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Second life (仮)  作者: 壱弥
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第26話:企むモノ

「ええと、つまりジャックが王子で騎士隊長でサボりがちで今回も抜け出して遊んでたと?」


「端的に言えばその通りです」


突拍子もない話だけれど、なんとなく納得もできる……か? やたら情報に詳しかったり、セキュリティに興味を持っていたり。金髪のイケメンが王子とかありふれた設定過ぎて使うとは思わなかったけどな!


「最近はアルファビアとも関係が悪化してきていますし、仕事が増えて大変ですね、と思っていたら脱走されました」


「脱走って……おい」


それでいいのか。騎士団って王子様一人の脱走も止められないのか。

そんな思いが顔に出ていたらしく、フェーネははぁ、とため息をついた。


「正直な話、どうにもなりません。先ほど言いましたけど私たちを取り立ててくれたのは隊長ですし、何も王子だから隊長を任されてる訳でもないんです。1から10番隊までの隊長の中でもかなりの実力者ですし……」


強いんだね。そこで簀巻きになってさるぐつわを噛まされてる人は。


「むが、むがもががー!」


びったんびったんエビのように跳ねまわってる様を見るに、王族の威厳とか全然感じられないんだけど。

そんな簀巻きをクランが担いだ。


「協力ありがとうございました。なまじ動きまわられるよりも家の中でじっとしていてもらったほうが危険度は少なかったと思いますので」


「いやいや、別に協力してたわけでもないんだけどね……ところで、ジャックどうなるの?」


「仕事がたまってますので。白い海で泳いでいただくことになります」


「むがー!?」


「ほらほら隊長、暴れないで~」


白い海、ね。書類地獄なんだろうなぁ……ここしばらく俺達とつるんでたし。溜まってる仕事の量も半端じゃないだろうなぁ。


「むが…ぷはっ。カ、カエデ! 助けて殺される! 心が殺されちゃう!」


「ほら隊長往生際が悪いよ~? 落としそうになるから暴れないでってば~」


まるで雨の中、段ボールの中で震えている捨て犬のような目でこっちを見てくるジャック。俺はジャックから……そっと目を逸らした。


「カエデェエエェエェエエエエェェェ!?」


許せ。



「さて……降ろせ」


「はい~」


薬屋の看板が見えなくなったあたりでじたじたと見苦しく足掻くのを止め、クランに命令する。


「まったく……少しきつく縛りすぎだ。まあ悪くないんだがなハァハァ」


「隊長、変態なのもいい加減にしてください。大体こんなお芝居させたのは隊長じゃないですか」


縄を解いてこきこきと体をほぐしている俺に、フェーネが抗議してきた。確かに俺の指示ではあったが。


「はっはっは、必要だったからな。もう手段は選んでられない。何としてもカエデを味方に引き込まなきゃな」


「それでは」


「ああ、もう戦争は止められんだろ。まったくあのクソ親父め、だからさっさとアルファビアと友好関係を結ぶべきだと言ったのに」


友好関係どころか挑発すらする始末。まったく、俺の計画が全部台無しになったじゃないか。


「でも戦争しても負けないんじゃない~? 今まで負けた事ないでしょ~」


「今回は負ける。少なくとも正面から戦えばな」


クランののんきな意見を却下する。確かに今まではこの国に多くいる傭兵から冒険者から犯罪者まで、一定の報奨を持って戦争に駆り出し、その個人技能でごり押しすることで互角の勝負を演じてきた。が。


「勇者ですね」


「そうだ。話を聞いただけだが、その話を半分に聞いてもおつりがくるくらいの能力を誇っているらしい」


曰く、素手でドラゴンの鱗を貫いた。曰く、アルファビアの騎士団を模擬戦で壊滅させた。曰く、竜族にしか使えないはずの息吹(ブレス)を吐いたなどなど。

そんな化物と張り合える冒険者なぞ世界に何人いるのやら。そもそもドラゴン討伐だって冒険者ランクでBランク以上、騎士団で言えば隊長格でやっと倒せるレベルだ。俺でも1対1なら苦労するというのに、それを素手で倒したとか悪い冗談でしかない。


