宮司さんと巫女さんと。
「さて、今日は静岡で……。」
無事に下山し、五合目からバスに乗ってふもとに降りて、車のキーを回しながら予定を確認する。
さやわかハンバーグという、静岡にある名物チェーン店のハンバーグを食べて、来宮神社という場所に行く、それが今日の予定だ。
宿は熱海にとってあって、相模湾が見える露天風呂、というのが良いスポットらしいって言うのはリサーチ済みだ。
「この曲、浩介が好きだったな。」
車の中で流してる音楽は、俺と浩介と悠治の趣味をミックスしてプレイリストにしたもので、今は浩介が好きな歌が流れてる。
ちょっと後ろ向きな始まり方をして、それでいて最後には勇気をくれる、みたいな歌で、浩介が入院してからもずっと聞いてるって、そう言ってた。
「……。」
車を走らせながら、鼻歌を歌う。
この歌も聞きなれてる、覚えてるから鼻歌を歌いながら車を走らせる位は出来るってもんだ。
「今日もいい天気、なんだけど暑いな。」
車の中はクーラーが効いてるからまだ大丈夫だけど、外は三十度を超えてて、フロントから入ってくる日差しが暑い。
食欲がなくなりそうな暑さだな、とか思いながら、でも結局俺は食欲マシマシなんだよな、なんて。
「ここか。」
暫く車を走らせて、静岡県は西山市、来宮神社に到着だ。
来福、縁起の神社として全国で知られているこの神社は、やっぱりそれ相応の荘厳さというか、美しさがある。
参道を通って、宮司さんに挨拶をしようと社務所まで行くと、平日だって言うのに結構人がいた。
「こんにちはー。」
「はい、如何されましたか?」
「取材を依頼していた坂入です、宮司さんいらっしゃいますか?」
受付の巫女さんに話しかけて、宮司さんに言伝。
少々お待ちください、なんて言われて、境内を眺めながら待つ。
「なんか、緊張するな……。」
トラベルライターとしては初めての取材だから、なんだか緊張する。
グルメライターしてた頃は、店員さんとか店主さんとか、チェーン店ならオーナーさんとかに取材をしてたから、慣れてるはずなんだけど、こうちょっと変わってくると、緊張するんだなって。
「こちらへどうぞ、お暑いでしょう?」
「ありがとうございます。」
タオルで汗を拭ってると、さっきの巫女さんが来て、社務所の中に通してくれる。
中は綺麗に手入れされた和室で、結構広い。
そんな中の一角に、椅子とテーブルが置いてあって、そこに座ってくださいって巫女さんは言うんだ。
「今、お茶をお持ちしますね。宮司は今、祈祷の最中ですので、少々お待ちください。」
「あ、ありがとうございます。」
巫女さんがいったん下がって、俺は独り広い社務所で待つ。
社務所には最近取り付けたのか、新型のクーラーが付けられてて、涼しいから有難い。
「どうぞ。」
「はい、ありがとうございます。」
巫女さんが冷たい麦茶を持ってきてくれて、ホッと一息。
「あの……。差し出がましい様ですが、何かお悩みがありますか……?」
「え?」
「何か、纏われているものと言いますか、雰囲気と言いますか、そう言ったものが、坂入様が悩みを抱えていらっしゃると、そう訴えかけてきている様な気がするのです。」
正解、というか何でわかったんだろう?
この巫女さん、もしかして超能力者?とか思いながら、でもやっぱり、俺がそういう顔をしてるんだろうなって、そう考える。
「実は、恋人が入院してまして……。こちらに来させてもらったのも、心願成就の祈祷をしてもらいたくて。何もしないよりは、何かできないかなって、そう思ったんです。」
「そうでしたか……。きっと、恋人様は良くなられますよ。何か、そんな気がするのです。」
「そうですか、それは嬉しいです。」
それでは、と巫女さんは下がって、俺はまた独り。
ちょっと変わった雰囲気の巫女さんだと思ったけど、巫女さんってそもそも神様の傍仕えみたいな印象だから、もしかしたら特別な直感みたいなのがあるのかも?とか考えちゃったり。
そういう神秘的なのはあんまり信じてないけど、不思議と説得力のある言葉だったなって。
「お待たせしました、坂入様。本日はいらっしゃってくださって、ありがとうございます。それで、取材と祈祷のご依頼との事ですが。」
「初めまして、坂入悠介です。今日はよろしくお願いします。」
「私は宮前と申します、この神社の宮司を、もう二十年ほどしております。」
五十代のちょっと渋い感じの叔父さん、って感じの宮前さんは、丁寧に挨拶をしてくれる。
俺は用意してた名刺を渡すと、メモ帳を取り出して取材の準備。
「まずは祈祷の方をさせていただきましょうか、お写真はお控えください。祈祷の際には、黙する事も大切ですから。」
