執筆していてこの問題の深刻な存在を再認識した次第である。
ペットの社会学(5)
承前
表1を見ていただきたい。
表1 全国の犬猫の返還・譲渡率推移 (千匹%)
犬 猫 合計 返譲数 返譲率
平成18 2006年 28.90 4.4 33.3 3.0 8.9
平成19 2007年 29.90 6.2 36.1 3.9 10.7
平成20 2008年 32.80 8.3 41.1 5.3 13.0
平成21 2009年 32.90 10.6 43.5 7.0 16.0
平成22 2010年 33.50 11.9 45.4 8.3 18.2
平成23 2011年 34.30 12.7 47.0 10.0 21.2
平成24 2012年 33.30 14.9 48.2 11.1 23.0
平成25 2013年 32.10 16.3 48.4 13.3 27.5
平成26 2014年 31.60 18.6 50.2 16.7 33.2
平成27 2015年 29.60 23.0 52.6 20.3 38.5
平成28 2016年 30.50 26.9 57.4 28.9 50.4
平成29 2017年 30.00 27.0 57.0 32.3 56.6
平成30 2018年 28.00 25.6 53.6 31.3 58.4
令和 1 2019年 27.10 25.9 53.0 32.8 61.8
令和 2 2020年 24.20 25.4 49.6 34.0 68.5
令和 3 2021年 21.50 23.1 44.6 33.8 75.8
令和 4 2022年 19.70 20.5 40.2 30.6 76.0
令和 5 2023年 17.30 18.4 35.7 28.6 80.2
( 環境省・統計資料 )
この表1は 全国の犬猫の返還・譲渡率の推移をあらわした数値である。この表より年ごとに返還・譲渡率が上昇していることが分かる。特に平成27年以降の返還率と上昇が著しい。
持ち込まれた犬猫が慎重に里親探しをして親切な里親が見つかれば幸いだが、見つからないときは、犬猫にとっては最悪のケースで殺処分されることになってしまう。
ここで殺処分について触れておこう。
「愛護管理法」は殺処分の際は《できる限り苦痛を与えない方法》をとることを義務付けている。
では《できる限り苦痛を与えない方法》とはどんな方法なのであろうか。現在行われている方法の一つは炭酸ガス(二酸化炭素)による窒息死。動物をガス室に入れ、呼吸困難にさせ、最終的には窒息死させる方法である。一つの部屋に何匹も閉じ込めて注入装置で炭酸ガスを送り込み酸欠を生じさせ窒息死させる。一度に何匹でも殺害できる。何よりも簡便で安価に殺処分できる。
この発想はナチスのホロコースト(注1)の強制収容所の大量殺戮の方式を連想させる。この窒息死が本 当に苦痛を与えない方法なのか、大いに疑問とするところである。これはビニール袋を頭に被せて袋の口を首で閉じでしまうのと同じことだ。とても苦痛を与えない方とは思えないが、動物愛護管理センターでは炭酸ガスは刺激性がなく昏睡状態で苦しまないうちに死に至る安楽死であると言っている。どうであろうか。
このガス室は名前に反して動物愛護管理センター内では『ドリームボックス』という名で呼ばれている。
この『ドリームボックス』には、最期に苦しんだ犬や猫たちの何条ものヒッカキ傷が壁に残っているという。「ドリームボックス」、「安楽死」何という耳障りの良い言葉ではないか。
以上は『ピースワンコ・ジャパン』(注2)のインスタグラムの記事による。
別の方法としては薬物投与による安楽死がある。注射により麻酔薬などを投与し、苦痛なく眠るように死亡させる。注射は獣医師により、一匹ごと行われるため大量殺処分は出来ず、非能率で費用がかさむことで敬遠されがちである。
それではどれほどの数の犬猫が殺処分されているのだろうか。年度別の殺処分数を上げると次に様になっている。
表2 全国の犬・猫の殺処分数の推移 (千匹 )
犬 猫 合計
平成18 113 228 341.0
平成19 99 201 300.0
平成20 82 194 276.0
平成21 64 166 230.0
平成22 52 153 205.0
平成23 44 131 175.0
平成24 38 123 161.0
平成25 29 100 129.0
