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ポケットに詰め込んだ憧憬  作者: 悠介


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3/6

悠治と良太

「ふあぁ……。」

 朝五時に目が覚めて、丁度いいからと思って朝風呂に入る。

 陽が東から昇ってきていて、海をキラキラと照らす様は、綺麗だ。

 朝ご飯まではまだ時間がある、ゆっくり湯船に浸かりながら、これからの事を考える。

 浩介は、完治したら一緒に旅に出たい、と言っていた、俺もそうしたい。

 悠治には仕事を辞めて貰わなきゃならないけど、出来れば一緒についてきて欲しい。

「ふぅ……。」

 ライター、とっても、二人分の旅費を負担出来る程は稼げてない。

 株にも手を出してるけど、それが実るのももう少し先だと思うし、あんまり先走って色々しちゃうと後が苦しい。

 どうしたもんか、って悩みながら、湯船にゆっくり浸かって悩む。


「坂崎さん、おはよう。」

「前野さん、おはよう。」

「手術、受ける気なんだって?応援してるよ。」

 浩介は、自分とそう歳の変わらない看護師の男性、前野に起こされる。

 前野は何処か悠介に似ていてぽっちゃりしていて、この時期になると汗拭きシートが手放せない、と嘆いていた。

 年齢が近い、という事もあり、浩介には敬語を使わないが、浩介としてもそれが心地良い。

「朝ごはん、食べれたら食べてね。食べれなかったら、点滴用意するから。そう言えば、手術を受けようと思ってる事、坂入さんと悠治君は知ってるの?」

「うんとね、悠治に話したんだ。リスクのある手術になるから、って。でも、悠介には言ってない。旅を楽しんで欲しいから、心配かけたくないから。」

「それ、ちょっと悲しいんじゃない?恋人の一大事だって言うのに、傍にいてあげられないって、悲しいと俺は思うよ?大切だから、傍にいてあげたい、って思ってるんじゃないかなぁ。」

「そう、なのかな……。悠介はずっと、旅をしたがってたから……。だから、送り出すのが、僕のやる事なんだって、そう思ってたんだ。」

 それは間違いじゃないけどさ、と前野は一呼吸置く。

 確かに、悠介はずっと旅に出たいと願っていた、その為にライターという仕事に着き、他にも稼ぐ方法を模索していた。

 しかし、それと浩介の手術の事とは、また優先度が変わってくるのではないか、と前野は感じていた。

「俺だったら、の話だけどさ。坂崎さんが手術受けるってなったら、傍にいてあげたいよ。だって、怖いじゃん?成功確率が低いわけでもないけどさ、もし失敗しちゃったら、死んじゃうんだよ?そんな事になってるのに、傍にいられないって、寂しいし悲しいよ。」

「そう、なのかな……。」

 自分がその立場になったら、と浩介は考えてみるが、そういった事を考えるのは昔から苦手で、悩んだ所でわからない。

 しかし、確かに言われてみれば、もしも悠介が自分と同じ立場だったら、傍にいてあげたい、と願うだろうとは考えられる。

「旅だなんて、しようと思えば何時でも出来るんだからさ。傍にいたいって言う気持ち、尊重してあげるのも良いんじゃない?」

「……。僕の、我儘じゃないかな……。」

「むしろ、坂入さんの我儘を聞いてあげて欲しいよ。きっと彼、坂崎さんに言われたからって、旅に出たんでしょ?なら、傍にいたいって思ってるだろうからさ。」

 それじゃ俺は、って言って前野は病室を出て行く。

 浩介はゆっくりと朝ご飯を口にしながら、これからどうすればいいのかを考え始めた。


「朝ごはんの写真、綺麗に撮れたろ?」

「すっごい美味しそうだよ、僕も食べたいなぁ。」

 朝ご飯はぶりのしゃぶしゃぶで、朝からパンチのある料理を出すんだなって印象だ。

 でも美味しくて、思わずカメラを忘れて食べそうになって、その癖はホントに変わらないんだなって、自分で思う。

「あのね、悠介……。」

「ん、どした?」

「えっとね、その……。」

「ん?」

 歯切れが悪い、なんてのも珍しい。

 普段の浩介はこう、はっきりと物を言うタイプだし、悩んでる時は黙る事が多い。

 だから、こうやって悩みながら言葉にしようとする、って言うのが珍しい。

「帰ってきて欲しい、って言ったら、我儘かな……?」

「なんでだ?」

「えっとね……。今じゃないんだ、今じゃないんだけど、手術を受けようと思うんだ。だから……。だから、悠介に、傍にいて欲しいって。」

「何当たり前の事言ってるんだよ、当然帰るに決まってるだろ?一番傍にいたいんだから、寂しい事を言わないでくれよ。手術はいつだ?すぐに帰った方が良いか?」

 俺は、取材の予定を全部蹴って帰るか、って考えてたんだけど、そう言えば今じゃないって言ったな。

「まだ、手術の日程とかは決まってないんだ。だから、またお願いしてもいい?」

「当たり前だろ?いつでも帰るから、直ぐに教えてくれよな。約束だぞ?」

「うん……。悠介、ありがとう。」

 電話越しでも、浩介がホッとしたのがよくわかる。

 元々感情が顔とか表情、声とかに出やすい方だとは知ってたし、何より出会ってからもう十何年と一緒にいるんだ、それ位わかる。

 浩介は、俺に我儘を言ってると思ってて、旅に出た理由も、帰ってきて欲しい理由も、浩介の我儘だと思っちゃってるんだろう。

「俺は、確かに浩介に言われて旅に出たよ。でもそれは、俺がそうしたいからって言う気持ちもあるんだ。旅に出て、写真を送って浩介を励ましたい、そう思ったからこそ、旅に出たんだ。だから、帰る理由があるのなら、俺はすぐにでも帰るよ。」