「ですが、カエデがそんな化物に対抗出来るほど強いのですか? そこまで強いとは思えませんでしたが」


「ああ、言ってなかったか……俺が手に入れたこの槍、これはカエデが作ったものだし、最近出回ってる性能の良い回復薬もカエデが作ったものだ。前線に出すタイプじゃないかもしれないが、カエデも十分な実力者だ」


俺に勝ったしな。悔しいから言わないが。


「戦争が止められない以上、早く始めて早く終わらせるぞ。このままお互いの国が力を蓄えたら消耗戦になってただでさえ荒れまくってる国がさらに荒れる。その前にこちらから奇襲に出て、有無を言わさず和平に持ち込む」


『はい!』


「ところで、仕事ちょっと減らせない?」


「駄目です」



「ところで、仕事ちょっと減らせない?」


「駄目です」


そこまで聞いたところでぷつん、と機械のスイッチを切る。


「マジで王子様なんかい……」


納得できる、とはいえそれを全面的に信じるかと言えば答えはNOだ。普通に考えればたまたま知り合った相手が王子様でしたーなんて言っても信じるわけないし。そのためにわざわざ急造の盗聴器なんてものを付けて盗み聞きなんてしたんだし。


「まいったな……どうしよう」


手伝う事はやぶさかでもない。なんだかんだ言って仲は良い(と思ってる)し、王子だとか言うならコネを作っておいても損はしないだろう。だろうが……


「果たして俺が介入していいのやら」


自分がバランスブレイカ―であることは理解している。それこそその勇者サマを相手にしても、遠距離からひたすら武器を撃ち続ければ問題なく勝利できるだろうし、極端なことを言えば某猫型ロボットよろしく地球破壊爆弾とか持ち出せる。

つまるところ……俺が参加するという事は、そのまま勝利を味方につけるのとほぼ同義である。だからこそ悩むというか。


「そうだ、こういう時こそ駄目神の出番だな」


ごそごそと荷物の中から通信用本を取り出して……


『馬と鹿でもわかる戦争教本』


……突っ込まないぞ、絶対突っ込まないぞ!


『はろーこちらゴッド! アイ、アムゴッドオオオオオオオオオ!』


うぜえ。何このテンション。


『ボインちゃんばっかの世界を作ったんじゃがな』


ああ、前言ってたね。


『ボン、ボン、ボンばっかの世界になってもうたんじゃああああぁぁ!』


馬鹿だろ。二重の意味で。


「そんなことはどうでもいい、どうなんだ? 戦争って参加していいもんなのか?」


軽く説明する。一応神様ならそれなりの答えを返してくれるだろう。


『ふむ、別に参加しても良いぞ? ただしあまり殺し過ぎてくれるな、処理が面倒……いやげふんげふん、人道的に』


「オブラートに包むのが遅いわ」


元からそんな気はないし。戦争で悪いのは国であり王族であり、兵士は基本的にいいなりになってるだけなんで殺ると非常に後味が悪そうだし。


『……それに参加したところでぼっこぼこにされるのがオチじゃろうしな』


「おいこら、なんて書いてあるんだ。細かすぎて読めないぞ。顕微鏡レベルでも見えない文字って文字と言えるのか」


『なに気にするな、そろそろフラグ回収しようかと思っただけじゃ』


「フラグ……?まあいいや、じゃあジャックが頼んできたら参加するとしようかな」


『うむ、出来る限り死傷者を増やすなよ? お主の得意分野じゃろうが』


「……ああ、わかってるよ。まあ見物しとけ。じゃあな」


ぱたん、と本を閉じる。得意分野、か。


「……わかってるさ」

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