「あ、はい。お願いします。」
宮前さんは、ではこちらへって言って、立ち上がる。
俺はそれにつられて立ち上がって、宮前さんの後ろをついて行く。
「では心願成就の祈祷を始めます。」
「お願いします。」
本堂に通されてあ俺は、座布団に正座して手を合わせて、目を瞑る。
宮前さんは大幣を持って、何か声を発している。
何を言ってるのかはわかんなかったけど、不思議と心が落ち着くというか、心が現れていくというか、そんな感覚に陥る。
この神社、調べた所創設の時期はわからなかったけど、千年以上前に伝承がある位立派な神社で、って考えてるんだけど、スーッとそういう雑念というか、そういったものが無くなっていく。
静かに、宮前さんの声を聞きながら、俺は心願成就、浩介の病気が治る事を祈った。
「これで祈祷は終わりになります。本殿のお写真を撮られますか?」
「良いんですか?」
「はい、入ってはいけない場所もありますので、私が同行してもよろしければですが。」
「ぜひ、よろしくお願いします。」
本殿の様子だとか、樹齢二千年って言われてる大楠の写真だとか、そういったものの写真を撮って、一時間くらい使って説明を聞きながら、丁寧に取材。
また社務所に通されて、宮前さんの写真と巫女さんの写真を撮らせてもらって、ちょっと一息。
「それで、坂入様。恋人の方の病気が治る事を願っている、というお話でしたが。」
「はい、もう三年くらい入院してるので、いい加減退院出来ないのかなって。トラベルライターになろうって決めてから色々調べて、こちらの神社が手広く祈祷をされていらっしゃるのを知って、ちょっと神にも縋る想いで、って感じです。」
「ふむ……。本当ならば、その方ご本人にいらっしゃっていただくのが一番なのですが、入院されているのなら、仕方のない事でございますな。」
宮前さんは、少しため息をついてる。
優しい人なんだなって言うのが、それだけでわかる様な気がして、俺は少し笑うんだ。
この人は、本心から誰かを助けたいと願ってる、だから宮司って言う仕事を続けてるんだろうなって。
「榎田が何か言っていましたか?坂入様に関する事など。」
「榎田さん?」
「社務所にいた巫女の名前です。」
「えーっと、浩介はきっと治るだろうって、そんな気がするって言ってましたね。それがどうかしたんです?」
どっちかだろうな。
榎田さんの事を信じて言ってるのか、それとも後で余計な事を言うなってしかりつけるのか。
でも、多分前者だと思う。
「榎田は不思議な事を言うのですよ。時折、祈祷に来られた方の話をする、するとそれが何故か現実になるのです。絶対にというわけではありませんが、大体九割程は彼女の言葉は当たるのですよ。」
「そうなんですか。それなら、嬉しいです。治るって言ってくださったので、それを信じてみたいです。」
やっぱり前者だった、榎田さんは何処か不思議な気配がするというか、不思議とこの人の言葉は信じてもいい、って思わせる様な何かがある、気がする。
神様なんて信じてる口ではないけど、あの人は神道に通ずる何かを持ってる、様な気もする。
「私には無い何かを持っている、と思っているのですがね、宮司を代わりにやってくれ、などとは言えませんし、巫女として性分があっている、と本人も言っておりまして。」
「そうですか……。でも、当たる占いって感じなら、確かに巫女さんの方が似合ってるかもしれませんね。宮司さんってなると、下手な事は言えないでしょう?」
「そうですな、その通りでございます。私は祈祷をする者、人々の幸せを願い働く。榎田は、言葉でもって人を安心させる、そういった役回りがあるのかもしれませんな。」
「きっとそうですよ、宮前さんのお気持ちは、ちゃんと来てくれた人達に伝わってますよ。」
それは安心です、って宮前さんはちょっと厳つい顔をほころばせる。
俺は取材は終わったし、これを編集して記事を書かなきゃならない、それに昼ご飯もまだ食べてないし、行きたい店もあるから、ってお暇する。
「坂入様、気を付けてくださいね?」
「榎田さん、でしたっけ。何か気になる事があるんですか?」
「いえ……。ただ、お気をつけてください。」
入り口で、他のお客さんの相手をしていた榎田さんが、声をかけてくれる。
その顔は何処か心配そうで、不安がってる様にも見えたけど、別に病気とかしてるわけでもないし、絶対当たるわけでもない、って言う宮前さんの言葉もあったし、たいして気にすることもなく、俺は神社を後にした。
「ここか。」
そこからまた少し車を走らせて、さわやかハンバーグに到着。
