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Second life (仮)  作者: 壱弥
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第5話:居候、去る

主人公ステータス


名前:カエデ=アキノ


能力


・言語理解Lv.2

言葉が理解できる。文字の読み書きができる。←new!


・物質創造【防具】Lv.1

防具が作り出せる。特殊能力を付与できない。


・物質創造【武器】Lv.2

武器が作り出せる。特殊能力を付与できる。←new!


・物質創造【道具】Lv.2

道具が作り出せる。特殊能力を付与できる。←new!

山を登る。手にはついさっき作った弓と矢。

俺が何をしているかと言えば、


「山狩りだ……! この爪の恨み、あいつらではらす!!」


復讐である。

俺がスパイと言われた理由→盗賊がいるから

俺が爪を剥がされた理由→盗賊の場所が分からないから

よって、俺が痛い目にあったのは全て盗賊のせい。盗賊団には、地獄を見てもらうこととする。

そして俺は、すでに盗賊団の痕跡を見つけている。幼馴染の地獄訓練に比べれば人の足跡を見つけることくらい造作もない。

……いや、本当にあれは地獄だった。何が悲しくて夏休み中まるまる全部富士の樹海でサバイバルしながら勝負しなきゃいけないんだか。結局夏休みを丸々使い切り、宿題未提出で学校へ行ったのも地獄の一環である。


「おい、てめぇ。こんなところへ何の用だ」


見張りがいた。

いかにも雑魚ですという面構えなので、


「底なし沼」


「てめぇ何をごっ!?」


底なし沼で泳いでもらうことにした。

ずぶずぶと沈んでいく見張り。雑魚は雑魚らしく、身の程を知っていればいいのだ。


キリキリキリキリ……


丸太小屋に向かい、弓を限界まで引き絞る。

ただ狙っても、本来届きはしない。矢なんてのはよっぽど強力な、それこそ何人がかりで引くような弓じゃなきゃ木を貫通する威力なんて出ない。さらに、小屋に盗賊がいても、透視能力なんてない以上狙いをつけることなんて出来ない。

しかし。


「弓“絶対命中”。矢“絶対貫通”」


昨日鉈を大量に使い捨て、今朝弓と矢を作ったことでひとつ武器制作の段階が上がったようだ。

この弓で狙えば必ず命中し、この矢で射れば必ず貫く。

矢の数は20本。爪が剥がれてはいるが痛み止めも服用済み。躊躇う理由はない。


「じゃあな。顔も見ずに退場させてやる、三下」


立て続けに20発。小屋の中から聞こえてきたやかましい叫び声を無視して、俺は村へと踵を返した。



それは天災だった。

アジトにいるのは見張りを除いた8人。

ついさっき、街道を通る荷馬車からごっそりと積み荷を頂戴してきて分配している最中だった。


「お頭、早いとこわけちまいましょうぜ」


「焦るな焦るな、積み荷は逃げやしねぇよ」


人質は逃げるかもしれねぇがな!


違いない、はははは!


予測できなかったのも当然。見張りからの連絡はない。丸太小屋に見えてこのアジトは内部に鉄を仕込んでいる。盗賊が冗談を言えるほど安心できる空間であったがゆえに、それを破る事が出来るなんていうのは想像の埒外だったのだ。

最初の犠牲者は壁にもたれかかっていた男。


「がっ……!? ぜひゅ、が、おがじら……!」


「なっ!? おめぇ、どうしがっ!?」


飛び込んできた矢が貫くのは肺。もっとも安心できるはずだった空間はまたたきの間に阿鼻叫喚の地獄と化した。

肺を貫いた矢はそのまま、あり得ない軌道を描き足を床に縫い付ける。

内部に鉄を仕込んでいたことがここで災いした。床に食い込み推進力をなくした矢は、決して引き抜くことのできない楔へとその姿を変えたのだ。


「がふ、がは、息が……でき……」


人間の内臓は骨と肉で守られている。その中でも肺は非常に脆く、胸から肺に穴が空くと空気圧によりつぶれたスポンジのように押しつぶされる。その結果、本来息を吐き出した後は息を吸うはずの呼吸ができなくなる。肺がつぶされていては、吐くことはできても決して吸うことはできない。これにより呼吸不全を起こし、酸素不足から当然のように窒息死する。


ひとしきり叫んだ盗賊団は、それ以上叫ぶこともできないままひっそりと苦しみ、断末魔もあげることもできず壊滅した。



「よし、爪も生えてきた」


村の前で、回復薬(再生力極限UP)をがぶ飲みし、爪が生えてきたのを確認してセラの家へ向かう。


「いくらなんでも助けは間に合わなかったんだよ、なんて言うわけにはいかないしな……」


恩は返した、と思う。一宿一飯の恩として、盗賊団壊滅ならお釣りがくるだろう。

そして、長い間この村にいるわけにはいかない。自分がいくら良いと言っても村の人はそうは思わないだろう。それではセラにまで迷惑がかかる。


「結論としては今日の夜、もしくは明日の朝ってところかな」


この村を出て行こう。誰にも気づかれることなく、自分がいた事を忘れてもらおう。

今日の夜、常識を聞いたら自分はどこかへ行こう。


「カエデー? どこ行ってたの?」


「散歩行ってた。ご飯ある?」


「ふっふっふ、今日のは自信作だよ?」


「わお、じゃあ期待しとこうか」


セラと連れだってセラの家へ帰る。

それが最初で最後。もう一緒に帰ることはない。



夕食を食べて、カエデと勉強をしていた。

世界の名前、大陸の名前、国の名前。冒険者、騎士、魔術師。お金の単位、物の相場。亜人種、魔物、魔獣、魔族。

カエデは優秀な生徒だった。私の知っていることをすぐ理解し、吸収した。

イドとかオフロがないことに驚き、魔術があることに驚き、笑っていた。

一通り勉強も終わって、そろそろ寝ようか、という時間になった。


「ああセラ、聞きたいことがあるんだけど」


「なに?」


「好きな色ってある?」


カエデはそんな質問をしてきた。好きな色、といわれて真っ先に思いつくのは――


「黄色、かな。私の髪の色だし、お母さんがほめてくれた色だから。」


そっか、とカエデは笑って、


「じゃあおやすみセラ。良い夢を」


「おやすみカエデ。良い夢を」


教えたおやすみのあいさつをさっそく使って、部屋へと上がっていった。

そして次の日。カエデはいなくなっていた。家の裏に温泉、村の広場に井戸を作って。

空になった部屋には、真っ赤な缶を重しにした手紙と黄色い宝石をあしらったブローチを置いて。



「さて。こんなものかな」


昨日の話では、この村の人はわざわざ水を汲むといっては林の中の泉へ行って、体を洗うといってはいちいち林の中の泉に行っていたらしい。

井戸とお風呂について話したら興味深そうな反応をされたから作っておいた。

井戸は爪を剥がされた広場に、風呂はセラの家の裏に。能力で作るまでもなく、地面を掘ったら湧き出てきたから天然の温泉だろう。

感謝の手紙を書いて、机の上に置く。

最後に、黄色が好きと聞いたから琥珀をあしらったブローチを作る。こめるのは“加護”。このブローチを持っている限り、あらゆる災厄からセラを守り能力を引き上げるだろう。


「じゃあな、セラ。お世話になりました」


聞こえないと知りつつ頭を下げ、俺は異世界へと本格的に足を踏み出した。

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