第27話:笑いモノ
突然だが。王様のいるお城、要は王城、もしくは王宮と聞いてどのような風景をイメージするだろうか。
統計を取ったわけでもなく、誰かに聞いて回ったこともないので俺の勝手な想像になるがほとんどの人はシャンデリアや真っ赤な絨毯、やたら長い廊下にセンス良く並べられた美術品などを想像すると思う。
ジャックから正式に戦争を手伝ってほしい、という要請が来たので王城まで出向いた俺とマオ(必要性がわからん)も、そんな感じのものを想像していた。
「にしてもこれは行き過ぎだろ馬鹿」
垂れ下っているのはシャンデリアにしてシャンデリアに非ず、というかどこの世界にサファイアで出来たシャンデリアがあるというのだ。真っ赤な絨毯にきらきらと反射するものがあるので何かと聞けば金箔を練り込んであるとか。廊下に飾ってある美術品はセンスもなにもなく、隙間なくぎっちりと並べられている。いや、これはどう考えてもやりすぎ、成金です本当にありがとうございました。
「いや、俺も何とかしたいとは思ってるんだけどね……」
当たり前だ、こんな無駄にきらきら、ていうかすでにぎらぎらしてるような空間でくつろげる人間はそういないだろ。マオに至ってはもう歩いて汚すのが怖いと言って俺が肩車しているくらいだ。……正直、俺も空を飛べるなら間違いなくそうしている。
「で、王様に会えってか。おいおい、一平民に謁見の機会なんて与えていいのか?」
「ああ、問題ない。なんせカエデは今日を持って1番隊隊長特別補佐になったからな!」
「……なにそれ」
嫌な予感しかしねぇ。
「要はあれだ、役職だ。俺以下、フェーネ以上の指揮権が一時的にカエデに与えられる。つまり、擬似的に騎士団の一員ですおめでとう!」
…………ゑ?
「ちなみにマオちゃんは1番隊副隊長特別補佐になりましたー。名前は違うけど立場はクランと同等だよやったね!」
まあ名前だけだけど、と続ける。いやいやいや、そういう問題じゃないだろ?
「ちょっと待てコラ。俺はまだ良いにしてもマオまで巻き込もうってか? それはちょっと許せんぞ」
そもそもマオは戦えない。素早さと反応速度はちょっとしたものだが、それでも素人レベルではあるし、当然実戦経験もない。戦争なんぞに連れだされたら盾にすらならないだろう。
「わかってるって。別にマオちゃんに戦わせようとか、指揮をしろって言うわけじゃない。それにこれはマオちゃんが俺に頼んだことなんだぜ?」
その言葉に、頭にしがみついているマオがびくっと震えた。マジですか。
「おいマオ、わかってるのか? 戦争だぞ? 街のちょっとした喧嘩とはレベルが違う、それこそ俺だって死ぬかも――」
「だから!」
俺の言葉をさえぎって、マオが叫んだ。そのままぐすり、と鼻を鳴らしてぎゅうっと頭を抱いてくる。
「……だから、一緒にいたい。カエデが死ぬかもしれないのに、ひっく、アタシだけ家でただ待ってるだけなんて嫌だ、嫌だよぅ」
ぐしぐしと頭の上で本格的に泣いているのが分かる。ジャックはジャックで肩をすくめるだけだし……おいなんとかしろよ、お前だろ元凶は。
「あー……いやマオ、あんなことは言ったけどほら、俺はたいがいのことじゃ死なないしさ、今からでも取り消しを」
返事の代わりに鉄拳が降ってきた。ちょ、痛い痛い痛い! 肘は反則だろ痛たたたたた!?
遠慮なしにがすがすと殴られる。普通に痛いです。
「痛いんじゃない。カ、カエデが強いのだって知ってるけど、殴れば痛いんじゃない。だ、だったら斬られたりしたらどうするの。ひっ、う、うわああああああああん!」
まずい。本格的に泣き始めた。初めて会った時以来だろうかここまで泣かれるのも。ジャックもどこかしら呆れたような……ってだからお前だろ!? 元凶は!