昼時はちょっとすぎてて、今午後二時位なんだけど、昼の時間だとむっちゃ混んでるらしいから、丁度良かったのかも。
「こんにちはー、取材を依頼した坂入ですー。」
「いらっしゃいませ、坂入様ですか?今店長に確認しますので、少々お待ちください。」
ウェイターさんが奥に引っ込んで、俺は冷房の効いた待合の椅子で待つ。
ちょっと外に出ただけでも汗が出る位、今日は暑いんだけど、どれ位の気温になってるのか、ちょっと確認するのが怖い。
「ふぅ……。」
浩介は今頃どうしてるかな、昼飯は食べ終わったかな、なんて考えながら、浩介の病気が治ったら一緒に旅をしたいって、改めて思う。
「お待たせしました、お席の方にご案内します。」
「ありがとうございます。」
さっきのウェイターの女性が来て、席に案内してくれる。
「こちらメニュー表でして、おすすめはげんこつハンバーグとなっております。」
「ソースは何がありますか?」
「デミグラスとオニオンの二種類がございまして、当店人気なのはオニオンソースになります。」
「じゃあ、それとライス大盛りでお願いします。」
注文はオススメで、それは俺のポリシーみたいなもんだ。
その店が一番美味しいと思ってるものを食べて、それを記事にする、そんなスタイルって言うか、個人経営の店なんかだと、こだわりもあるだろうからって。
あんまりお客がいないから、ゆっくり店の内装なんかの写真も撮れる、俺は一眼レフとスマホで交互に写真を撮って、確認するんだ。
「お待たせしました、こちらげんこつハンバーグにライス大盛りでございます。お焼きしますので、油跳ねにご注意ください。」
「写真撮っても大丈夫ですか?」
「えーっと、そうしましたら、少々体を後ろにずらしていただいて、それで撮っていただければ。」
ジュージュー音立てて、美味しそうな香りをさせながら、ハンバーグが到着する。
ここのハンバーグは、中がレアになってて、その場で焼いてくれるって言うのが名物らしいって話は知ってたから、それを写真に収めようと思ってカメラを構える。
ジュ―、って言う音と一緒に、店員さんが二つに割ったハンバーグをヘラみたいなので押し付けて、いい香りがする。
俺は写真を撮りながら、これは確かに人気が出そうだ、エンターテイメント性がある、とちょっと感心。
今までいろんな個人商店のお店に行ってきたけど、こういったパフォーマンスをするところはなかったなって。
「ではどうぞ、ごゆっくり。」
「ありがとうございます。」
料理は綺麗に撮る、でも冷めない内に食べる、が俺の信条だ。
パパっと写真を撮り終えて、ナイフとフォークを持っていただきます。
「んー、うめぇ。」
食べ終わったら、浩介に写真を送ってあげなきゃな。
神社の写真もそうだし、ここの写真もそうだし、後は宿に行って記事の編集もしなきゃだ。
「オニオンソースうまっ!」
オススメされてるだけあって、香ばしいやきめの香りにオニオンソースの甘さが引き立って、中々美味い。
これでチェーン店だっていうんだから驚きだけど、静岡以外には出店してないらしいし、地域の味、って感じなのかな。
ライスもかき込みつつ、一気に平らげる。
「ふぅ、美味かった。」
写真は十分撮ったし、宿行くか。
今日は熱海の海沿いに宿を取ったから、そこの写真もきちんと撮らないと、トラベルライターにはなれない。
俺の記事を楽しみにしてくれてる人達もいる、だから俺は書き続けないと。
「あ、悠介写真送ってくれてたんだ。」
「坂崎さん、なんだかご機嫌ですね?」
「瀬川さん。悠介が、美味しそうなハンバーグの写真と、綺麗な神社の写真を送ってきてくれたんですよ。後で、宿の写真も送るからって。」
「あら、どんな感じですかね?」
「これですよ。」
午後の検診を受けて病室に戻ってきた浩介と、付き添っていた瀬川。
浩介は、悠介が送ってきてくれた写真を眺めて、良いなぁと笑う。
「でも、こういうのって送られてきたら辛くないですか?自分は行けないのに!ってなりません?」
「ううん、僕はずっと悠介と旅をしたかったんです。だから、こうして写真を送ってもらうのが、嬉しいんです。勇気を貰える様な気がして、支えになってる様な気がして。」
「元々は一緒にご飯を食べてそれを記事にされてたんでしたっけ?坂崎さんは出版社にお勤めだった記憶がありますし、お二人の出会いはやはりそこで?」
「えーっと、出会い自体は小学生の時なんです。付き合い始めたのが高校の時で、それでライターをやりたいって言う悠介と、出版社に勤めたいって言う僕がいて。それで、高校卒業してから一緒に暮らし始めて、悠治も一緒に暮らして。三人でそれぞれの道を頑張って進もうって、そう言ってたんです。」
