ぎったオッサンたちに。
「よい夜でございますな。王姉殿下」
「そうですね、キットカット大臣」
「私の名前はキッチェカッツです、王姉殿下」
「あら、ごめんなさい。懐かしい何かと混同していたようです」
うん、あのサクサク感がたまらないヤツ。
「このような所で、いかが致しましたか」
「少し夜風に当たろうと思いましてやって来たんですよ……ヌーボー大臣」
「ヌーローです、王姉殿下」
「えぇ、そう……ヌーロー大臣」
「しかし奇遇ですなぁ、麗しの王姉殿下と直にお話ができ、大変嬉しゅうございますよ」
「そうですね、サッポロポテト大臣」
「サッテポロンです」
「ごめんなさいね、サッテポロン大臣」
うん、ちょっとヤバイよね。
コイツら、あまり評判が宜しくないらしい、大臣たちらしいし。
部屋に戻って、本読んでたら、小腹が空いちゃって、何か頼もうと思って呼び鈴鳴らしても誰も来やしねぇから、ちょっとそこまで出てきたら、ね、こうなちゃったワケで……。
ぶっちゃけ、ピンチ?
しかしコイツら、あたしのこと馬鹿だと思ったろうな。
全員見事に名前間違えたからね。
これがナイスミドルのオジサマだったら、絶対一発で名前覚えるのに……。
カッコイイ人や美人なお姉さんの名前は、スグ覚えられて忘れない。
我ながら都合のいい記憶力ですこと。
「所で、ここで会ったのも何かの縁でしょう。少しお話致しませんか?」
脂ぎったオッサンその一がさっと、庭園の方を示した。
何? あっちでゆっくり座ってお話しましょうってコト?
絶対嫌です。お断り。
でもねぇ、そう簡単に言えれば、楽だけどね。
まぁ、仮にも王姉殿下とか呼ばれちゃったら、下手なこと言えないんだよね。
好きでやってるワケじゃないけどさ、一応それで衣食住を保障してもらってるワケだし。どうしたもんかなぁ。
つーか、こんなことになったと知れたら、またジュトーの兄さんの大目玉を食らいそうだ。
うわぁ、マジ勘弁して欲しいわ、ホント。
さっきだって、勝手に部屋から逃げたコト、こっぴどく絞られたんだからね。
兄さんタッパあるし、声だって低いから迫力満点なんだよ。
マジ怖いって。陛下の百倍怖いね。
ホントに最近運ねぇなぁ、あたし。
どうせ囲まれるんなら、美形の兄ちゃんか美人の姉さんの方がいい。
脂ぎったオッサン、しかもブサイク、しかも何か下品っぽいのなんか、最悪でしょ。
「王姉殿下? どうか致しましたか?」
「いいえ。どうも致しませんが?」
「ではよろしいでしょうか?」
「そうですね……」
あたしを暗殺したって、陛下の怒りを煽るだけっていうことは、どんな馬鹿にも分かるハズ。
危害を加えようとはしないでしょ。
コイツらのねらいは、おそらくあたしを丸め込むこと。舌先三寸や貢物、それであたしを自分たちが有利なように操ろうって腹だね。つまりはおべっかと賄賂だ。
ここで強く拒否すれば、逃げることは出来ると思う。なんてたって、あたしの方がここじゃ身分が上だからね。無理矢理連れて行ったら、コイツらの方が不利だ。
ついでにあたしからついてった場合、あたしの立場が悪くなる可能性があるんだよね。そこでどんな取引があったかって、勘ぐられるのがオチでしょ。いくら王姉殿下とか言っても、逆賊と周りに思われちゃうかもだし。面倒なことは避けたいってのが本音。
うん、ここは引き下がった方が得だね。
それにこんなオッサンたちに囲まれて話なんかしたくないし。目がギラついて野心丸見え。
あとで陛下かジュトーの兄さんに名前言っとけば、すぐに目つけられるでしょ。
あたしはそう考えて、王姉殿下スマイルを浮かべた。
バリバリの一般ピープルのあたしが一月かけて浮かべられるようになった、最終兵器(?)だ。
「申し訳ございませんが、お断りさせて頂きます。このような夜更けに殿方とお話するのは、大変はしたないことと聞いておりますので」
色んな小説なんかで読んだ、お上品な喋り方っていうのを実践中。
しかしこれって、現代の大学生のセリフじゃねぇよなぁ。
あー、ムズかゆい! あたしのキャラじゃないんだって!
こんな姿、絶対友達には見せらんないね! お前誰だよ! ってツッコミ入るし、絶対。
まぁ、そんな心情を表に出さないくらいに面の皮は厚くなったけどな。
自分がこんなに演技派だとは、思っても見なかったよ。
オッサンたちはまさか断られるなんて思っても見なかったのか、なんか慌てて相談してる。
なんであたしがそんな大人しくついてくと思ってたのかね。
そんなホイホイ後ついてくような尻軽に見えたとしたら心外だね。
まぁ、美人さんだったら、ちょっと考えちゃうけど……多分。
「では、失礼しますね。お休みなさい」
いつまでも馬鹿なオッサンたちに付き合ってるほど、あたしはお人よしじゃないんでね。
さっさと部屋に戻ることにした。