第7話:王都とギルド
「でかい門だな、やっぱり」
バロウム王国の王都、ガミギュンへ入ろうとした俺を出迎えたのは見上げるほどの高さを誇る、巨大な城門だった。
領内の治安は最悪とはいえ、不審者をほいほい入れるわけにもいかず、苦肉の策として王都をまるまる城壁で囲み四方に門を配置し、そこで王都へ入るものを監視・観察しているらしい。もっとも、セラから聞いた話では城門の見張りも腐っていて実際は何の役にも立っていないらしいが、真実やいかに。
「はいストップ。荷物検査と素性調査するから手を挙げてー」
結論、ちゃんと仕事してました。
「しかしとっぽい兄ちゃんだなぁ。なに、こんなとこへ何の用よ? ここに住んでる俺が言うのもあれだが、ここの治安は相当悪いぜ?」
「あー……ほら、俺これでもちょっとわけありでね。後とっぽいは余計だ門番」
「ほうほう、わけありときましたか! よし、相談に乗ってあげよう。で、誰が好きなんだい兄ちゃん」
「いきなり修学旅行の夜みたいな話振ってくるんじゃねぇよ! つーかなれなれしいわ!」
なんだよぅ、つれないねぇとか言って軽く落ち込んでる門番を放置して中へ入る。この世界、フレンドリーな人間は詐欺師かスリか泥棒か。汝の隣人を愛せよなんて聖書の教えもありはしないのである。
……荷物検査とか素性調査とか言ってて何もされてないことに気付いたのは入ってからだった。
ごめんセラ疑って。君の言うとおり、門番は腐ってました。
ざわざわと活気のある大通り。予想ではもうちょっと混沌とした、無法地帯をイメージしていただけに拍子抜けだった。
「しかしそれは表の顔、路地裏とか夜は一変するぜー?」
「へえそうかってなんでこっち来てるんだテメエ!?」
すすす、とフレンドリー門番がいつの間にやら近くへ寄ってきていた。いや、本当になんでこっち来てるんだこいつ。
「あーあーあー、非番だ非番。ほら門番としちゃ今日入った奴が夜に運び出されるのなんか見たくないのよ」
自主非番らしい。……それはサボりというものではないだろうか。
「なに、妙に親切だけど入ってくる奴みんなにそんなことしてんの? つかそんな簡単に門番ボイコットしていいのかよ」
「いいのいいの、門番なんて趣味で見張ってるだけだから。考えが甘いねぇ、この国にまともに働いてる奴なんて数えるほどしかいないぜー?」
例外はお城の中の連中だがな、と言ってけらけら笑う門番。というか暇人。仕事でもないのに城門で見張ってるだけの暇人らしかった。
「これでもそれなりにこの国は長いんでね。いろいろ教えてやるよ。その代わりに好きな人教えろよー」
「うぜぇえええ! 知り合ったばかりでほんとなれなれしいなアンタ!だいたい好きな人も何も共有できねぇだろうがその情報!!」
「いやいや、好きなタイプなら共有できるってー。ちなみにオレが好きなのはあれだ、巨乳の姉ちゃん。あんた貧乳派?貧乳も悪くはないけど、女の趣味では仲良くできねぇなー」
「聞いてねえよ! ていうか胸で人を判断してんじゃねえ、大事なのは性格だろうが! そしてアンタと仲良くするつもりはない!」
本当に性格は大事だ。俺の幼馴染なんかは見た目超パーフェクト、性格最悪。性悪ではないにせよ、ありとあらゆるトラブルを引き寄せ、突っ込んでいくあの性格は間違いなく最悪である。おもに周りの人間にとって。
なーなーなーとうっとおしい暇人なんかも性格は悪いうちに入ると思う。ていうかほんとうっとおしい。
「胸にこだわらないなら、今から俺たちは戦友さ!」
「うるせえええええええ!!」
※
ところ変わって、ここは冒険者ギルド。文字通り、冒険者に仕事をあっせんしたり情報を売ったりする、ファンタジーにお馴染のあれである。ファンタジーと違うのは、ギルドが国家レベルの力を持っていることだろうか。領地を持たないので王国や帝国みたいに国を名乗ることはできないが、あらゆる国、あらゆる場所にギルドがあり、頭のない国と言われている。冒険者や傭兵をサポートすることから、国でも下手に手を出すことの出来ない一大機関なのだ。まあ、セラの受け売りだが。
「あらぁ、とっぽいお兄さんねぇ? どうしたのぉ?」
「ギルドに登録しにきました。あととっぽいは余計だお姉さん」
出会う人出会う人とっぽい言うんだが、俺はそんなにとっぽいのか? ていうかとっぽいってなんだ?なんとなく良いイメージの持てない言葉だが、意味がいまいちよくわからん。興味もないけど。
「はぃ、じゃあこの紙に必要事項を書いてねぇ」
渡された紙に必要事項を記入する……必要事項、名前と年齢。技能が自由枠。
どんだけ適当なんだ、ギルド。
「確かに受理したわぁ。技能に弓があるから、職業はアーチャーねぇ。じゃあはいこれ、ギルドカードよぉ。失くしたらゴルト金貨一枚で私が再発行するからぁ、どんどん失くして良いわよぉ」
「了解、絶対失くさないようにするよ」
ギルドカード……カードとは言っても鉄製の板みたいな外見である。こんなのに情報が入ってるんだろうか?
「はぃ、じゃあ説明するわねぇ? そっちから見て、一番右が長期パーティ募集、真ん中が短期パーティ募集、カウンターの隣が1回だけのクエスト手伝い募集よぉ。ギルドの1階は見てのとおり交流所もとい酒場でぇ、2階は宿にもなってるからぁ、利用するなら申し込んでねぇ。わからないこと、あるぅ?」
「いや、ないね!この兄ちゃんには俺がついてるからな!」
「アンタがなんでここにいるのかがわからねぇよ!」
現れる暇人。おかしいな、確かに撒いたはずなのに。
「まあ気にするな、どうせギルドに来るだろうとずっとこの酒場で待ち伏せてただけだ。うむ、やっぱりティリスの酒は美味いな!」
「どっか行け暇人がぁ!」
「痛て、痛いって! ちょっとやめて、俺はどうせ踏まれるなら女の人に踏まれたいから!」
「こ、こいつは……」
王都到着1日目。暇人さらに改め変態と訳のわからない縁ができた。
明日こそは良いことがあると、信じたい。