浩介は、高校を卒業した頃の事を思い出す。
両親に、悠介と一緒に暮らしたいと話をしたら、大激怒の両親に勘当され、ついでの様に悠治も勘当され、一人暮らしを予定していた悠介を頼って、一緒に生活を始める様になって。
卒業したばかりの頃は貧乏で、その日食べるものにも困りながら、しかし励ましあって生きていたな、と。
「悠治はまだ当時高校生で、でもお父さんとお母さんにおいだされちゃって……。悠介のおじいちゃんが手助けをしてくれて、それで何とか高校を卒業出来たんですよ。だから、悠介のしたい事を、させてあげたいなって、そう思うんです。」
「なかなか壮絶ですね……。弟さんは、今は社会人をされているんでしょう?」
「はい、営業の仕事をしてます。ホントは、大学に行きたかっただろうけど、その頃に悠介のおじいちゃんが死んじゃって……。苦労ばっかり掛けて、ごめんねって言いたいんですけど、二人とも、そんなこと気にするなって、そう言ってくれるんです。」
悠介の祖父が亡くなった頃、丁度悠治は高校三年の進路を決める時期だった。
悠介の祖父が遺産を遺してくれた、だから大学進学を諦めなくてもいい、と悠介と浩介で説得をしたのだが、悠治は頑として進学をしようとせず、高卒で就職した。
浩介からしたら、自分の巻き添えで勘当された上に、大学に行きたかっただろうに行かせられなかった、という負い目があるのだろう。
「今でも、僕の入院費を二人がなんとかしてくれてて……。僕、迷惑ばっかり掛けちゃって、情けないですよ。」
「……。それを聞いたら、お二人は悲しむでしょう。だって、坂崎さんに生きて欲しくて頑張っているのに、本人がそんな事を言っていたら、悲しいですから。私にはその苦しみはわからない、確かにそうです。でも、お二人が頑張られているのは、貴方の為でもあり、自分達の為でもあると思うんですよ。」
涙ぐみながら話す浩介に、瀬川は優しく声をかける。
それは本心だ、悠介と悠治は、自分達の為に、浩介の為に、ずっと頑張ってきた。
そう見えて仕方がない瀬川からしたら、浩介の悩みというのは、わかる気がするとともに悲しい。
互いに想いあって頑張っているのに、一方的だと勘違いしてしまっている、それは悲しい。
「私はね、もうこの仕事初めて十五年になるかな。旦那との間に子供も出来て、もう中学生になるんですよ。家族って、想いあって支えあって、励ましあって。坂崎さんの想いは、きっと恋人さんや弟さんは理解してると思います。でも、それでも元気になって欲しいから、二人は頑張っているんでしょう?」
「でも……。僕、何も出来てないですよ……。」
「そう言う事じゃないのよ、浩介さん。私もね、息子が病弱だから、同じことを言われたの。迷惑ばっかりかけてごめんなさいって。でもね、家族って言うのは、そんな事で謝る様な関係じゃないのよ。私達は、息子が生まれてきてくれただけで嬉しかった。貴方のご両親は、そうじゃなかったかもしれない。でも、悠介さんと悠治君は、そうなんじゃないかしら?」
泣きそうになっている浩介の頭を撫でながら、瀬川は諭す様に話をする。
自分の子供も病弱で、入院しがちというのが、浩介に重なっているのだろうか、まるでわが子を諭す親の様な表情で、浩介に語り掛ける。
「貴方は生きているだけで、あの人達に希望を与えているのよ。だから、胸を張って生きないと。病気がいつか治ったら、いっぱいお返しすればいいだけ、でしょう?」
「はい……、でも……。」
「私には、浩介さんの病気が治るかどうかはわからないわ。でも、治ると思わないと、治るものも治らないっていうのは、これは先生の受け売りなんだけどね。でも私は、息子の病気が治らなかったとしても、それでも愛しているわ。家族って、そういうものでしょ?」
浩介の頭を撫でて、優しく声をかける。
病気がちな息子、もっと丈夫に産んであげられたら、と思っていた時期もあったが、看護師としていろいろな患者と接しているうちに、そんな事は関係ない、今が大事なのだと、そう瀬川は悟った。
それに似た事を、浩介は思っているのだろうと感じ、自分が経験した、息子が経験した感情に似ているそのわだかまりを、といてあげたいと願ったのだろう。
「浩介さん、私は貴女の家族じゃないから、何とも言えない部分が多いと思うわ。でも、悠介さんも悠治君も、きっと同じ事を言うと思うわよ?だって、二人とも浩介さんの事大好きだって、すぐにわかるんだもの。」
「そう、なんですか……?」
「えぇ。私達が息子を愛している様に、あの子達も貴方を愛してる。それは違う形の愛情かもしれないけど、でもね。本当に大好きだから、頑張ってるんだって、よくわかるわよ。」
