第1話
ねぇ、あなたは魔王って単語に、どんなイメージを持ってる?
強面のバケモノ? カッコイイお兄さん?
それともナイスバディのお姉サマだったりする?
今ちまたでは異世界召喚モノって流行ってるから、いろんなタイプがあって一概には言えないと思う。
けどさ、そういうのって大抵、異世界に跳ばされた人がなったりするもんだよね?
なのにあたしの役割は魔王の姉だっていうんだよ。
夢にしても微妙な役柄だと思わない?
というか、そんなのんきに夢見て寝てる場合じゃないんだよ!
明日提出のレポートがまだ終わってないんだってば!
これ落とすと単位もらえないから!
夢なら覚めてよ! ヤバイんだって、いや、マジで!
どうも皆様、こんばんは。昼間だったらごめんなさい。
一人称小説ならではのお約束。自己紹介に入らせていただきます。
あたしの名前は尾上 千歳。
ギリギリ十代の大学二年生です。
専攻は日本文学。趣味がWEB小説漁りで、特技は毒舌。
性格は中学生時代の失恋から顕著になったけど、割と偏屈だと言われる。
偏屈なんて言葉、普通の女子大生には使われない表現だけど、自覚もあるから無問題。
え〜と、あと、どんなことを話せばいいのかね。
あぁ、今あたしが置かれている状況か。
古典のレポートを仕上げるため、徹夜二日目でパソコンに向かっていたハズなのに、なんだか知らんが、いきなり開いた穴に落っこちた。
気分はあれだ、遊園地にある高い塔の周りに座席があって、落ちるヤツ。
垂直落下式スリルライド。
ただし座席も安全バーもございません。
絶叫系が嫌いなあたしは、乗ったことなんてないけどね。
で、スポーンと飛び出した先に待っていたのは、豪華絢爛な大広間……じゃなくて、なんだか陰気でかび臭い、地下室のようなトコ。
ガサガサという不吉な音は、聞かなかったことにしたいです。
ありえない状態に周りを見回してみると、五、六歳くらいのお子様と目が合った。
ところがどっこい、このお子様はそんじょそこらにいるようなお子様じゃあなかった。
とにかく可愛い。マジで可愛くて愛らしい。天使も裸足で逃げ出すくらいに。
こんな子が街中を歩いてたら、すぐに変態にさらわれちゃうね。
思わず連れ去っちゃうくらいに可愛いから。
そのお子様があたしを見て、にこっと本当に嬉しそうに笑った。
うわぁ。反則でしょ! その笑顔は。お姉さん鼻血出ちゃうよ!
「姉上!」
は〜い。
……じゃなかった。
徹夜二日目の頭は、まともに回転なんざしてくれません。
テンションがおかしいのは、きっとそのせい。
いつもはもっとクール……なハズ。
くらくらする頭で、そんなことをぐるぐる考えてたら、天使よりも可愛いお子様が、両手を広げて駆けてきた。
けれど徹夜二日目で垂直落下式スリルライドを生まれて初めて体験したあたしは、勢いよく飛びついてきたお子様を抱きとめることができず、見事に体勢を崩して後頭部を床に強打。
そのまま夢の中で夢の世界へ、ハイさようなら、した。