「だからさ、マオちゃんはカエデに死んでほしくないんだと。自分がいれば無理しなくなるだろうって言ってわざわざ騎士を探してこっちに連絡を取ってきたんだ、少しはその気持ちを汲んでやってもいいんじゃないか?」
だからその原因はお前だというに。空気読めてないのかあえて読んでないのか。こいつの場合天然の可能性があるから困る。
「だからって本当に参加させるのはやり過ぎだろ。マオは俺に死んでほしくないかもしれないけど、俺だってマオに死んでもらいたくないんだ。あの孤児院に居れば安全なんだから、戦争なんかに参加する意味はない」
これは偽らざる本音だ。例えこっちが負けたところで、あの孤児院にいれば戦火は及ばない。極端な話で言えば、戦争が起ころうが2つの国のどちらが勝とうがあの孤児院には全く関係ない。それこそ籠城してれば生きていけるのだから、わざわざ外へ出て危ない目に会う事もないのだ。
「ふう、無粋だなカエデは。女が覚悟を決めて出ると言ったのに祝福しないとは」
「それが無粋ならそれでいいさ。女子供を守るのは男の役目だ」
古い考えかもしれないがな。あいにく、古臭い家で育ったんだからしかたないだろう。
「……分かった分かった。マオちゃんは後ろにいて、うちの団員みんなで守るし、危なくなったら最優先で逃げてもらうからそれで妥協してくれ。ていうか、そのくらいじゃないとマオちゃんが納得しないだろう」
前線に出てこず、後方にいるだけ。危なくなったら逃げる。それなら大丈夫だろうか。この世界の文化レベルからして、後方をいきなり壊滅させるような武器の類はない……と思う。
確かに、隣に立たせるのは論外にしても同じ場所くらいにはいないとマオもうなずいてはくれないだろう。それならこれ以上何を言っても多分無駄だな。
「いいだろ。危なくなったら一目散に逃げさせるんだな? 何を差し置いてもだ」
「誓わせよう。まあ、カエデが頑張ってくれればいいんだけどねー」
どれだけ戦わせるつもりですか。
「さってと、ここが玉座の間だ。とりあえずマオちゃん、カエデの頭の上から降りて。それと……」
言い淀むジャック。何かまずいことでもあるんだろうか。
「それと、これだけは言っておこうか。笑わないでね?」
なんだそりゃ。
※
玉座の間。ちょっと今までがくすんで見えるほどぎらぎらと輝く空間で、俺たちは……耐えていた。
「ふむ、それでお主たちが今回のみ特別に騎士団に入るのだな?」
「はい、王様……げふんげふん」
「どうした、咳き込んで。大丈夫なのか」
「いえ、ちょっと風邪気味でして。ありがたいお言葉ですがお気になさらずに。ぶほげほっ」
当然、風邪気味なんかじゃない。そもそも日常的に回復薬を飲んでいる孤児院メンバーが風邪……というか病気にかかるはずもないのだ。
要は笑いをこらえきれなくてごまかしてるだけである。
「まあ愚息ではあるが、あいつが信頼するのなら大丈夫なんだろう。ではこの戦、頼むぞ」
「はい、確かに……げほごほ」
※
「ぶはははははははははは!」
「あはははははははははは!」
ひときわ趣味の悪い玉座の間を辞した俺たちは、休憩室で思う存分笑っていた。ジャックが微妙な表情でこっちを見ているが知ったことか。
「……ていうか笑うなって言ったのに笑ってたよね」
「いやあ、あれは無理だって。先に言ってくれればぶふっ、ちょっとは気構えがあはははははは!」
「……まあ初見だし、分かるけど」
「初見でも二度目でも笑うだろあれ。なんなんだあのヒゲ。こだわり? こだわりなのか?」
見た目だけならまあ、イケメンなジャックの父親と言っても通じるだろう。そこまでパーツは悪くなかった。……ヒゲ以外は。
某神様のように垂れているなら分かる、なんとなく定番だし貫録も出るかもしれない。だがしかし。
「なんでヒゲが頭より高いんだよ!」
カイゼル髭、という髪型ならぬ髭型を知っているだろうか。上に向けてぴんとヒゲを立てるものなんだが、ジャックの父親もそんな感じだった。ただし、先端が頭の上を越えているという異常があったが。
「俺に聞くな。俺が生まれたときからあんなヒゲだった」
「それはそれは、ずいぶんとおしゃれ(笑)な父親だな」
嫌味にもジャックは疲れたような笑みを返すだけだった。……まあ、王族が顔を見せないというのもあのヒゲをさらさなくていいというんなら悪くないかも、とか俺も思ったしなぁ。身内も大変なんだろう。手入れとか。
「まあヒゲも馬鹿親父も放っておいて。これで正式にうちに協力してもらうことになる。話は着けておくから、明日からここの練兵場に来てくれ」
「りょーかい。言っとくがマオは連れてこないぞ」
「はいはい、カエデも過保護だね。それじゃあまた明日」
「おう、また明日」
こうして、腹筋が攣ったのかまだぷるぷるしてるマオを連れて、俺は王城を後にしたのだった。
……いやぁ、いろいろ普通じゃなかったなぁ。