嬉しい、浩介は涙を流しながら、そう思った。
自分がこんな調子で迷惑ばかりかけて、いつか見放されてしまうんじゃないか、いつか独りぼっちになってしまうんじゃないか、と不安になっていたから、瀬川の言葉が嬉しくてたまらない。
本当は違ったとしても、瀬川の言葉は何処か、そうなんじゃないかと思わせてくれるのだろう。
「僕……。ずっと、治らないんじゃないかって……。ずっと、迷惑かけちゃうんじゃないかって……。」
「きっと、治るわよ。私はそう信じているわ、先生の腕も確かだしね。貴方は未だ若い、生きて行かなきゃ。」
「瀬川さんの、息子さんは……。」
「今は元気よ、いつまでそれが続いてくれるかは、神様次第って所かしらね。でも、ずっと元気でいられなくても、いつか私達より先に逝ってしまったとしても、私達はずっと、あの子を愛してるわ。だって、私達を選んで生まれてきてくれた、それだけで嬉しいもの。悠介さんも悠治君も、貴方を愛している。だから、独りぼっちになんてならないしなれないのよ。ほら、泣かないで。貴方は、笑顔が似合ってるわよ?」
「ごめん……、なさい……。でも、止まらなくて……。」
それは悲しいからではない、嬉しいからだ。
瀬川が励ましてくれた事、掛けてくれた言葉、それが嬉しくて、涙が止まらないのだ。
ずっとあったわだかまり、それをほどいてくれた、瀬川に感謝を伝えようとするが、嗚咽で中々言葉が出てこない。
「浩にぃ、来たよー。ってあれ?泣いてるの?どうしたの?」
「悠治……。いっつも、ありがとうね……。僕、絶対に、病気治すから……。」
「答えになってないよ、浩にぃ。でも、治してね、一緒に旅に行くって、約束したんだから。」
悠治が丁度顔を出し、浩介が泣いているのも久しぶりに見るな、と驚く。
瀬川は、二人の時間を大事にして欲しい、と病室を出ていき、悠治は浩介の手を握って、落ち着くまで待つ。
「そっか、そう言ってくれたんだ。当たってるね、僕も悠にぃも、浩にぃに元気になって欲しくて頑張ってるんだもん。」
「嬉しいな、僕も頑張らなきゃって、思うよ。」
「そうだ、悠にぃから写真来た?」
「うん、神社とハンバーグの写真来たよ。」
見たいな、って悠治がせがんで、浩介はスマホを取り出して写真を見せる。
元々がグルメライターだった悠介は、伊達に写真を撮り慣れてない、綺麗に映っている写真が沢山あった。
「ハンバーグ、目の前で焼いてくれるんだね。美味しそうだなぁ。」
「今度は一緒に行きたいね。」
嬉しそうに笑う悠治と、浩介。
この兄弟はよく似ている、と悠介が良く思っているのだが、笑うとぱっちりした目が細くなって、本当に双子の様に見えてしまう。
昔は身長が違ったり、今では髪型が少し違ったり、見分けがつくにはつくが、ぱっと見は双子の様なものだろう。
「じゃあ、僕次の取引先の所行くから、また夜に来るね。」
「うん、ありがとう。行ってらっしゃい。」
悠治は取引先に向かう途中、たまたま病院の前を通ったから寄っただけの様で、また仕事に戻ってしまう。
「ふぅ……。」
瀬川が言っていた事、それを証明してくれる様な気がした。
二人は、自分に生きて欲しいと願っている、と。
「ふー。」
相模湾が見える宿について、ちょっと煙草を一服。
俺が吸ってるのはハイライトなんだけど、これラムフレーバーって言うけど正直わからん。
安い美味いタールが高いの三拍子揃ってるから吸ってる、って感じなんだけど、時々禁煙をしようとしては失敗してる。
車の中は浩介達が煙草を吸わないから吸わないし、神社で吸うなんて罰当たりな事は出来ないし、店には喫煙所がなかったしで、ちょっと久々に感じなくもない。
傍から見たら温泉宿の駐車場で煙草吸ってる輩、に見えなくもないんだろうな。
「ふー。」
まあ、幸いにも今日は平日だ、ほかに客の姿も見えない、咎める人は居ない。
思う存分煙草の煙を肺にいれて、それから宿に入った。
「浩にぃ、お待たせ。ご飯食べた?」
「うん、さっき食べたよ。それに、悠介がお宿とご飯の写真送ってきてくれてたよ?」
「みたいなー。」
宿は、小奇麗ながらも老舗の様で、古めかしい様子が伺える。
食事は豪勢で、相模湾で取れたのであろう魚の刺身や、それに付随する料理が多い様で、少しアルコールも映っていた。
悠介はそこまでアルコールは強くないが、宿の雰囲気に合うと思ったのか、それともグルメライターとして最低限と思ったのか、ビールと思しき飲み物の写真が添付されていた。
「ビールだなんて、珍しいね。」
「そうだね、悠介甘いのしか飲まないと思ってたから、ちょっと珍しいかもね。」
