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第14章 安らぎの背中

「あれ?シャニア?ここで何してるの?」とユダは驚いた声で尋ねた。


 シャニアはその友人の表情を見て小さく笑った。トリアがよく見えるように、立ち位置を少し横にずらす。


「仕事の面接の付き添いよ、ユダ」とシャニアは気楽に答えた。


 ユダの眉間がさらに深く寄った。数秒間、その答えを処理できずに戸惑っているようだった。


「面接?まさか転職するつもり?」とユダが聞き返す。


 シャニアはすぐに首を振った。そして、少し離れたところに立っているトリアへ人差し指を向ける。


「私じゃなくて、トリアのためよ」


 ユダはシャニアの指先を追った。先ほどからそこに立っていたのがトリアだと気づき、目を丸くする。


 トリアはユダを見つめ、薄く微笑んだ。丁寧な挨拶として、小さく会釈をする。


「トリ……トリア?」ユダは言葉を詰まらせた。急に落ち着きをなくし、姿勢を正して真っ直ぐに立つ。


「はい、ユダさん。シャニアさんに、ここでの仕事探しを手伝っていただいているんです」とトリアは説明した。


 驚いていたユダの表情が、徐々に心配そうになった。深く、探るような視線でトリアを見つめる。


 ユダの脳裏に、昨日の空港での出来事が蘇った。ハルランと対峙した時の、トリアのあの脆い姿をはっきりと覚えている。


「大丈夫なんですか?その……数日、休んだほうがいいんじゃないですか?」ユダは慎重に、静かな声で尋ねた。


 そのやり取りを見ていたシャニアが、ユダの脇腹を軽く肘で突いた。からかうような、いたずらっぽい視線を彼に向ける。


「あらあら、随分と心配性ね」シャニアは小さく笑いながら冷やかした。


 ユダの顔が耳まで一気に赤く染まった。何度も咳払いをして、大理石の床へと視線を逸らす。その姿はさらにぎこちなくなっていた。


 そのユダの様子を見て、トリアは笑いを堪えきれなかった。彼女の小さな笑い声が、静かなロビーの気まずい空気を和らげる。


「もうずっと気分はいいんです、ユダさん。ありがとうございます」トリアは落ち着いた、確信に満ちた声で言った。


 ユダは再び勇気を出してトリアを見た。そして彼も微笑んだ。その安堵の笑みによって、顔に浮かんでいた心配の皺がゆっくりと消えていく。


 シャニアは胸の前で腕を組んだ。「ユダはこれからどこへ行くの?」


 ユダは答える前に、腕時計をちらりと見た。


「昼飯を食べに行くところだよ。終わらせなきゃいけない報告書があって、今やっと出られたんだ」


 その答えを聞いて、シャニアの目が輝いた。何か名案を思いついたようだ。


「ちょうどいいわね。ユダ、トリアを家まで送ってあげてくれない?」シャニアは弾んだ声で提案した。


 突然の提案に、トリアは小さく肩を揺らした。少し慌てた様子でシャニアを見る。


「えっ?結構です、シャニアさん。そんなの悪いです」トリアは首を振りながら慌てて遮った。


 トリアはユダの方を向いた。その瞳には、申し訳なさがはっきりと表れていた。


「これ以上、ユダさんに迷惑をかけたくありません。これからお昼に行かれるのに」と、細い声で付け加える。


 ユダはゆっくりと首を振り、トリアの顔に浮かぶ不安を和らげようとした。


「迷惑だなんて全く思っていませんよ、トリアさん。それに、シャニアの家はここからそう遠くありませんから」ユダは穏やかな声で言った。


 シャニアは指を鳴らした。ユダの言葉に後押しされたようだ。


「ほら、聞いたでしょ?ユダも構わないって。あなたが一人でタクシーで帰る方が、私としては心配なのよ」シャニアは説得するように言った。


 トリアはまだためらっていた。無理をしているのではないかと確かめるように、もう一度ユダを見る。


「本当に大丈夫ですか?お昼休みの邪魔をしたくなくて……」トリアは静かに尋ねた。


 ユダはトリアを安心させるように、心からの薄い笑みを浮かべた。


「問題ありませんよ」ユダは力強く答えた。


 トリアはついに小さく息を吐いた。まだ少し遠慮はあるものの、その申し出を受け入れたのだ。


「それなら……お言葉に甘えます。ありがとうございます、ユダさん」


