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第15話

はぁはぁはぁ。

あまりの臭さに耐え切れず、あたしは部屋の外に逃げ出した。

腰のあたりに、まだお荷物がへばりついてたけど、そんなのにかまってる余裕はハッキリ言ってない。

いや、ホントに。

あれだよ。何をおおげさなとか、思ってらっしゃるであろう、そこのあなた! 甘い、実に甘い! チョコレートケーキの上に生クリームをのせて、粉砂糖をかけちゃうほど甘い考えだよ!

あの臭さは体験した者じゃなきゃ、絶対解かんないって。

まぁ、強いて例えるなら、一年風呂に入ってないオッサンが、ヘドロが溜まってそうなドブ川で水浴びをした後、くさやと納豆とニンニクを食べて吐いた息に、なおかつ生ゴミの腐臭をブレンドしたような、感じ?

もちろん、そんな臭いを今まで嗅いだことなんてないけどさ。

イメージだよ、イメージ。それくらい臭かったってコト。あんな体験は二度とゴメンだ。

「姉上、大丈夫?」

「大丈夫なワケあるはずないしょう。何でいきなりタックルかましてくるんですか? ワザとですか? ワザとですね? いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも! 腰痛めたらどうしてくれるんですか? 若い身空でギックリ腰とかシャレにならないんですけど。大体、陛下はあれですね、人の話を聞かなさ過ぎですよね。世界の全てが自分中心に動いているという天動説でも信奉してらっしゃるんですか? 世界は私の為にあるとでも思ってらっしゃるんですか? 自分にそうなる値打ちがあると思ってるから、そんなことが出来るんですよね? でもそれって自己中にもほどがあると思いません? あぁ、思ってたらそうはなりませんよね。すみませんでした。じゃあ言い方を変えます。今すぐそのことを自覚してください。そしてあたしを元の姿に戻して、元の世界に帰らしてください、つーか、むしろ帰せ、ボケナス」

はぁ、はぁ。

ここまで一気にまくしたてました。

う〜ん、ストレスって溜め込むと体に悪いからなぁ。

ただでさえこの一月、ストレスたまる生活してるってのにさ、さらに追い討ちをかけるようなことを、なんでまたしでかしてくださるんですかね、陛下は。

何だか言いにくそうに下向いてるけど、同情なんてカケラもしませんよ?

「あのね、姉上。お話があるの」

お〜い?

ホント、人の話は聞きましょうや。何で、そこで自分の話になるかな、オイ。

「……あたしの言ってることが分からなかったなら、もう一度言って差し上げましょうか?」

ノンブレスでな。

「ううん、姉上のお話は分かったよ。つまり元の姿に戻して、元の世界に帰せってことでしょう?」

「そうです。今すぐ帰してください」

「でも、僕は嫌だし」

オイ、コラ。

「それにね、僕のお話の方が大事だから」

「……あたしの話は大事じゃないって言うんですか……」

「えへ」

えへじゃねぇぞ! えへじゃ!

頬を染めてもじもじすんな! それでも百六十歳か、ワレ!

「それで? 陛下のあたしの話より大事な話って何ですか?」

腹の底からひっくぅーい声を出してやる。

しかもいつもは浮かべないような極上の笑顔付きだ。

「うん、あのね……」

普通にスルーしてくださる陛下が、あたしは大っ嫌いです。

「姉上? 聞いてる?」

「カケラも聞いてません」

けっ、聞けるかっつーの。

あー、あなたがそんな怒った顔したって、まったく怖かないですよ。

すねたように睨んでも無駄だって。

美人さんが怒ると怖い法則は、もっと大きくなってから適用されるもんですよ。

今は可愛い子はいくら怒っても、全然怖くない法則が適用中だよ、アンタは。

「もぅ、姉上! とっても大事なお話だって言ったよね? ちゃんと聞いてよ」

「ハイハイ」

まぁ、一応聞いて差し上げますわ。あたしにとって有益な情報かも知んないしね。

「本当にちゃんと聞いてね。とっても大事なお話だからね」

「分かってますって」

しつこいなぁ。

「あのね、今ね、ちょっとお城の中がゴタゴタしちゃっているの。派閥争いみたいのが出来ちゃってね。僕も治めようとしているのだけど、水面下で動かれると中々難しくて。でね、その中で姉上を利用しようとしている輩がいるって情報が入ったの。まだ詳しい出所が分からないから、特定を急いでいるのだけど……。姉上、絶対一人にならないでね。あと、あまり親しくない人と二人っきりとか、大勢対一人とかにならないように気をつけて。大丈夫?」

「分かりました。気をつけますよ」

あー、あたし最近張り切っちゃってるからなぁ。ちと裏目に出ちゃったカンジ?

陛下が“姉上”に執着してるのは、皆知ってるもんね。

そういう輩が出るのは、むしろ自然な流れかもな。

うんうん、どの世界のどの時代でも、権力って魅力的なのね。

まぁ、あたしは権力とか、どうでもいいけど。

「本当に大丈夫?」

あ、何さ、その疑わしいものを見るような目は。

あたしにだって、それくらいの知識はあるんですからね。

権力争いの醜さは、古典の世界にだってあるんだからな。

「大丈夫ですってば、陛下。キチンと気をつけますよ。あたしだって利用されてポイッとか、絶対にイヤですもん」

どうせなら、あたしが利用する立場に立ちたいよ。面倒なことは嫌いだけどな。

「本当に本当に?」

「本当ですってば。あんまりしつこいと、あのべレッタヒッピーの腐った卵を食わせますよ?」

「姉上、あれ、グレンフィビスの卵だよ」

「……そうとも言いますね」

すいません。とうとう一文字も合わなくなりました。

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