閑話:紳士な話
さて。流れであの黒ローブと再戦することになったが……勝算が、ない。
前にやったとき弾かれた理由はわからないまま、この槍の効果が急になくなったわけじゃないのは確認済み。原因がわかれば対処法も考え付くってもんだが、それがまったく分からないと来たもんだ。
『炎よ!』
「はっ!」
ある程度の距離を保ったまま、牽制の火炎弾を撃ち落とす。さっきからおよそ十回撃ち落として、向こうの魔術の腕はお姫様と同程度と睨んだ。
好んで使う魔術の種類も一緒だし、ひょっとしたら一緒に魔術を学んだのかもしれん。だとすると、不可思議な防御は一体何なのかますますわからなくなるんだけっ、ど!
『さあ、膠着状態に陥っているようです! これは遠距離から近寄らせない黒魔術師有利かー!?』
いや、近寄ることだけなら出来る。ただ、前のように攻撃をしてカウンターを喰らうのは勘弁だ。フェーネもカエデも勝ってるのに、俺だけリベンジも出来ずに負けるってのは情けない。
そのためにはあの防御の仕掛けを理解すること、できれば突破する方法も。
実はさっきから、目立たないように小石を弾いて黒魔術師を狙っているんだが――全ての小石が壁に当たったかのように相手の足もとに落ちている。小石が気付かれているのか、それとも常時壁を張っているのか。
『火よ、水よ、風よ地よ。我が名において応えよ』
まずい! 詠唱の毛色が変わった!?
『おおっと、このままでは埒が開かないと判断したか!? 謎の黒魔術師選手、今までの詠唱とは比べ物にならない長さの詠唱を始めたぞ! だが我らがジャック王子がそれを逃すはずもない!肉食獣の動きで黒魔術師に迫る!』
集中してるだろう今なら、あの防御に弾かれても反撃を喰らうことはまずない! 一撃入れて、すぐに離脱する!
『全ての王よ、我が呼び声聞こえれば馳せ参じよ』
「吹っ飛べ!」
全力疾走から槍を地面に突き立て急制動をかけ、その勢いを保ったまま、槍を軸に体を回転させて蹴りあげる――!
そして。ローブの隙間に胸元の膨らみと、黄金色の光を見た。
がつん、と。
蹴りあげた足が。
ああ――触れることもなく、弾かれて。
「なんだ――アンタ、女だったのか」
そりゃあ、女相手に勝ちたいなんてがっついちゃあ男の負けだよなぁ、と自嘲して。
『破天――万象の一!』
虹色の光に、意識ごと吹き飛ばされた。
※
「あー……生きてたか」
むくり、と出来あいのベッドから体を起こす。全身に激痛が走る――ということもなく。
「毎度ながらとんでもない効果だな、カエデの薬は」
「そのおかげで五体満足なんだ、感謝しろよ変態」
まったく。ねぎらいの言葉一つ無しとは相変わらずカエデは冷たいねぇ。
「っと、そういえばフェーネは?どうせなら寝起きには野郎じゃなくて女の顔見たかったんだけど」
誰だってそう思う、俺だってそう思う。フェーネならなんだかんだでつきっきりで看病してくれてると思ったんだけどなあ。
「ああ、向こうに殴りこみに行った」
「はぁ!?」
何でも、最後の攻撃は殺す気だっただろうと抗議に行ったらしい。言われて外を見てみると、ごっそりと地面が削れていた。
……ぞっとしない話だ。
「おっかしいなー、俺、そこまであの子に嫌われるようなことした?」
「お前があの子って言うんならあの黒ずくめ、女か。それなら変態ってばれたんだろ。……いや嘘だから。そんな絶望した顔すんな。なんでも、実戦経験ほとんどないせいで手加減できないんだってよ。いつまでたっても倒せなくて怖くなったから、最強の一撃を叩きこんだんだと」
うへぇ。怖かったのはお互いさまってことか。
「ってわけでよかったなジャック。ほぼ確実にお前の判定勝ちだ」
「相手は無傷なのに勝ちって言われてもね。負けでいいから触ってみたかったなぁ」
「はいはい変態変態」
そういう意味じゃないんだけど。俺だってたまには真面目に……いや、いい胸だった。嘘をつくのは良くないね!
『判定! 破壊力が強すぎたため、謎の黒魔術師選手の敗北です! 0対3で、バロウム王国の勝利が決定いたしました!』
「お、やっぱりな」
「どうせなら顔が見たかった……いい胸だった」
「お前はいい加減自重しろよ」
悪いなカエデ、無理だ。