第28話:バケモノ(前)
そして。俺とマオが騎士団に(便宜上)入団してから一月後、アルファビアとバロウムは戦争を始めた。
後にもっとも非常識な戦争と呼ばれることになるこの戦争は、しかし始まりからすでに非常識だった。
※
「ふはははは、おらおらさっさと下がらないと足に穴が空くぞ!」
バロウム王国とアルファビア王国の間にあるヴィラ平原で両軍は交戦……交戦? している。?がつくのは、俺が無慈悲に一方的にアルファビアの軍を押し返しているからである。
漆黒のマント(認識阻害の効果がある)を羽織っているせいで、こっちの顔がばれる心配もなく、存分に能力を奮える。
俺が今使っているのはオリジナルの武器で、形状は一見ただの杭だ。ただし、効果はとてもただの杭とは言えないようなチートだが。
「くっ……バロウムの兵は化物か!」
「ていうかあいつ一人が無駄に強くないか!?」
「退却、退却ー!」
投げれば相手の爪先に突き刺さり、かつ対象として認識すれば100人だろうが1万人だろうが分裂してその爪先を狙う。爪先狙いなら相手が足を引かず当たったところで致命傷にはならず、剣や武器を振るうのはほぼ不可能。我ながらいいアイデアだ、と自画自賛してみたり。
無謀にも突っ込んできた兵士がぐっさりやられてあっさり捕虜として捕まったのを見てから、アルファビアの軍隊はひたすら後退するのみ。まあ誰だって動けない状態で敵国に囲まれたくはないわけで。
「いやぁ、さすが特別補佐だな! 敵がまるでゴミのようだ!」
ふははははー、と高笑いをする変態一名。でもその台詞は思いっきり死亡フラグだから止めてくれないかな。目が、目が―! なんてやられ方したくないんだが。
「あん?おいジャック、真打登場っぽいぞ」
退却を続ける相手軍がモーゼのごとく割れ、明らかに格が違う奴らが進み出てきた。純白の鎧を着た騎士と、その後ろに付き従うローブの魔術師、そしてもう一人は……あれ?
「ありゃ向こうのお姫様じゃないか? どっかで見た事あると思ったら」
「お、本当だ。和平交渉ならありがたいんだがな。とりあえずその杭止めてくれ」
言われた通り、杭の連射を止める。その間にその三人は最前列に進み出ていた。
「お久しぶりですわね、ジャック?」
「そうだな、久しぶり。相変わらず姫さんは良い女だね、今度一緒にディなごばぁ!?」
「団長、今は戦争中です。ナンパしてる余裕なんてありませんよ」
フェーネさんの必殺突っ込みが炸裂した。うずくまってぷるぷる震えてるジャックがどんな痛みに耐えているのか、想像するだけで血の気が引きそうです。
「というか団長、いつアルファビアのご令嬢とお知り合いに? 私どもは全く知らされておりませんが」
「げふっ。いやぁ身分を隠して冒険者やってるときになんだかんだで知り合ったんだよねー。お忍びで城下町に降りて行くとか親近感がごぶはぁ!?」
うわ、また炸裂した。むしろ骨が折れてないのが不思議なくらいの一撃なんですが。
「いえ、今は漫才を見ている暇はありませんの。ジャックとも是非一度OHANASHIしたいところですが、それはまたいずれ」
「おやつれないね。良いじゃないか旧交を暖めあっても」
「戦争中に言う台詞とは思えませんわね。とりあえずは終戦してからでしょう」
「そうですね。団長は戦争中だろうがそうでなかろうががつつしみを持ってですね……」
割と息があってる、んだろうかお姫様とフェーネさん。雰囲気が似てるというかなんというか。
「それで手っとり早く終戦させたいと思いまして。有象無象をぶつけるよりも、その国で一騎当千の猛者での勝負で決めませんこと?」
代表戦ってことだろうか。よほどその猛者とやらに自信があるらしい。
「それをやるなら撤退しなきゃいけないからなぁ。こっちが有利に事を運んでるのにわざわざ退く理由がないかな」
それも道理。今現在こっちは負傷者一人も出すことなく、半分以上の道のりをクリアしている。そんなまどろっこしいことをしなくとも、十分に制圧するだけの兵力を残しているのだ。
「それもそうですわね……それでは退かざるをえない状況になれば仕方ない、ですわね?」
その言葉と同時にぞくり、と背筋を走る悪寒に従ってジャックとフェーネさんを突き飛ばす。後ろを振り向くと、今までひたすら無言を保っていた白騎士がごう、というすさまじい音を立ててその剣を振りぬいているのが見えた。こいつ、本気で抜きやがった……!
