冥帝《3》
夜は、まだ続いていた。
視界は定まらず、距離は狂ったまま。
闇の中から、気配だけが現れては消える。
龍は、剣を振り続けていた。
当たらない。
それでも、振る。
闇の中から頭部が現れた瞬間だけ、切る。
深くは入らない。
だが、同じ場所を、何度も。
切っては、消える。
切っては、引く。
闇が、わずかに揺らいだ。
その瞬間を、幸人は見逃さなかった。
毒を塗った矢が、放たれる。
狙いは、さっきまで切られていた傷。
矢は、闇を裂き、その中へ消えた。
直後、地面が大きく沈んだ。
低い音。
動きが、鈍る。
「今だ」
龍が後退する。
闇の境界を越えた瞬間、空気が変わった。
距離が、戻る。
音が、戻る。
幸人も、外へ出る。
闇の中で、重いものが倒れる気配がした。
毒が回っている。
「……え、なに、なに?」
かんたが言い終わる前に、龍は掴んだ。
「行ってこい」
「は?」
次の瞬間、かんたは闇の中に投げ込まれていた。
「ちょっ、ちょっと待っ――!」
悲鳴。
闇の中で、何かが反応する。
動きが、かんたに向いた。
囮。
龍と幸人は、同時に踏み込んだ。
闇の境界を越え、動かない巨体へ。
毒で麻痺している。
剣が入る。
何度も。
切る。
切り下ろす。
刻む。
抵抗は、もうない。
最後に、龍が頭部を斬り落とした。
闇が、消えた。
夜は、ただの夜に戻る。
かんたは地面に転がり、動かない。
「……生きてる」
幸人が言う。
「次も投げるからな」
「次は拒否権くれ!!」
冥帝のドラゴンは、動かない。
こうして、討伐は終わった。
時間は、まだ一ヶ月も経っていない。




