第29話:バケモノ(後)
「む……これをかわすか」
ざっくりと人の体を斬っておきながら、久しぶりに会う幼馴染はむかつくくらいに冷静だった。ていうかとっさに後ろに跳ばなかったら真っ二つコースだったんですがこの野郎。
「おいこら、どういうことだ。なんでお前がここに居るんだよ!」
まさかこいつも死んだんじゃなかろうな。それなら俺はなんのためにここにいるんだって話になるんだが。
「なんで? なんでだと? 悪の巣窟たるバロウム王国にいる貴様がそれを言うか。だがいいだろう答えてやろう、すなわち正義のためだ!」
……あー、本物だ。なんでここにいるのかはともかく、間違いなく本物だ。こんな答えを返してくる阿呆なんざ椿しかいまい。このずれまくった答えといい、正義バカなところといい、たとえトラウマを再現する魔術があったとしてもこんな奴間違っても再現できないだろ。
「ところで俺が誰だかわかる? どっかで会ったことないかなー?」
「貴様なぞ知らん。それだけの腕を持っていれば戦ったことを忘れることなどないだろう」
よし、マントの認識阻害はしっかり働いている模様。浅くとはいえ、斬られたから少し心配していた。こいつに今、正体がばれると色々面倒なことになりそうだからな……
『漆黒の天幕――開幕』
ぶわっ、と胸元のマントが広がる。一瞬の内に辺り一帯は無明の暗闇に包まれた。このマント、今でこそ俺の体に巻いてあるが本来は文字通り、天幕並みの大きさである。小さくしていればそれを巻いている本人を認識できず、広げればあたりから一切の光を奪う。
「な、なんだ!?」
馬鹿め、お前となんか真っ向から戦ってられるか! ジャックが吹っ飛ばされた方向はしっかり確認済み、負け犬ジャックを回収して闇にまぎれて撤退する!
「逃すかああああああああああ!」
「うお危ねぇ!?」
びゅおん、ととっさにしゃがみこんだ俺の頭の上を豪風が通り過ぎる。躊躇いも戸惑いも一切なし、いっそすがすがしいほどの暴力だった。
「くっそ、やってられねぇ……ていうかなんで見えないのにそんな正確にこっちを狙えるんだおい!」
俺でも向こうのことは全く見えてないんですが。いちいち攻撃前に律儀に叫んでるからかわせてはいるものの、視界というハンデは暗闇になるなんて予測していなかったであろう向こうにこそあるべきだってのにこっちに不利に働きまくっている。
「そんなもの、気配でだいたいわかるに決まっているだろう!」
どーん。
もう駄目、マジ付き合ってられねぇ。呼吸音とか足音で察知してるなら(当然、無音だが。そこらへんはきっちり対策している)まだ分かるが、気配だけで正確な打ち込みができるってなんなの? いつも思ってたけどこいつ本当に人間なの? 馬鹿なの死ぬの?
「とは言え、確かに見えないのも厄介だ。見ていろ、この聖剣で闇を切り払ってくれよう!」
聖剣……だと? それはつまり、絶対折れないとか切れないものはないとか剣からビームが出るMAP兵器ってことですか。この世界にそんなもんあったの? 俺聞いたこともなかったんだけど。
「約束された――――」
うわオイ馬鹿ちょっと待て、それは某運命のMAP兵器では――!?
「かもしれない勝利の剣――!」
「…………」
「…………」
「……パー?」
空気が、凍った。
フォントの関係で見づらいであろう人のために解説しよう。エクスカリパーである。バーじゃなくてパー。
椿、お前それ、某運命じゃなくて某最後の幻想ゲームに出てくるパチモンじゃ……
一応まったく役に立たないというわけでもないらしく、ぺかー、と淡く光るそれは酷く幻想的で――それゆえに、滑った感もものすごかった。それはもう、その淡い光で見える範囲の人間の顔を見ればもう、痛いほどにわかった。いや実際イタいんだけども。
「じゃあ、そういうことで……」
「……」
椿はふるふると震えている。
「よっと……重いな、おいジャック起きろよ」
「…………」
起きる様子もないジャックを担いで、いまだぽかーんとしているフェーネに預ける。
椿は顔を真っ赤にしてふるふると震えている。
「ええと、こっちのお姫様はどうするかな……」
「………………」
やっぱり起きる様子もないお姫様と、完全棒立ちなローブ姿の魔術師を検分する。
椿は顔を真っ赤にして、うつむき加減でふるふると震えている。
「うん、俺がやったわけでもないしジャックがやられたこと考えればフェアじゃな――」
「うわああああああああああああああああ!」
ぺかー、と光っていた聖剣(笑)が、ビッカアアアァァ!という感じに光っている。ていうかこれはまさかの――
「消えて、なくなれええええええええええ!!」
爆発オチですかぁー!?
※
こうして、後の時代で一日戦争と言われる戦争は終結した。この戦争をきっかけに、アルファビアとバロウムは次第に友好を築き、それなりに仲良くやっていけるようになったのだが――その戦争に、化物が二人関わっていたことは歴史書には記されていない――