「悠介……。」

「だから泣くんじゃないよ、浩介。泣くのは、治って嬉しくなった時だけだ。」

 浩介の漏らしてる嗚咽に、気づかないわけがない。

 浩介は、何かと昔から泣きがちで、来弱っちゃ気弱だった。

 でも、そんな浩介だからこそ守りたいと思った、そんな浩介だからこそ好きになって、一緒に頑張りたいと思った。

 だから、泣いて欲しくない。

「ごめんね……、泣かないって、決めてたのに……。」

「謝る事じゃないよ。でも、泣くのは最後に嬉しい事があったら、それは約束だ。」

「うん……。」

「それじゃ、俺はこれから移動だから。また後でな。」

 そう言って、電話を切る。

 浩介は、どう思ってるんだろうか、どうして欲しいんだろうか、って考えながら、俺は宿を出て次の目的地に向かう。


「坂崎さん、悩み事?」

「あ、前野さん……。えっとね、悠介に伝えたんだ、手術の事とか、傍にいて欲しい事とか。」

「そっか、ちゃんと伝えられたんだ。良かった、すれ違いなんてあったら悲しいもん。」

 涙を拭い、少し嬉しそうにする浩介。

 悩んでいるのかと思ったが、涙を止めたかっただけなのか、と前野は思い返し、浩介がきちんと話をした事にホッとする。

 もしも自分が悠介の立場だったら、本当に傍にいてあげらえれないのは辛い、と思っていたから、浩介がそう言えた事が喜ばしい。

「ちゃんと伝えられた?思ってる事、伝えたい事。」

「うん。我儘かもしれないけど、そうして欲しいって事は言えたよ。ありがとう、前野さん。前野さんが言ってくれなかったら、きっと僕言えなかった。」

 背中を押してくれた、それは嬉しかった。

 出来るだけ迷惑をかけない様に、とばかり考えてきて、今ではそれが習慣になってしまっている中、自分の想いを伝えたというのも久しいかもしれない、と浩介は思う。

 きっとそれは、浩介の本質なのだろう。

 相手のして欲しい事、相手にして欲しい様にして欲しい、それが恋人だからとか、兄弟だからとか、そう言う事ではなく、誰に対してでも。

 相手にとっての一番を考えて、自分をおざなりにしてしまう、とでも言えば良いのだろうか、それが浩介の根っこの部分の考え方なのだろう。

「今日も暑いよ、散歩は夕方にした方が良いかもね。」

「うん、そうする。」

 前野は、朝食のトレイを下げると、病室を出て行く。

 浩介は、夏と言えば野球をやっていた、あの青春時代が少し懐かしいな、と思いながら、照り付ける太陽を眺めていた。


「ふぅ、食った食った。にしても、色物ってわりに美味かったな……。」

 昼過ぎ、愛知県は名古屋市、喫茶マウンテンから出てきた悠介は、今日のホテルに行って昼の内にマウンテンの記事を仕上げておこうと車を走らせていた。

 夜ご飯は名古屋コーチンを出している店に行く予定だ、それまで腹ごなしに頭を動かしておこう、と。

「お、電話だ。」

 車を走らせてると、浩介から電話がかかってくる。

 俺はスピーカーにして、電話に出た。

「悠介、まだ車?後でかけた方が良い?」

「ん、だいじょぶだぞ?」

「そっか、良かった。お昼ご飯、あれ何食べたの?」

「苺パスタ、名物って言うか色物って言うか、結構おいしかったぞ?」

 苺のパスタ、って聞いて、浩介はえー!?って言ってる。

 まあ俺も驚いたし、抹茶のパスタとかクリーム乗っかってるのもあったから、実物見てびっくりしたけどね。

「そっちも昼飯は食ったのか?まだ散歩するのには暑いか?」

「うん、食べたよ。こっちよりそっちの方が暑いんじゃない?前野さんが今日も暑いって言ってたけど、まだまだ夏終わらなそうだね。」

「前野さん、って言うと、俺らと同い年位のあの人か。相変わらず浩介は友達作りが上手だな。瀬川さんは元気してるか?あの人、たまに体調悪そうにしてた気がするけど。」

「うん、瀬川さん、病気がちな息子さんがいるんだって。僕と同じだって、でも、瀬川さんも息子さんも、頑張ってるって。だから、僕も頑張りたいんだ。悠介と悠治の為にも、僕の為にも。励ましてくれたんだ、強い人だよね。」

