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第37章 宛先違いの告白

 ユダのスクーターが、シャニアの家の門の前で静かに止まった。住宅街の静けさの中に、エンジンが切れる音がはっきりと響く。


 トリアは急いで後部座席から降りた。道中、あまりにも近かった二人の距離に、乱れた呼吸を整えようと必死だった。


 立ち去ろうとしたその時、手首にユダの指が回された。強くはないが、彼女の足を止めるには十分な力だった。


 ユダはバイクを降り、トリアの目の前に立った。至近距離で見上げる彼の顔に、トリアは思わず息を呑む。


 ユダの手が、トリアの顎の下にあるヘルメットの留め具に伸びた。カチリ、と音が響く。彼は丁寧に、ゆっくりとヘルメットを脱がせてくれた。


「あ……ありがとう、ユダさん。送ってくれて」


 震える手で髪を整えながら、トリアは視線を逸らした。彼の瞳を直視する勇気はなかった。


 ユダはすぐには立ち去らず、ポケットからスマートフォンを取り出した。画面の光が彼の顔を照らす。


「トリア、そういえばまだ連絡先を交換していなかったね。番号を教えてくれるかな?」


 不意を突かれ、トリアは言葉を失った。これほど落ち着いた様子で、真っ直ぐに聞かれるとは思ってもみなかったのだ。彼女はたどたどしく数字を伝え、ユダはそれを手際よく打ち込んでいく。


「保存したよ。家に着いたら連絡する」


(家に着いたら連絡する? それって、どういう意味……!?)


 胸に喜びと戸惑いが同時に押し寄せる。


 ユダは微かに微笑むと、再びバイクに跨った。ヘルメットを被り、短く手を振ってから、彼は角の向こうへと消えていった。


 トリアは門の前で立ち尽くし、激しく脈打つ胸を押さえた。彼の態度の変化に戸惑いながらも、溢れ出す喜びを隠しきれず、頬が熱くなるのを感じていた。


 一方、ヘルメットのシールドの裏で、ユダは左手で小さくガッツポーズを作っていた。道中、彼は満面の笑みを浮かべていた。トリアのあの恥じらうような反応は、自分の想いが一方通行ではないという確信に変わっていた。


 しばらくして、トリアはシャワーを浴び終えた。タオルで髪を乾かしていると、肌から石鹸の清々しい香りが微かに漂う。


 柔らかいベッドに身を投げ出し、ぼんやりと天井を見つめた。思考は先ほど門の前で起きた出来事へと引き戻される。


 トリアは、ユダに掴まれた自分の手首にそっと触れた。彼の指の温もりが、まだそこに残っているような気がした。


「……本当に、私のことが好きなのかな」


 静かな部屋で、ぽつりと独り言が漏れる。


 すぐに首を振って、自惚れすぎだと自分を戒めた。けれど、打ち消そうとすればするほど、ユダの顔が鮮明に浮かんでくる。


 今日の彼の仕草は、いつもとは明らかに違っていた。手首を引く仕草も、ヘルメットを外す時のあの距離も、ただの友人としては近すぎた。


 顔を近づけられた時、彼の纏う清潔感のある男性らしい香水の香りが鼻を掠めたことを思い出す。その瞬間を反芻するだけで、心臓がまた騒ぎ出した。


 急に顔が熱くなり、トリアは枕に顔を埋めて身悶えた。


「ユダさん……変だよ、絶対」


 枕越しに籠もった声で零す。


 文句を言いながらも、唇には隠しきれない笑みが浮かんでいた。


 不安と恥ずかしさが入り混じりながらも、今日の彼の強引な振る舞いが、本当は嬉しくてたまらなかった。


 サイドテーブルの上のスマートフォンが激しく震えた。トリアは弾かれたように飛び起き、反射的にそれを掴んだ。連絡するという彼の言葉を待っていたのだ。


 しかし、画面に表示された『ミラ』の名前を見て、一気に肩の力が抜けた。深いため息をつき、通話ボタンをスライドさせる。


「トリア! 今の何!? なんでユダさん、あんなに積極的なのよ!」


 ミラの甲高い声が、容赦なく耳に飛び込んできた。


「……わからないわよ、そんなの」


「嘘おっしゃい! 何かあったんでしょ? 白状しなさい!」


 ミラの追及に、トリアは枕の端を弄りながら小さく吹き出した。自分でも、オフィスや門の前での出来事が信じられないのだ。


「ユダさん、絶対にトリアのことが好きだよ。あの手首の引き方、すごく独占欲を感じたもの!」


 ミラの興奮した声に、トリアの心臓が跳ねた。鏡に映る自分の顔は、また真っ赤に染まっている。


「変なこと言わないでよ、ミラ。誤解されたら困るわ」


「はいはい、いつもの言い訳ね。それで、トリアはどうなの? あんな風にロマンチックに迫られて、嫌じゃなかったんでしょ?」


 トリアは言葉に詰まった。笑みが溢れそうになるのを必死に堪え、親友にはまだ本心を隠そうと抗う。


「……わからないってば。混乱してるの」


 笑いを堪えるあまり、声が震える。


 ミラは電話の向こうで「正直になりなさいよ」と食い下がった。耐えきれなくなったトリアは、一方的に電話を切ることにした。


「もう知らない! とにかく、わからないったらわからないの!」


 通話を切り、トリアはベッドに倒れ込んで声を上げて笑った。


 好奇心旺盛なミラのことだ、すぐにかけ直してくるに違いない。案の定、数秒もしないうちに再び着信音が鳴り響いた。


 トリアは画面を確認もせず、勢いよくスマートフォンを耳に当てた。


「はいはい……正直に言うわよ、好きよ! ユダさんのあんなロマンチックな態度、すごく嬉しかったわ。これで満足!?」


 沈黙。


 予想していたミラの怒鳴り声も、冷やかしの声も聞こえてこない。トリアは眉をひそめ、不審に思って問いかけた。


「もしもし、ミラ? 聞いてるの? なんで黙ってるのよ」


「トリア……僕だよ、ユダだ」


 低く、柔らかなその声が鼓膜を震わせた瞬間、トリアの目が見開かれた。心臓が、一瞬で凍りついたかのように止まった。

第37章、お読みいただきありがとうございます。

まさかの展開に、トリアちゃんも皆さんも心臓が止まりかけたのではないでしょうか……?

「ヤバい」「どうなるの!」といった叫びコメント、大歓迎です。

次の章でどうリカバリーするのか(あるいは悪化するのか)、お楽しみに。

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