「そちらでもその武勇を聞き及んだことはあるでしょう。竜を滅し、万軍を壊滅させうる今代の勇者と!」
つまりここで勇者と戦いたくなければ撤退して要求を飲め、ということか。案外悪くない……いや、効率のいい手だ。ここで退くのを渋ればあの剣の錆びになり、退いたで間違いなく退けば一騎打ちでこいつが出てくるだろう。どちらに転んでも勝率はかなり高いということか。
だが、それはこちらにとっても好都合だ。ここで勇者を倒せば、勝ちは確定する――!
「フェーネ、下がれ。ここは俺と特別補佐で切り抜ける」
「しかし!」
「下がれ。お前じゃ足手まといだ」
ぎちり、と歯を噛みしめて、フェーネさんは下がっていった。というかこいつ、もっと他に言いようがあるだろうに。
「なに、男は格好つけるものさ。それに力不足っていうのも本当だしな」
「それはお前も一緒だろ」
あの白騎士、少なくともスピードは俺に匹敵する。つまりはジャックよりも早い、ということに他ならない。あんな重そうな鎧を付けてそのスピードということはジャックではまず勝ち目がないだろう。仮にも騎士団長であるジャックが、だ。
「あの騎士は俺がやる。ジャックには魔術師と姫様任せるから生け捕りにしてやれ」
「うふははは、女を生け捕りなんて燃えるね! なんというかこう、背徳感が!」
はいはい変態変態。終わったらフェーネさんにチクるからな。
※
『炎よ!』
「はっ、効かん!」
姫さんが放つ炎弾を朱槍で打ち消す。前に知り合った時、姫さんが魔術師だということは知っている。前はその魔術のスピードに対応できずまともに向き合えば若干不利だったが――あいにく、前の俺とは違う。この槍があれば魔術は無効化できるし、たとえそれがなくてもこのくらいの魔術なら技量でかわせる!
「ごめんね姫さん。ちょいと眠っててくれ」
どす、と石突をみぞおちに突き入れる。がくり、と力尽きた姫さんを抱えて……っと、もう一人は?
『風よ風よ風よ。歌えその身を持って。烈風吹きすさび我が眼前の敵切り裂かん』
ローブをまとった魔術師が詠唱を始めている、が遅い。完成する前に意識を刈り取る――!
ぐおん、と魔術を無効化する槍が伸びて――がきん、と当たる寸前で弾かれた。
「……は!?やば、しまっ……!」
『穿て!』
意識を失う前に見えたのは、黄金色のペンダント。その光もすぐ、黒に塗りつぶされて――……
※
びゅおんびゅおんと突風が吹き荒れる。文字通り空気を裂いて繰り出される白騎士の一撃をかわし、ふっと息を整える。さっきから違和感――いや、既視感か? を感じる。
もう少しで答えが出る、喉元まで出てるのにはっきりと分からないあのもどかしさ。こっちが投げる杭を弾くあの動き、こっちに肉薄する足運び。
それら一つ一つがどこかで――いや、いつも見ていたような。
「さすがだな。これは名乗らないといけないか」
その声に。動きが止まった。
がこん、と無造作に兜を放り投げ、素顔を晒した白騎士は、いや。
「今代の勇者、冬野椿。秩序の元に正義を執行する!」
向こうに残してきたはずの俺の幼馴染は、呆然とする俺に斬りかかってきて――……
あれ、死亡フラグ立てた相手間違ってな
ざくり。