「……。そうだな、あの人は強い。でも、心細いんじゃないかな。浩介を見てると、自分のお子さんを見てるみたいだって、そう言う事だろ?強がってるけど、ホントは心細いんじゃないかな。だから、瀬川さんの為にも、治さないとな。治したらきっと、瀬川さんにとっても希望になるから。」

「悠介は、よく人の事を見てるよね。僕、そんな事気づけなかったよ。」

「そんな事ないよ。俺だってまだまだ未熟だ、これから先色んな事を経験して、感覚鍛えていかないと。俺さ、いつか、俺の書いた記事を通して誰かの勇気になれたら、そう思ってるんだ。旅の記事でもご飯の記事でも、一人でも多くの人の希望になりたいって。勿論、浩介の希望になりたいってのが、一番なんだけどさ。俺の書く言葉で、誰かがそれを希望にしてくれたら、そう思うんだ。」

 高校生の頃、思い出す。

 俺が落ち込んで仕方がなかった時期に、一つのコラムに掲載されてた言葉があった。

―立ち向かわなくてもいい、ただ、前を向いて歩ければいいー

 それは、俺の中で一つの指標になる言葉だった。

 当時親と仲が悪くて、じいちゃん家から学校に通ってて、そんな時に新聞のコラムに掲載されてた一文、そのたった一文に、俺は勇気をもらった。

 俺はグルメライター、トラベルライター、確か、そう言った言葉とは無縁かもしれない。

 でも、俺が書く記事を見て、この景色この食べ物の為に、もう少しだけ生きてみよう、って思って欲しいって気持ちがある。

 いつかはコラムも書いてみたい、でもそれは、俺の人生経験って言うのがもうちょっと、熟してからの方が良いんだと思う。

「僕は勇気をもらってるよ、悠介にも、悠治にも。だって、僕は二人がいなかったら、今頃死んじゃってたと思うから。だから、悠介の願いは、きっと叶うよ。」

「そうかな。そうなれる様に、頑張らなきゃな。」

 そうこう言ってる内に、今日のホテルに到着する。

 通話を繋げたままホテルで受付して、最上階の部屋に通される。

「浩介、ビデオ通話に出来るか?」

「え?うん。」

「ほら、見てくれよ。綺麗な景色だ。」

 俺もビデオ通話に切り替えて、ホテルの窓から見える、名古屋の景色を浩介に見せる。

 浩介は目をキラキラさせながらそれを見てて、すっごく嬉しそうだ。

「行きたいなぁ。悠介、絶対に一緒に行こうね。」

「約束だ、必ずな。」

「じゃあ、僕午後の検査があるから、また後でね。」

「おう、行ってらっしゃい。」

 電話を切って、俺はパソコンを取り出して昼間の記事を書き始める。

 浩介があんな目をしてるのも久々に見た、嬉しいと思いながら、この喜びを一人でも多くの人に届けられる様にって、記事にするんだ。


「坂崎さん、だいぶん心臓の動きが悪くなってきていますね。手術を受ける気持ちはありますか?」

「……。はい、補助人工心臓、でも良いです。ドナーは、中々見つからないって言うお話でしたし、僕、少しでも元気になりたいんです。」

「もう少し準備に時間がかかります、日程が決まり次第準備に入りますので、それまで何とか持ちこたえてくだされ。」

「はい。」

 午後の検査を受けていた浩介は、自分の心臓の動きが悪くなっている事を知って、少しショックを受けていた。

 しかし、まだ間に合う、補助人工心臓でも、完治とまではいかないが、動ける様にはなると事前に説明を受けていた為、希望は捨てなかった。

 悠介と一緒に旅に出る、その夢を叶える為にも、悠介と悠治に恩返しする為にも、行きたいと願っていた。


「坂崎さん、少し散歩する?」

「うん、前野さん。付き合ってもらってもいい?」

「もちろん、その為に声かけたんだし。」

 夕方になり、前野がひょっこりと病室に顔を出す。

 浩介を散歩に誘いに来た様で、今は休憩時間なのだろう。

 浩介は、日差しは少し和らいだだろうか、などと考えながら、院内の庭に歩いていく。

「坂崎さん、少しずつだけど元気になってるよね。先生は心臓弱ってるって言ってたけど、やっぱり心持ちなのかな?」

「そうかもしれないね。僕、ずっと不安がってばっかりだったから、元気になれなかったんだ。でも、皆が応援してくれるから、少しだけでも元気になれたのかもしえない。」

 庭に出て、ベンチに座って少し休憩しながら、西日を浴びつつ二人は話をする。

 前野はあまり外にいると汗をかくから、と普段なら嫌がりそうなものだが、浩介の前ではそんな事は言わないし、付き合うといったからには付き合うのだろう。

 まだ二十度後半の暑さの中で、少しだけ日光浴をするのは、健康にも関わってくるだろう、と。

「僕ね、ずっと考えてたんだ。死んじゃったらどうしよう、悠介と悠治に恩返し出来ないまま死んじゃったら、嫌だなって。でも、頑張るって決めたし、何より悠介が勇気をくれてる、だから僕は、生きて行きたいんだ。」

「生きて行きたい、って気持ち、大事だよ?患者さんはほら、気が滅入っちゃう事が多いからさ、坂崎さんは個室だったから見てないかもしれないけど、大部屋の人とかだとさ、同室の人が急変しちゃったり、なんて事もあるから。ほら、入院ってやっぱり辛いじゃない?だから、そうやっていられる人って少ないんだよね。」