 話がまとまったのを見て、シャニアは満面の笑みを浮かべた。三人は一緒に歩き出し、ロビーを抜けて建物の出口へと向かう。


「そうそう、これ家の鍵ね」シャニアはそう言って、キーホルダーをトリアの掌に渡した。


 建物の前庭に出ると、シャニアは立ち止まり、スマートフォンの画面を忙しそうに確認し始めた。


「私は早く職場に戻りたいから、ここから配車アプリでタクシーを呼ぶわ。二人はそのまま駐車場に行って」とシャニアが指示を出す。


 トリアは頷き、二輪車用の駐車場へと曲がっていくユダの背中を追った。


 じりじりと焼けつくようなサヌールの太陽の下、整然と並んだ車両の間を二人は並んで歩いた。


 自分のスクーターの前に着くと、ユダはシート下の収納からヘルメットを取り出し、トリアに渡した。トリアはそれを受け取り、すぐに被ってあご紐の金具がしっかりと留まっているか確認する。


 ユダがバイクに跨り、スターターボタンを押すと、エンジンが静かに唸り声を上げた。トリアは座り心地を確認してから、後ろのシートに腰を下ろす。


 トリアが準備完了の合図を送ると、ユダはゆっくりとアクセルを回した。バイクが動き出し、駐車場を後にする。


 道中、トリアは黙ったまま、目の前にあるユダの逞しい背中を見つめていた。出会ったばかりだというのに、その背中はなぜかとても見覚えがあるように感じられた。


 トリアの記憶が、突然昨日の空港での恐ろしい出来事へと引き戻された。かつて愛した男の怒りから自分を守るため、ハルランの前に立ちはだかったユダの姿を思い出す。


 無意識のうちに、トリアの口元に薄い笑みが浮かんだ。今の混乱した生活の中に、小さな安らぎが忍び込んできたような気がした。


「いい人だな……」トリアは囁くように呟いた。その声は、すぐに道路の風に飲み込まれて消えていった。


 数分後、ユダのバイクが速度を落とし、シャニアの家の前でぴったりと止まった。トリアは慎重に後部座席から降りる。


 ヘルメットを脱ぎ、両手でユダに返す。トリアは感謝の念に満ちた瞳でユダを見つめた。


「本当にありがとうございました、ユダさん。今日はご迷惑をおかけして、改めてごめんなさい」トリアは心からの笑顔を添えて言った。


 ユダはヘルメットを受け取り、バイクのフックに掛けた。


「どういたしまして、トリアさん。気にしないでください。会社からも近いですし」ユダは穏やかに答えた。


 ユダは再び両手でハンドルを握り、中断していた道のりを再開する準備をした。


「それじゃあ、僕はこれで」とユダが別れを告げる。


 トリアは小さく頷き、別れの微笑みを向けた。道端に立ち、ユダのバイクがゆっくりと遠ざかり、やがて道の角に消えていくのを見送る。


 トリアはゆっくりと歩き出し、バッグからシャニアに渡された鍵を取り出してドアを開けた。中に入ってドアを閉めると、リビングのソファへと向かう。


 腰を下ろして背もたれに寄りかかり、信じられないという思いで天井を見上げた。すべてがあまりにも早かった。バリに到着したばかりだというのに、もう新しい仕事が決まったのだ。


「それなら、サンティに連絡して、卒業証明書を送ってもらうようにお願いしなきゃ」トリアは呟いた。


 トリアはバッグを探り、スマートフォンを取り出した。連絡先からサンティの名前を探し、発信ボタンを押してその薄い端末を耳に当てる。


 向こう側で呼び出し音が数回鳴った。トリアが辛抱強く待っていると、やがて電話の向こうから、よく知る明るい声が聞こえてきた。


「トリア!やっと電話してくれた!」サンティ特有の高い声が響く。


 トリアが挨拶を返す間もなく、サンティの声が再び聞こえてきた。今度はさらに興奮した、好奇心に満ちた声だった。


「それで、昨日の空港で一緒にいた男の人って誰なの!?」サンティは単刀直入に尋ねた。


 トリアは座ったまま、ハッとして言葉を失った。全く予想していなかった質問に驚き、何度か瞬きをする。


「えっ?男の人?サンティ、誰のこと?」トリアは戸惑った声で聞き返した。


ユダさんのバイクデート、どうでしたか?少しだけ距離が縮まった気がします。サンティの反応も次回の楽しみです。ブックマークしておいてね。

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