第32話:チート二人
「隊長ォー!!」
お、抗議隊のお帰りか。
「いやぁ、悪いなお前らわざわざ抗議に行かせげぶるぁ!?」
おお、鳩尾にタックルとは鬼畜だな。しかも鎧付きと来たもんだ。フェーネさんもやるねぇ。
「良かった、無事で本当に良かったです……!」
「ちょ、まっ、うごごごご……」
ぐりぐりぐりぐり。
馬乗りで胸に頭擦りつけるとかマジおいしいですねフェーネさん。二重の意味で。
「ほら、俺の薬の効果は知ってるだろ。大丈夫だから離れてやって、顔色すごいことになってるぞ」
「はっ!? す、すいませんつい。それとカエデは向こうの天幕に呼ばれてますよ?」
だろうね。逆に呼ばれなきゃこっちから呼んでたところだしな。
まあ呼ばれたんなら手間が省けて好都合、っと。
「じゃあ俺は向こう行ってくる。ジャックは……顔色悪いぞ、寝とけ」
原因も一緒に居るけどな。
「場所はわかります? なんなら案内を付けますが」
「いや、いい。向こうの方見ればわかるからな」
ここに居ますよ、と言わんばかりの豪華な天幕があっちの陣営のど真ん中にありますし。
※
「うへぇー……入りたくねぇ……」
天幕前に来たのは良いがゴゴゴゴ、とかドドドド、という効果音が聞こえてきそうなオーラが天幕から噴き出してますよー……
怒ってんなぁ、これ。
「よし帰ろう」
「待てこら」
するり、と天幕から手が伸びてきてがっと上着を掴み……って何だこの力!? 思いっきり人間離れしたこの力は――
「何するんだ――椿!」
「それはこちらの台詞だ。目の前まで来て帰ろうと――いや、それはまだいい。楓、お前あの時一体何考えてたんだ!」
「待て待て待て! ここでそういうこと言うな! ていうかこっちも言いたいことはあるんだよ!」
そもそもお前なんでこの世界にいるんだ、とか。勇者様とか何やってんだおい、とか。
「む……じゃあ中に入ろう。楓に言いたいことがあるのは私だけじゃないんだ」
「へ?」
他に知り合いなんていたか? あのお姫様とはまともに接点ないし、魔術師の方か……いや、魔術師と、特に向こうの奴と知り合った覚えなんてますますないぞ。
「中に誰がいるんだ?」
入った瞬間不意打ち……はまあ椿の性格的にあり得ないとしても。敵陣営にいる時点で警戒はしておかないとな。
「そんなに心配しないでも大丈夫だ、私と姫様と彼女だけだ」
「ふうん?」
じゃあ俺に用事があるってのは黒魔術師の方か? 分からんな、ジャックにやったあの槍についてか? 興味でもあるのかな。
「んじゃまあ、さっさと話を済ませるか。あ、先に言っとくけどお前との話は後だぞ、俺は隠してるんだから」
一応出自は隠してるんだ、ただでさえ注目度高いのにこれ以上目立ったら困る。最悪、二人目の勇者とか言って祭り上げられかねん。
「ん? そうなのか? 正直に話さないのは関心しないな、隠し事は正義の行いじゃないぞ」
「いや前から何度も言ってるけど馬鹿正直な正義なんてのは存在しないからな」
それでまともに機能する正義ってのは間違いなく異常だ、良かれ悪しかれ。問題はこいつはその異常者ってことなんだけどな。
「さてと。じゃあ頼むから黙っててくれよ? 嘘つけとは言わないからさ」
「しかたないな、でも後でしっかり教えてもらうぞ……ああそれと」
「ん?」
どうしたんだ、なんかそわそわしはじめたけど。ひょっとしてトイr……
「その、な。あの時は助かった。お礼も言えなかったからな……でも頼むから二度と同じようなことをしないでくれ。お願いだから……ってどうした、胸押えて」
「いや……すまん。いろいろと」
胸が! 胸が痛い!
「ま、まあ大丈夫ならいいんだけど。それじゃあ入るからな」
「あいよ」
さてさて、どっちに文句言われるのかね。改めて思うと姫様にも割と酷いこと言ったしやったからなぁ、そっち関連かもしれんね。それもまあ、入れば分かることだけど。