「ずっと、怖かったんだ。死んじゃったらどうしよう、見捨てられちゃったらどうしようって。でも、瀬川さんと前野さんが、教えてくれたんだよ?悠介達の想いを、皆の気持ちを。だから僕は、生きて行きたい。頑張って、病気を治して、悠介と一緒に旅に出たいんだ。」

「坂崎さんいなくなっちゃうの、ちょっと寂しいけどね。でも、退院するって事は体が治るって事だから、嬉しいよ。早く退院して、元気に旅に出られると良いね。」

 前野にとっては、仲のいい年の近い人、というのが少ないのだろう、浩介は良い話し相手だ。

 しかし、患者が退院するというのは喜ばしい、完治して笑顔で退院していく所を見ると、自分の事の様に嬉しくなる、それが前野の性格だ。

 看護師としてではなく、友人としては寂しい所ではあったが、しかしそれでも嬉しさの方が勝るのだろう。

「坂崎さんさ、退院したら旅に出るんでしょ?写真、送ってよ。坂入さんが坂崎さんにしてるみたいに、俺も二人が見てる景色って興味あるんだ。」

「良いよ、ライン交換する?」

「する!」

 前野は、スマホをポケットから取り出して、ラインを起動する。

 浩介もラインを起動して、QRコードでラインを交換、お互いに確認する。

「なんだか、友達みたいだね。」

「俺達、友達でしょ?坂崎さんが退院した後も、関わり続けたいと思ってたんだ。手術の日程とか決まってないけどさ、前向きになれたって事は、いつかは退院するかもしれない、って事でしょ?だから、その前にライン交換しときたかったんだよね!」

「嬉しいなぁ、そう言ってくれるなんて。」

「本心だよ?だって、坂崎さんと坂入さんって、素敵なカップルだと思うし、弟さんも良い子だしね。あ、浩介君って呼んでもいい?俺は健也だよ。」

「よろしくね、健也君。」

 前野健也は、嬉しそうに目を細めて笑っている。

 浩介は、それを見ていると、なんだか悠介が傍にいてくれているみたいだ、と懐かしくなり、少しだけ寂しい目になる。

 悠介と健也は似ている、そんな健也が笑っている姿を見ると、悠介を思い出す様だ、と。

「さ、戻ろっか。暑いよ。」

「ごめんね、僕に付き合わせちゃって。」

「いえいえ、患者さんの健康は看護師の一番の幸せ、って瀬川先輩が言ってたし、俺もそう思ってるから。」

 二人は、談笑をしながら、病室に戻る。

 浩介の顔色は少し悪かったが、陽に当たって少し血色がよくなった、様にも見える。


「瀬川先輩、俺浩介君と友達になっちゃいましたよ!」

「あら前野君、浩介君、って坂崎さんの事かしら?良いわねぇ、若いって。私も、浩介さんの友達になってみようかしらね?」

「あれ、先輩も浩介君と仲いいんですか?」

「ちょっと話をする位だけどね、他の患者さんと区別つけてるって程でもない、ただちょっと、シンパシーを感じてるって言うだけよ。でも、退院した後も関わりたいって言うのは、前野君と同じかもしれないわね。」

 看護師としては、それはやってはいけない事だろう。

 患者を友と呼び、特別扱いしているととられてしまっても、それは仕方がない。

 しかし、浩介にはそうして良い様な魅力がある、とでも言えば良いのだろうか、浩介と悠介の恋路や、悠治との関係性の行く末を道どけたい、という気持ちがあるのだろう。

 野次馬根性、とは違う、純粋に応援したくなる何かが、三人にはあるのだろう。

「でも前野君、他の患者さんの前でこの話しちゃ駄目よ?特別扱いだなんて、そんな事言われるのも面倒でしょ?」

「わかってますって!浩介君が個室だから、出来る事だって言うのもわかってます!だからって、他の患者さん相手に手を抜くって事もしないですよ!」

「なら良いのだけれど。でもなんででしょうね、あの子達を見ていると、勇気が貰えるのよね。……、やっぱり、悠介さんを見てるとかしらね。」

 思えば悠介の祖父も、この病院で亡くなった。

 その頃には顔見知りだった瀬川や前野がいる、そして専門的な治療が出来るから、と浩介の入院の際に、悠介がこの病院を選んだという経緯がある。

 悠介は気丈というか、悲しみを表に出さない性格だ、明るいというわけでもないが、決して暗さや辛さを誰かに見せようとしない。

 入院患者に付き添っている人、というのは大概、暗い顔をしているかピリピリしているかのどちらかが多い中、悠介は稀有な例と言えるだろう。

 患者自身の前でそうしている、ならまだしも、看護師である自分達の前ですら、そう言った顔をしないというのが、珍しい。

「悠介さん、親御さんとは仲が良くなかったって言ってて、それでおじいさんの所で暮らしていたらしいんだけどね。それで、おじいさんが危篤になられた時、なんて言ってたと思う?」

