詰み
盤は、静かだった。
動きが止まっている。
だが、止まっているのは一瞬だ。
次の一手で、全てが決まる。
力嶽は盤を見る。
白と黒。
残っている駒。
配置。
距離。
全てを、頭に入れる。
「……見えたな」
小さく言う。
亡霊は動かない。
こちらを見ている。
待っている。
次の一手を。
白の駒を動かす。
一歩。
前へ。
黒が応じる。
当然の動き。
予定通り。
「……そこだ」
力嶽が言う。
次の駒。
横へ。
道を塞ぐ。
亡霊の進路が制限される。
逃げ場が減る。
だが、まだ足りない。
亡霊が動く。
斜め。
圧をかける。
だが――
その先には、白がいる。
止まる。
選択肢が減る。
「……一手遅い」
力嶽が言う。
最後の駒を動かす。
静かに。
だが、確実に。
亡霊の周囲を塞ぐ。
前。
横。
斜め。
全て。
逃げ場がない。
亡霊が止まる。
動けない。
完全に。
封じられている。
「……チェック」
力嶽が言う。
亡霊が揺れる。
だが、動かない。
いや――
動けない。
どこにも行けない。
次の瞬間。
力嶽が一歩踏み出す。
キング同士の距離。
限界まで詰める。
その位置。
完全に、終わりの形。
「……チェックメイトだ」
静かに言う。
盤が、止まる。
全ての駒が、動かない。
時間が止まったように。
そして――
亡霊の輪郭が崩れる。
揺れる。
薄くなる。
消えていく。
最後まで、抵抗はない。
ただ、消える。
盤も、消える。
白も黒も、全て。
黒い空間に戻る。
静寂。
何もない。
力嶽だけが立っている。
「……終わりか」
短く言う。
その瞬間。
空間が歪む。
引き戻される。
光。
密林。
現実。
戻る。
力嶽は立っていた。
戦いは、終わった。
だが――
まだ、終わりじゃない。