どちらかというと、悠介は辛い苦いが苦手で、甘いカクテルを好んで飲んでいた。
浩介の方がビールなどのアルコール類が好きで、よく居酒屋に行っていたのだが、そんな悠介がカクテルではなくビールを頼むというのは、グルメライターとしての矜持とでも言えば良いのだろうか、良いビールをオススメされたのだろう。
苦いのは駄目だ、と言っていたが、それならそれなりにレポをしよう、という悠介の姿が目に浮かぶ。
「お酒なんて、暫く飲んでないなぁ……。」
「早く退院出来ると良いね、退院したら一緒に飲みに行こうよ。」
「ちょっと弱くなってたりしてね。」
浩介は元々酒豪、というより両親の体質を受け継いだのか酒に強く、逆に悠治は祖父母の体質を受け継いだのか酒に弱い。
悠介もどちらかというと酒には強くない、いつも飲んでいるのは浩介だ。
浩介が入院してからというものの、冷蔵庫にビールが置いていないのも寂しいものだ、と悠治は思っていた。
「浩にぃ、お酒好きだったからさ。病院に差し入れって思った事もあったけど、流石に非常識かなって思って、やめたんだ。」
「あはは……。早く飲めるようになる為にも、手術も受けなきゃ。ちょっと怖いけど、きっと大丈夫だって、瀬川さんが言ってくれたし。」
手術の成功確率は高い、と説明は受けていたが、少し臆病になっている浩介は、もしも失敗してしまったら、と考えてしまっていた。
しかし、前を向かない事には何も始まらない、悠介が言っていた、立ち向かえなくてもいい、いつか前を向いて歩ければいい、と。
だから、前を向こうと思えるのだ。
「あ、また写真来た。お部屋の露天風呂からの景色、だってさ。」
「綺麗だね、海の見えるところかぁ、良いなぁ。」
今度は、悠介が露天風呂に入っているところを撮った写真が送られてくる。
写真は海を映していて、陽が沈んで少し暗くなった海が、しかし月明りに照らされてきらきらと綺麗に映っていた。
いつか行ってみたい、それが浩介の原動力になり始めている、その為に頑張りたいと。
元々出版社に勤めていたのだから、コネはある、小説でも書きながら、悠介の旅について行きたい、と。
悠治の事はどうしようか、と考えていた時期もあったが、二人で稼ぎながら悠治も一緒に、と浩介は考えていた。
悠介も、きっと同じ事を言ってくれるだろう。
悠治独り置いていくのは、寂しいし家族として悲しい。
だから、きっと悠介は浩介の提案にうんと言ってくれるだろう、と信じていた。
「三人でさ、色んな所を旅してさ、色んな思い出を作りたいな。」
「僕も?」
「うん、きっと悠介も良いって言ってくれるよ。むしろ、悠治独り置いていくって言った方が怒ると思うよ?だって、僕達はずっと一緒、でしょ?」
「でも、仕事しないとお金が無くなっちゃうし……。」
「僕と悠介が稼げば良いんだよ。悠治は何にも心配しなくていい、僕達が頑張るから。」
浩介は、本気でそう言っている様だ。
自分達が稼いで、悠治には旅を満喫してもらいたい。
それ位の恩返しはしたい、それ位の贖罪はしたい、そう思っているのだろう。
「これ以上、二人の邪魔は出来ないよ……。だって、僕は施設に行くはずだったのに、浩にぃ達が頑張ってくれたから、一緒にいられたんだもん。だから……。だから、これ以上は二人の時間を邪魔したくないんだ。」
「邪魔だなんて、思わなくても良いのに。僕達は、悠治と一緒にいたい。だから、頑張ったんだよ?それなのに、邪魔だなんて寂しい事、言わないでよ。」
どこか寂し気な悠治に、浩介は笑う。
こんな自分が言うのもおかしいかもしれないけれど、と。
「悠介がどう思ってるのか、それは正直わかんないんだ。でも、僕はずっと、三人で一緒にいたい。僕が病気で迷惑かけちゃってるから、何を言ってるんだって感じかもしれないけど、でも。僕は、悠介とも悠治とも、離れ離れになりたくないんだよ。」
「浩にぃ……。」
「だから、僕の病気が治ったら、絶対一緒に旅に出ようね。僕、我儘かもしれないけど、ずっと一緒が良いから。お金も、頑張って僕達が何とかする。だから、お願い。一緒にいてくれる?」
「ありがとう、浩にぃ。考えさせてもらってもいい?僕だけ働かないでなんて、そんな事しちゃったら申し訳ないから。だから、僕も頑張れる様に、方法を探してみる。」
悠治はそういうと、時間だからと身支度をして、病室を出ていく。
気が付けば午後八時、面会時間は終わっていた。
いくら個室の病人とはいえ、これ以上いてしまっては病院側が示しがつかないというものだ。
「……。」
残された浩介は、独り考え事をしている。