「うーん、その頃俺、まだ新米でしたから、覚えてないですよ。」

「ずっと、ありがとうって言ってたのよ。おじいさんが意識を失われてから一週間、ずっとね。泣き言一つ溢さずに、生きててくれてありがとう、世話してくれてありがとう、一緒にいてくれてありがとう、って。ほとんど唯一の肉親が危篤だって言うのに、私達看護師の事も気遣ってくれてね?だから、悠介さんの事は印象深かったんだけど、その翌年に浩介さんが入院スタートしたでしょう?辛い事が続いただろうに、笑顔でずっと励まして、お礼を言って。そんな人、あんまりいないからね。」

「坂入さんのあの感じ、昔っからなんですかね?たまーにいますよね、そういう悟ってる人って言うか、なんていうか、医療を信じるよりも、今を生きてる事を喜ぶ人って言うか。なんか言いづらいですけど、確かにあのタイプの人は珍しいですね。」

 瀬川は、数年前悠介の祖父が入院してきた事を覚えていた、珍しい考え方をする人がいるのだな、程度の認識だったが。

 それが、浩介を連れてきて、入院の手続きをして、いざ入院となって、早三年。

 未だに泣き言一つ言わず、涙一粒流さず、浩介を励まし続けている、その精神力に驚いていた。

「悪い事じゃないんだけどね、辛くないのかしら、って思う事があるのよ。一回も、そんな顔見せた事が無いから、ホントはどうでもいいと思ってるのかしら?なんて疑ってた時期もあったけど、そう思ってたらあんなに毎日お見舞いには来ないでしょう?ありがとう、だなんて言わないとも思うのよ。だから、坂入さんはちょっと他の人とは違う考え方をしてるんでしょうね。」

「それに助けられてる浩介君がいる、って知ったら、嬉しいでしょうね。俺、今度会ったら教えてあげようかな……。」

「あんまり余計な事は言わない様にね?」

「わかってますよ!散々先輩にしごかれましたから。」

 健也は、思えば自分も看護師として、この病院では先輩になってきたな、と思い返す。

 悠介の祖父が入院していたのが四年前、専門学校を卒業して、少し経って、少し病院の空気に慣れた頃だったな、と。

 それが、こうして奇妙な縁を生んでいる、それが面白いのだと、健也は笑った。


「へっくし。」

 誰かが俺の噂でもしてるかな?

 急にくしゃみがしたくなって、一呼吸置く。

 もうすぐ夜ご飯を食べに行く、それまでに昼に行ったマウンテンの記事を纏めておかないとって思って、ホテルに缶詰めというかそんな感じだけど、外を見るとそろそろ陽が落ちてきて、ちょっとだけ涼しそうだ。

 これは夜景を見るのが楽しみだな、なんて思いつつ、もう少しだけ仕事をしないと。

「浩介、手術受けるのか……。」

 そうなったら、即座に帰る。

 もしも傍にいられないだなんて、そんな事考えるだけでも嫌だ。

 ずっと傍にいてあげたい、そう願ってたから、そう願ったから今こうして旅に出てる訳だし、帰る理由があるのなら、帰らない理由はない。

 そもそも浩介のお願いで出た旅なんだし、浩介の事が第一優先だ。

「あっとすっこしー。」

 ちょっと伸びをして体をほぐして、またパソコンに向かう。

 ノートパソコン、好きなバンドのステッカーとかでごちゃごちゃしてるけど、もう何年も使い続けてる俺の相棒だ。

 ライターとして仕事をしてる時に、じいちゃんがスペック不足を見かねて買ってくれた、大事な品でもあるかな。

 カメラもじいちゃんのお古というか、昔じいちゃんが使ってたって言う一眼レフを譲り受けてやり始めたし、今でもそれを使ってる。

 ちょっと古めかしい、でも当時は最新式だった、俺の事を撮るのに使うんだ!って言って買ってた一眼レフは、俺の宝物だ。

 丁度デジタルになった頃の話で、今ではちょっとデータの更新が遅かったり、SDカードを切り替えたりして、何とか使ってる状況だけど、まだまだ現役。

「夕飯はっと。」

 名古屋コーチンの焼き鳥の店に行く、焼き鳥なんて久しぶりだ。

 浩介が入院する前は、それこそ浩介がのんべぇだったから、焼き鳥をアテに飲む事も多かったけど、悠治と二人で生活する様になってからは、飲みにも出かけなくなった。

 俺は酒が弱いし、焼き鳥だけ食べに行くのもなんだか変かな、って思って、敬遠してたって言うのもある。

「美味しいんかなぁ。」

 味が気になるところだ、とか思いながら、記事を仕上げていく。

 鼻歌を歌いながら、浩介が退院した後の事なんか考えながら、俺は機嫌よく仕事を続けた。


「浩にぃ、お待たせ。」

「悠治、いつもありがとうね。」

「いえいえ、これ位しないと寂しいもん。」

 夜七時前、仕事を終えた悠治が、浩介の元にやってきた。

 まだまだ夏の暑さが残っている中、スーツを着ている悠治は、とても暑そうに汗をかいていて、ハンカチで顔の汗を拭っている。

「まだまだ暑いね、こういう時は浩にぃはビールかな?」

「暑い時は冷たいビール、鉄板だからね。早く、飲める様になりたいなぁ。悠治は普段は飲まないでしょ?」

「でも最近、同僚とか上司に誘われる事、多くなったよ?こっち来てからだから、途中参加だけど、ちょっとずつ飲める楽しさってわかって来たかも。浩にぃが美味しそうにお酒飲んでる理由も、なんとなくわかってきたよ。」

