出会い
森の奥で、空気が重くなった。
滝ノ上 龍は足を止める。
理由はない。ただ、来ると分かった。
弓の弦が引かれる音が、背後から聞こえた。
「止まれ」
低い声だった。
振り向くと、金属製の黒く塗られたアイガードを装着し、口元を黒い布で覆った男が立っていた。
レンズは黒く、視線の奥は見えない。
弓はすでに構えられている。
「同じのを狙ってるなら、前に出ろ」
龍は何も聞き返さなかった。
男の視線が、同じ方向を向いているのが分かったからだ。
――来る。
地面が低く唸り、次の瞬間、大きく揺れた。
木々が押し分けられ、闇そのもののような影が現れる。
その瞬間、言葉ではない情報が頭の中に流れ込んできた。
――闇のドラゴン。
理解した。
理由も過程もない。ただ、そうだと分かった。
「来るぞ」
龍が前に出る。
同時に、背後で弓が鳴った。
矢は闇を裂き、鱗に当たった。
乾いた音を立てて弾かれる。
続けて放たれた矢も同じだった。
一本も、深く刺さらない。
龍は距離を詰め、剣を振るう。
首元を狙った一撃。
刃は、弾かれた。
火花が散り、腕に痺れが走る。
次の瞬間、前脚が叩きつけられた。
避けきれない。
地面が砕け、龍の身体が吹き飛んだ。
背中から叩きつけられ、息が完全に止まる。
起き上がろうとして、視界が揺れた。
闇のドラゴンの尾が振り抜かれる。
直撃は避けたが、衝撃で身体が転がる。
背後で弓の音が続く。
だが、状況は変わらない。
「……効かねえな」
淡々とした声だった。
事実を確認するような、短い言葉。
闇のドラゴンが踏み込む。
一歩ごとに、地面が沈む。
龍は剣を構え直した。
腕が重い。
脚も思うように動かない。
このままでは、削り殺される。
そのとき、弓の音が変わった。
乾いた、金属の響き。
アイガードの男――久保 幸人は、矢筒の奥から一本を引き抜いていた。
木でも骨でもない、鈍く光る金属の矢。
闇のドラゴンが咆哮する。
その口が開いた瞬間。
矢が放たれた。
一直線に飛び、鱗を弾かれず、目に突き刺さる。
闇のドラゴンが大きく仰け反った。
咆哮が、悲鳴に変わる。
一瞬。
本当に、一瞬だけ生まれた隙。
龍は、迷わなかった。
地面を蹴り、跳ぶ。
視界が歪む中、首元へ。
剣は、喉から深く入り、そのまま横に引き裂かれた。
闇が噴き出す。
闇のドラゴンは数歩よろめき、重い音を立てて崩れ落ちた。
しばらくして、完全に動かなくなる。
森に、音が戻った。
龍は膝をつき、剣を支えに立ち上がる。
幸人も弓を下ろした。
「非常時用だ」
幸人が言う。
「……助かった」
それだけで、会話は終わった。
闇のドラゴンは、確かに討たれた。
だが、それは圧勝でも、当然の結果でもなかった。