どうすれば悠治も一緒に旅に出れるか、どうすれば悠介の収入におんぶに抱っこにならずに済むか。
それは厳しい道のりかもしれない、でもそれでも、一緒にいたいから、と。
「坂崎さん、お薬をお持ちしましたよ。」
「羽部さん、ありがとうございます。」
「何かお悩みで?」
「えーっと……。退院した後の事で、ちょっと。わかっちゃいます?」
「坂崎さんは表情豊かですからね、普段の憂いとは違う、何かを悩まれているのか、と。」
夜勤の看護師の壮年の男性、羽部が眠前薬を持ってくる。
浩介が悩んでいるのはわかる、というよりは浩介は何もかもが顔に出るからわかりやすいのだろう。
羽部は、興味本位とでも言えば良いのだろうか、普段は笑っているか怖がっているかの浩介が、何かを悩んでいる、というのに興味を持った様子だ。
「退院された後の事、ですか。ふむ……。希望を捨てない、というのは大切な事ですね。坂崎さん程入院されている方は、基本的に退院の事を考えられませんからね。そういった事を悩む、それは健全とでも言えば良いのでしょうか、良い事だと、俺は思いますよ?」
「そうなんですかね……。でも確かに、つい最近までは、退院した後の事なんて、考えられなかったですよ。悠介が、応援してくれてるから、そう言う事を考えられる様になったんだと思います。」
「悠介さん、というと恋人の方でしたかね?そう言えば、ここ数日顔を見せられていませんね。どこかに行かれているのでしょうか?」
「旅に出てます。僕が、そうして欲しいからって。旅先の写真送ってくれるんですよ、見ます?」
「ほうほう、それはまた。ぜひ、拝見させていただきたいですよ。」
浩介がスマホを取り出し、羽部に悠介が送ってくれた写真を見せる。
羽部は感心した様子を見せながら、その写真を眺めていて、珍しいものを見る目で浩介を見た。
「言葉を選ばずに言わせて頂くと、坂崎さんは変り者ですね。他の方だったら、傍にずっといて欲しいと願うでしょうから。」
「本当はそうして欲しい、って思ったんです。でも、旅に出て記事を書くのが悠介の夢だったし、僕はそれを応援したかったんです。それに、こうやって写真を送ってもらえると、なんだか勇気を貰える様な気がするんです。」
「勇気、ですか?」
「はい。僕が頑張れる様にって、悠介は写真を送ってきてくれる。僕は、そんな悠介と、悠治がいてくれるから、病気を治そうって思えるんです。二人が笑っていてくれる事が、何よりも嬉しいんです。」
浩介は、とても寂しそうな顔をしている、と羽部は感じ取った。
自分が看護師として歴が長いから、とかではなく、単純に浩介の思考は顔に出やすい、本当は傍にいて欲しいのだろう、と容易に想像がつく。
「俺はね、坂崎さんも勇気があると思いますよ?恋人さんのしたい事をさせてあげたい、たとえそれが自分の傍にいられなくなっても。ってね。」
「……。本当は寂しいです、ずっと傍にいて欲しいです。でも、それは悠輔の為にならない。想ってくれるのは嬉しいけど、枷にはなりたくないんです。だから……。」
「涙目でいう事じゃないですよ、坂崎さん。貴方はお優しい、きっとその気持ちは、わかってくださいますよ。」
羽部は、浩介が泣きそうになっているのに気付いて、言葉を止めた。
浩介は、知らず知らずの内に自分が枷になっていないか、迷惑な存在になってしまっていないか、それが不安で仕方がないのだろう。
「きっと、大丈夫ですよ。きっとね。」
「そう、ですかね……。」
「はい。だって、お二人とも、坂崎さんの事が大好きなのが、よくわかりますから。」
羽部はそういうと、眠前薬を浩介に飲ませて病室を出ていく。
独り残った浩介は、悩みと嬉しさの間に挟まれながら、悠介からの電話を待つ。
「もしもーし。浩介、遅くなって悪かったな。」
「ううん、大丈夫だよ。悠介、今日のお宿は綺麗だね。」
「手入れはきっちりされてるな。それに、浴室露天風呂ってのは気持ちいいもんだ。そっちからもそんなに遠いわけでもないし、退院したら真っ先に一緒に連れていきたいな。」
「嬉しい、ありがとうね悠介。」
露天風呂を満喫した後、記事を編集しながら浩介に電話をかける。
もう夜九時だからそろそろ寝る時間だろうけど、毎日電話をして欲しいって頼まれてたから、ちょっとだけでも話す時間が欲しい。
「悠治は元気か?そっちは不自由なくやってるか?」
「うん、大丈夫だよ。看護師さん達も優しくしてくれてるし、悠治も毎日来てくれてる。そう言えば、梨を貰って食べたんだけど、そっちは梨とか出ないの?」
「出ないなぁ。あったとしても、市川程美味しくはないんじゃないか?あそこの直売所の梨、一番美味いと思うしな。」