 羨ましいな、と浩介は笑う。

 夏はビール、冬は熱燗が鉄板だ、と浩介はいつも言っていて、二人を連れまわして居酒屋に行っていた、その頃が懐かしいと。

 悠治は、浩介が美味しそうに飲んでいた酒、というものに興味があって、最近はちょくちょく同僚や上司と飲みに出ているらしい。

「ビールの美味しさ、ってわかんなかったけど、飲みなれてるうちにさ、苦みの中に美味しさって言うのがわかる様になってきてさ、浩にぃが美味しそうに飲んでたのも納得だなって、思ったよ。まだ、焼酎は飲めないけどね。」

「冬の熱燗は体に沁みるからね、美味しいよ?」

「今度試してみるね。」

 まだ夏の終わり、熱燗には少し早い時期だ。

 悠治は試してみたいな、と笑い、浩介は懐かしそうな顔をする。

「お、悠治君!いっつもお疲れ様。」

「あ、前野さん。いつも浩にぃがお世話になってます。」

「健也って呼んでよ。俺、浩介君と友達になったんだよ?」

「そうなんですか?じゃあ、健也さんって呼ばせてもらいますね?」

 夕食を運んできた健也が、悠治に嬉しそうに話しかける。

 悠治は、浩介のどこでも友達を作る才能は健在なのか、と嬉しそうに笑い、これなら少しは悠介がいない寂しさも埋められるな、と少しホッとする。

「じゃあ、僕この後用事あるから、今日は帰るね。」

「うん、気を付けてね。」

「はーい、健也さん、浩にぃの事、よろしくお願いしますね。」

「まっかせてね!」

 悠治はそう言うと、また暑い中を病室を出て行って、出かけていく。

「浩介君、お酒飲むんだね、意外。」

「悠介と悠治が飲まないってだけだと思うけどね、退院したら、健也君も一緒に飲み行く?」

「それは楽しみだね、俺酒強いよー?」

 夕食を配膳しながら、健也は浩介が酒を嗜む事に驚いていた。

 病院では勿論酒は飲めないが、童顔で未成年にも見える浩介が、少し老け顔の悠介より酒を飲む、というのが意外だったのだろう。

「じゃ、退院したらの楽しみって事で。」

「うん、約束だよ。」

 健也はそう言うと、他の患者の所に食事を運びに行く。

 浩介は、久々に飲みに出かける楽しみを、待ち遠しいと思いながら、食事に手を付けた。


「健也君、って言うのか、彼。友達になってくれたって言うのは、嬉しいな。」

「うん、健也君良い人だよ?なんとなくだけど、そんな気がするんだ。」

「浩介がそう言う時は、大概当たるからな。俺も戻ったら友達になって貰いたいもんだ。」

「きっとなれるよ、僕が仲介するしね。」

 夕飯の名古屋コーチンの焼き鳥と、ちょっとのお酒が入って、若干テンション高めで浩介に電話をしてる。

 浩介は、今日あった事、前野さんと友達になった事を話してくれて、それが俺は嬉しい。

 浩介は誰とでも友達になれる、ちょっと引っ込み思案な俺からしたら羨ましい性格で、特異体質みたいなもんだと思ってたけど、やっぱり根本が違うんだろうな。

「夜ご飯、名古屋コーチンだったんでしょ?どうだった?美味しかった?」

「そうだなぁ。ブロイラーの鶏とはやっぱり質が違うって言うか、美味かったぞ?」

「また楽しみが一つ増えたよ、ありがとう、悠介。」

 アルコールが入ってるから、浩介と喋るのがいつもより楽しく感じる。

 思い返せば、浩介に誘われて色んな居酒屋に行って、そこで浩介がその場での友達を作って、俺はおっかなびっくり話をしてたりして、そう言った事をしてた頃が懐かしいなって思う。