平成26 22 80 102.0
平成27 16 67 83.0
平成28 10 46 56.0
平成29 8 35 43.0
平成30 8 31 39.0
令和 1 6 27 33.0
令和 2 4 20 24.0
令和 3 3 12 15.0
令和 4 2 9 11.0
令和 5 2 7 9.0
(環境省・統計資料)
表2の「全国の犬・猫の殺処分数の推移」によると、平成18年2006年度の全国の殺処分数は、約34万1千匹(犬が約11万3千引き、猫が約22万8千匹)だった。
それが8年後の平成26年(2014年)度に約10万2千匹(犬が約2万2千引き、猫が約8万匹)と約30%に減少し、さらに9年後の令和5年2023年度には9千匹(犬が約2千匹、猫が約7千匹)と約9%にまで減少した。まさに激減である
考えられる理由はインターネットや書籍などでペットの繁殖産業での境遇の悲惨さを繰り返し取り上げられているので、飼育家庭にもこの悲惨さが広がり社会のペットの福祉に対する意識の向上やペット愛護の認識が進んだ、と考えられもする。その通りであるかもしれない。
しかし実はこの殺処分数の激減には大きな落とし穴がある。
この統計資料『犬猫殺処分数の推移』は環境省発表の統計資料であって「動物愛護管理センター」内で行われた殺処分数である。他での統計資料はない。それでは動物愛護管理センター」以外では殺処分は行われていないのであろうか。心しておかなければならないのは他で行われているとすればその殺処分はこの数には含まれていない、ということである。
2013年(平成25年)9月1日に施行された改正動物愛護管理法によって所有者からの犬猫の引き取りが有料化となった。それまでは無料で無制限に犬猫は引き取られていた。それが動物愛護管理法の改正によって、飼い主の責任が強く問われるようになったのである。センターではやむを得ない事情と判断された場合は引き取るが、安易な動物の持ち込みを抑制している。“可愛くなくなった”“老犬になって世話がかかる様になった”“世話役がいなくなった”“お金がかかるようになった”等、理由はさまざまであるが、センターでは簡単に引き取りを承知しない。
センターでは“別な方法を検討しましたか”と尋ねる。少しでも未検討の方策があれば、その方法を検討して改めてお越しくださいと、告げる。
あるいはまた入院や。旅行などで一時的に預かる場合でも、その理由が解消すれば返還する。動物愛護管理法の改正によって、センターは家での飼育に万策尽きてでなければ引き取りの拒否が出来るようになった。
この結果引き取った犬猫は譲渡会を開き犬猫の最後の生き残り作戦をする。引き取り数を制限して、里親探し(譲渡)にウエイトを置けば、殺処分数もそれに伴って減るのは理の当然である。
表2の「全国の犬・猫の殺処分数の推移」を見ていただきたい。この犬猫の引き取り数の推移で分かるように引き取り数はまさに激減である。その上で表1の殺処分の数値と表2の引き取り数の数値を比較してほしい。
グラフの形で視覚的にお見せ出来ないのが残念だが、この二つの表はまったくの相似形なのである。すなわち引き取り数の減少と同時に殺処分数の減少が始まっている。
表3 全国の犬猫の引き取り数の推移 (千匹)
犬 猫 合計
平成18 2006年 142 232 374
平成19 2007年 130 206 336
平成20 2008年 113 202 315
平成21 2009年 94 178 272
平成22 2010年 85 164 249
平成23 2011年 78 143 221
平成24 2012年 72 138 210
平成25 2013年 61 115 176
平成26 2014年 53 98 151
平成27 2015年 47 90 137
平成28 2016年 41 73 114
平成29 2017年 39 62 101
平成30 2018年 36 56 92
令和 1 2019年 33 53 86
令和 2 2020年 28 45 73
令和 3 2021年 24 35 59
令和 4 2022年 22 30 52
令和 5 2023年 19 25 44
(環境省・統計資料)
この二つの数値は因果関係にあることは明らかで、センターの引き取り数の制限が、殺処分の減少という結果になった。
単刀直入に言えば引き取り数を減らしたから、殺処分数が減った、と言っていい。