「おじさんがね、娘さんが結婚して出て行っちゃったって、そう言ってたらしいよ?」
娘さん、って言うと、確か俺達と同世代位のお嬢さんだったか。
二十五だったか、二十六だったか、俺達と同い年か一個下だった記憶がある。
梨農家だなんて大変だろうに、嫌な顔一つせずに手伝ってたって印象があるけど、そうか結婚したのか。
「叔父さんにおめでとうって言うべきか、はてさてご愁傷さまって言うべきかね。」
「すっごい自慢の娘だ!って言ってたもんね。梨農家一のべっぴんだって。」
「そうだな、そんなこと言ってた。」
思い出し笑いをしてると、浩介もくすくす笑ってるみたいだ。
たった何日か会ってないだけなのに、暫く会ってない様な感覚になって、ちょっと寂しい。
けど、こうやって声を聞ける、それだけでも嬉しい。
「お祝い包まなきゃな。ずっと世話になってきたし、それ位してあげないとばちが当たっちまうよ。」
「そうだね、何が良いかな?」
「静岡って言うと……。うなぎパイ辺りか?こっちで買って、郵送で送るよ。」
パソコンで記事を書きながら、ちょっと調べる。
大手サイトの一番人気はうなぎパイで、それを買って送るのが良いかな、って考える。
「浩介達の分も買うからさ、看護師さん達と分けて食べてくれよ。」
「うん、ありがとう。うなぎパイって、なんでうなぎパイなんだろうね?」
「なんでだろうな?なんとなく知ってはいたけど、由来は聞いた事も無いしなぁ。」
それでヒトネタ書けそうな気もするけど、他人の尻馬に乗っかって記事を書く、って言うのは俺のポリシーに反する、それに取材に行こうにもアポを取ってる時間がない。
個人的に調べるのはありだろうけど、って感じだな。
「次はどこに行くの?」
「明日は名古屋に行く予定だよ。喫茶マウンテン、って言う名物料理屋さんというか、色物を扱ってる店があるらしいから、そこに行ってみようと思ってる。」
「名古屋かぁ、一回だけ出張で行った事あるけど、いい街だったよ?」
「それは楽しみだな。所で浩介、寝なくて平気か?もう夜九時回っちゃってるけど。」
「うん、大丈夫。悠介ともうちょっとだけ、お話したい。」
いっつも夜八時には面会時間が終了して、九時前には寝るっていう話は聞いてたから、ちょっと心配。
でも、浩介の声的にも眠そうな感じが無くて、言葉の通りというか、少し暇を持て余してるんだろうなって。
「あのね、悠介……。」
「なんだ?」
「退院したら、さ。ずっと一緒に旅をしたい、って話覚えてる?」
「おう、俺がトラベルライター、浩介は小説家を目指して、悠治を楽させてやろうって、約束したしな。」
もう、暫くこの話もしてなかった。
退院がいつになるかわからない、長期入院が必要だ、と言われてから、浩介は将来の事だとか、そう言う事を話したがらなくなった。
だから、この話が出たのが意外というか、浩介の心境に変化があったのかな?って思う。
「僕、頑張るから。絶対に退院して、一緒に旅に出る。どれ位辛い事があったとしても、それでも僕は、悠介と悠治と一緒にいたいから。」
「応援してるよ、浩介。ずっと、俺の気持ちも変わらない。俺達は、ずっと一緒だ。」
「うん。ありがとう、悠介。それじゃあ、僕は寝なきゃだから、おやすみなさい。あんまり、夜更かししちゃだめだよ?」
「おやすみ、浩介。」
そういうと電話が切れて、俺は記事の執筆に集中する。
そう言えば昼間、榎田さんが浩介は治るって言ってた、でもその代わりに引っかかる様な感じではあった。
何が引っかかったのか、までは俺にはわからなかったけど、言わなかったって事は大したことじゃないのかな、って自己完結して、記事に集中する。
「……。」
手術を受けるかどうか、それを問われた。
浩介は、受けて治るのなら受けたい、と思ったが、しかしバイパスを通すか心臓移植か、と言われていた為、手術自体が不可能である可能性もある、と言われていた。
ドナーが見つかれば心臓移植を行う事が出来るが、それが見つからなければ補助人工心臓でなんとか、というレベルらしく、何故今こうして普通でいられるかがわからない程度には、重篤との話だ。
「……。」
手術を受けたら、回復するのだろうか。
回復する、元気になれる、と医者は言っていたが、本当にそうなってくれるという保証は、誰にも出来ないだろう。
怖い、不安だ、そういった気持ちが、ぐるぐると心の中に渦巻いている。
しかし、何もしなければこのまま死んでしまうだけだ、延命こそ出来るだろうが、一章入院したままだろう。
勇気を出して、一歩ずつ前に進まなければ、と浩介はそう考えを纏めて、掛け布団をかぶると眠りについた。