 寂しい、って気持ちがない訳じゃない、この一人旅は、いつか浩介と悠治を連れて行く時の為の、予行練習だと考えてた。

「浩介に会いたいよ、悠治にもな。それに、健也君にも挨拶しに行かないと。」

「嬉しいなぁ、悠介がそう言ってくれるの、ホントに励ましてくれてるみたいで、嬉しいんだ。」

「本心だぞ?二人がいてくれるから、俺は頑張れるんだ。」

 実際、一週間くらい会ってないだけなんだけど、寂しいし会いたい。

 そろそろ一旦帰ろうか、なんていう事が頭を掠めてる位には、会いたいと思ってる。

 ライターとしての仕事はちょいちょいでも出来るし、何もずっと旅に出てる必要も無いんだし、頃合いを見て一旦帰るのは有りかなって。

「浩介の顔見ないとさ、いまいち力が出ないんだよ。もう、ずっと一緒にいたからかな。」

「ふふ、悠介ったら。でも僕も、会いたいなぁ。こうして毎日電話してくれてるからさ、まだ平気だけど、寂しいもん。」

「じゃあ、もう一週間位したら、一旦帰るよ。編集者さんには、話通しておくから。」

「ありがとう、悠介。会えるの、楽しみにしてるよ。」

「わかった、待っててくれ。」

 そう言うと電話が切れて、俺は独りだ。

 ずっとじいちゃんがいてくれたり、浩介達といたりで、独りの時間ってあんまりなかったから、ちょっと寂しい。

 それだけ一緒にいた時間が長かったんだろうけど、家族の中では浮いてた、孤独だった俺が、そう思うとはって感じだ。

「記事書いてっと。」

 寝る前に、記事を仕上げて編集者さんに送らなきゃな、って考えて、ホテルのテーブルに向かってパソコン作業再開。

 こういう仕事は、時間と鮮度が大事だと思ってるから、今日中には仕上げて明日の朝一で見てもらいたい。

「そうだ、写真送んなきゃ。」

 浩介にも、今日の夕飯の焼き鳥の写真を送る。

 ビールによく合うんだ!なんて言ってたのが懐かしいな、とか思いながら、俺は仕事に戻った。


「あ、悠にぃ写真送ってくれてる。」

「お兄さん、旅に出たんだっけ?何の写真?」

「名古屋コーチンだって、美味しそうに撮ってるよ?」

「見して見してー?」

 病院から移動し、約束をしていた同僚の良太と合流した悠治は、近所の居酒屋に来ていた。

 良太は、ぱっと見細身だが、中々に鍛えている糸目の青年で、悠治とは仲が良い同僚だ。

 たまたま、同じ焼き鳥を扱っている店に来ていた悠治は、目の前に出された焼き鳥と、悠介の写真を見比べてみる。

 伊達にライターの仕事をしていないというか、グルメライターとして歴が長いとでも言えば良いのだろうか、悠介の撮った写真の焼き鳥は、とても美味しそうに見える。

「コーチンって事は、名古屋なんだ。あれ、でもお兄さんって病気してなかった?」

「浩にぃはね。今写真を送ってくれてるのjは、悠にぃだよ。」

「えっと、お兄さんの恋人さんだっけ?高校生の頃から付き合ってるって言う。そう言えば、なんで浩介お兄さん病気で入院してるのに……?」

「浩にぃが、お願いしてたんだ。悠にぃに旅に出て欲しいって、それが励ましになるからって。だから、悠にぃは旅に出たんだって。でも、ちょっとしたら帰ってきてくれるってさ、浩にぃと僕に会えないのが寂しいからって。」

「へぇ……。じゃあさ、悠にぃさんは何の仕事してるの?仕事しないと、浩介お兄さんの治療費とか、大変でしょ?」

 そう言えば、良太には話をした事が無かったか、と悠治は思い返す。

 浩介の話はしていたが、悠介の事はあまり話題に上がっていなかったな、と。

「グルメライターなんだよ、悠にぃは。今はトラベルライターになって、旅に出たんだよ。それで、僕達に写真を送ってくれてるんだ。」

「へー。それで名古屋なんだ。」

 浩介が何故そう望んだのか、は理解出来ない良太だったが、しかし理由があったのなら納得だ、と頷く。

 良太は二人に会った事はない、が悠治から病気の兄がある、その恋人と二人で頑張っている、という話だけは聞いていた。

 その恋人が悠介だ、という認識がなかっただけで、悠介の事自体は聞いた事があった。

「悠にぃさんは、お願いされて旅に出たんだね。でも、凄いなぁ。悠治に任せてって言うのもあるけど、浩介お兄さんの事があるでしょ?寂しかったり、不安だったりしないのかなって。」

「……。不安だと思う、寂しいと思う。でも、悠にぃは浩にぃを励ましたいからって、そう言ってた。ずっと、そうしてきてくれたんだ。僕の事も、浩にぃの事も、ずっと励ましてくれて。感謝しても、しきれないよ。」

