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Second life (仮)  作者: 壱弥
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第8話:早起きはお得?

明くる日。


「あー……またかよ」


今日もまた、日の出前に目が覚めた。

悪いことではないんだろうが、正直目的も特にないのに早起きするというのはいささか無駄な気がする。


「かといってやることもないしなぁ……どうするか」


弓の練習……は止めておこう。村で拷問されたんだ、街でどうなるかなんて考えたくもない。

二度寝……も却下。起きた意味がないし。

というわけで、散歩にでも行こうかな。このあたりの地理を知っておいて損はないだろう。


「いってきまーす……」


階段を下りて、ひっそりと出発する。

朝もやのただよう街の様子は、開店に向けて少し騒がしくなってきたところだった。



「さて、どうしたもんだろう」


散歩開始からおよそ30分。いきなり迷いました。

大通りから少し外れると小さな路地が網目のように広がり、どんどん継ぎ足されていったのか行き止まりやら回り道やらばっかりで、方向感覚が簡単に狂ってしまった。

太陽もいまだ顔を出さず、路地裏は薄闇に沈んでいた。


「適当に歩けば大通りには出るだろ。朝飯までにギルドに帰っておかないとな」


すたすたと路地裏を進んでいく。たまに寝転がってる人もいるので間違って踏みつけないよう、多少の注意を払いながらひたすら前へ、前へ。

王都とはいえやはり路地裏というのは汚いものなのか、それともこの国が異常なのか。生ゴミが入っていたであろうゴミ箱が打ち捨てられ、その近くにはぼろ布が捨ててあった。正直まわれ右したいところだが今までまっすぐ進んできているし、下手に方向転換してまた分からなくなっても困る。異臭を放つそこへ、俺は足を踏み入れた。


「うぷっ。腐ってやがる。遅すぎたんだ」


鼻をつまみながら、やっぱり入るべきじゃなかったかなーとか思いつつ進む。距離は大したことないが、この臭いが行く手を阻む。

半分くらいまでは進み、よし後は走り抜けようか、と気を抜いた。


むぎゅ。


「あぐっ!?」


ぼろ布を踏みつけたら鳴いた。

もちろん布が生きているなんてことはない(まあ、この世界ならあるのかもしれないが)ので、足でぼろ布をちょいと除けてみる。


「……………」


「……………」


「………………………」


「………………………ネコミミ?」


ぼろ布にくるまり、こちらを睨みつけているのは、男か女かも判別がつかないほど薄汚れた、ネコミミ付きのガキだった。

ざっくりといかにも無造作に切られた髪、手折れそうなほど細い腕と足、元は服であったろうぼろ布。顔にも殴られたような痣があり、おそらくは貧民層、この路地裏で日々をしのぐ孤児であろうことはすぐ分かった。

しかしこっちをひたすら睨みつける大きな釣り目が、ぼろぼろになりながらも意思が折れていないことを伝えてくる。しかしそれと同時、微妙に焦点のあっていないその目が、このまま放置していれば1日持たずにこのガキが死ぬであろうことを伝えてきた。

俺は、俺が味方以外には冷酷になれることを自覚している。ここでこのガキを放っておいても、たぶんすぐに忘れることができるだろう。

だから、これはただの気紛れ。こちらの世界へ来て初めて会った亜人種だからだ。助けようなんて、柄にもないことを思ったのは。


「よっと」


ひょい、と布ごと抱き上げる。手に伝わる重さはとても軽くて、まともに飯も食べることができていないことを知った。


「あんたなにすもがっ」


何か騒ぎそうだったので、カロリーメイトを作って口に突っ込む。むぐむぐと抱き上げられていることも忘れたのか、必死でカロリーメイトを咀嚼している。

その間に、見覚えのある道についた。俺はガキを抱いたまま、ギルドへと帰った。


「あらぁ、お帰りなさぃ。散歩にでも行ってたのぉ?」


帰ってきた俺を、ギルドのお姉さんが出迎えてくれた。変な臭いがするぼろ布の塊を抱えている俺にそんな挨拶ができるあたり、やっぱりこのお姉さんも普通じゃないのであった。


「ええ、ちょっと朝早く目が覚めたもんで。それよりお風呂使わせてもらえません? この子洗ってあげたいんですよ」


「あらあらあら、獣人族拾ってくるなんて物好きねぇ? あなたそういう趣味なのぉ?」


「いえいえ、ちょっとした気紛れで。あとそういう趣味じゃないですあの変態と同じようなこと言わないで下さいよ」


もくもくとカロリーメイト(10本目)を齧るガキの頭上で、言葉の応酬を交わす。ていうかなんで朝から微妙に品のない話をしなきゃならんのか。


「で、使っていいんですか? 使えないってなら他のところ探すんで」


「大丈夫よぉ。ほらぁ、朝風呂したいって人も結構いるからねぇ、いつでも使えるようにしてるのよぉ」


さすが、水汲みをわざわざしてる小さな村と違ってまともな風呂もギルドの設備にはあった。

タオルを借りて、抱えたまま風呂場へ向かう。石鹸とかはまぁ、作ればいいだろう。これだけ汚れてるとギルド中の石鹸を使い果たしそうだ。

そしてガキが食べているカロリーメイトが15本を超えた。お腹がすいているのはわかるけど、運ばれてるのも気にしないってどんだけカロリーメイトが気に入ったのやら。

あだ名はカロリーちゃんにしてやるか、なんて益体もないことを考えながら抱えなおす。


さて。洗って、傷を治してやって。そのあと、俺はこいつをどうするのだろう。

生きられるだけのものは与える。与え続けるのか、見捨てるのか。俺はまだ、それを決めていなかった。


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