 運ばれてきた焼き鳥に手を付けながら、悠治は思い返す。

 自分は、施設に行くはずだった、高校卒業まで、二人とは一緒にいられない、と思っていた。

 しかし、悠介が悠介の祖父を説得して、祖父がそれを許してくれて、一緒にいる事が出来た。

 二人と一緒にいたかった悠治にとって、それは救世主の様にも思えたのだ。

 悠介の祖父はそれから四年ほどで亡くなってしまったが、今でも悠介に遺してくれたマンションに、三人で暮らしていた。

 今は浩介が入院していて、悠介は旅に出ているから、悠治一人だが、それがまた寂しいんだ、と悠治は乾いた笑いを上げる。

「今日、泊って行ってホントに良いの?」

「うん、二人にも許可貰ってるし、良太なら良いよって言ってくれてるし。」

「あれ、二人は僕の事知ってるの?」

「うん、仲のいい同僚だって、話してあるよ。浩にぃは、会いたがってたよ?悠治の友達なら、僕も友達になりたい!って。」

「嬉しいなぁ。じゃあ、遠慮なく飲みますか!」

 夏の暑さが残る中、ビールを胃の腑に流し込んで、喉を潤す。

 カー!っと言いながら、すかさず焼き鳥を口に含み、それの余韻が残っている内に、またビールを一口。

 疲れた体にビールが沁みる、暑さで少し減退していた食欲が湧いてくる、と二十代半ばの二人はバクバクと焼き鳥を食べ、ビールを流し込む。


「ただいまーっと。」

「お邪魔しまーす。」

「って言っても、誰もいないけどね。」

 しこたま飲んで、酔っぱらって帰ってきた悠治と、連れられてきた良太。

 4LDKのマンションの一室、パチリと部屋の電気をつけると、丁寧に掃除されている形跡があった。

 悠治の部屋は一番玄関に近い部屋で、まずはと奥のリビングに良太を案内する。

 14帖程度のリビング、ここで独りで生活するのは、少し心が参ってしまいそうなほど、それは広く感じる。

「どうぞ。酔い覚ましに飲んで?」

「ありがとー!」

 酔い覚ましのオレンジジュースをコップに注いで、良太に渡す。

 酔っぱらっている良太は、にへらにへらと笑いながら、それを一気飲みする。

「悠治さー、寂しくないの?おうち広いけど、独りなんでしょー?」

「二人とも、帰ってきてくれるって信じてるから。その時になったら、帰る家がなかったら寂しいでしょ?」

「そっかー。悠治は偉いなー。」

 酔っぱらっている良太が、隣に座った悠治の頭を撫でて、笑う。

 悠治は寂しいけど、と言いつつ、しかし二人が帰ってきた時の為に、自分が家を守ろう、と決めていた。

「ありがと、良太。」

「いえいえー?」

「だいぶ酔ってるみたいだね。お風呂入ってくる?」

「あっついから、はいるー!」

 こっちだよ、と悠治が良太の手を取って、風呂に案内する。

 良太は、嬉しそうに笑いながらそれについて行って、まるで年の離れた弟の世話をしている様だ、と悠治は思ってしまう。

 良太は普段から子供っぽいというか、二十四歳にしては穢れを知らないとでも言えば良いのだろうか、純粋な子だとは感じていたが、酔うとこんな風になるのか、と若干驚く。

「一緒に入るー?」

「あはは……。良太、酔っぱらいすぎて危ないから、一緒に入ろうかな。」

「やったー!」

 子供っぽくはしゃぐ良太と、仕方ないなと笑う悠治。

 昔、こうして我儘を言っていたな、と思い出す。

「はいろー!」

「うん。」

 ワイシャツとスラックスを脱いで、裸になった二人は、マンションにしては広めの風呂に入る。

 シャワーを悠治が手に持ち、お湯を流して、良太にかけてやると、キャッキャと良太が喜ぶ。

「体、洗える?」

「んー、洗ってー?」

「わかったよ。」

 ボディタオルに石鹸を付けて、良太の体を洗っていく悠治。

 昔悠介と浩介がそうしてくれた様に、と思い出しながら、少しずつ丁寧に洗っていく。

「くすぐったーい!」

「はいはい。……。」

 背中を優しくこすりながら、悠治はぽろぽろと涙を流す。

 ずっと、こうして欲しかった、そうあって欲しかった、それは悠介や浩介だけではない、両親にも。

 二人兄弟の末っ子で、甘えがちだった悠治は、誰かに甘えられない事が辛かったのだろう。

 少し前までは悠介がいてくれた、その前は浩介と悠介の祖父がいてくれた。

 しかし、今は誰もいない。

「あれ?悠治泣いてるー?」

「ご、ごめんね。昔の事、思い出しちゃって……。」

「よしよしー。」

 嗚咽をこぼす、それに良太が気づいて、振り向いて笑う。

 泡だらけの手で、悠治の頭を撫でながら、元気になれ、と言ってくれている。

「ありがとう……、良太……。」

「泣きたい時は、泣けば良いんだよー?悠治、辛かったでしょー?」

「うん……。」

 良太に抱きしめられて、悠治は涙を流す。

 寂しかった、辛かった、それを誰にも言えないと、そう思っていたのに、強くなると決めていたのに。

 こんなにも呆気なく、その想いは崩れ去ってしまった。

 悔しい、と思わなくもないが、悠治は嬉しかった。

 こんな風に言ってくれる人が傍にいる、弱音を吐いてもいいと思わせてくれる人が、こんなにも近くにいて。


「一緒に寝よー?」

「うん、ありがとう、良太。」

 風呂から上がって、ベッドに入って。

 だいぶ酔いが醒めてきた良太は、悠治の頭を撫でながら笑う。

「悠治さ、ずっと頑張って来たでしょ?だから、僕が支えてあげたいなって、ずっと思ってたんだ。」

「そう、なの?」

「うん。浩介お兄さんの事とか、僕にはわかんないけどさ。でも、悠治を支えたい。」

「ありがとう、良太。」

 告白、にしては言葉が少し違う気もしたが、良太は良太なりに考えて、告白をした。

 そう受け取った悠治は、嬉しさと寂しさの半分半分位で笑い、涙を流す。

 ずっと、こうして欲しかったなと。

 ずっと、浩介が入院してから三年間、甘える事も辞めて頑張ってきた、しかし。

 甘えたかったんだろうな、誰かに支えて欲しかったんだろうな、と。

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