閑話:嫉妬の話
さて。現在、草木も眠る丑三つ時。何でこんな時間に俺が起きているかといえば、
「またか、オイ……」
侵入者である。
登場からあっという間に価格と効果の両面でこの国の薬業界を牛耳り、かつ、その薬が子供だけで販売されているとなれば妬みの原因になるのは至極当たり前と言える。
で、力ずくで排除しようと忍び込んできたりするアホがいるわけなんだが……正直、多すぎる。今日だけで15回目だぜ、襲撃。あまりの多さにブザーも外してしまった。
「ふわわ、眠……」
あくびを噛み殺しながら地下へ向かう。いくらブザーを外すと言っても全部外しちゃさすがにまずいだろう、ということで俺の部屋にだけ侵入したらすぐ鳴るようにしてある。つまり、侵入者関係は全部俺一人でやらなきゃいけないということだ。
「ほら、さっさと失せろ」
どさどさと牢屋から放り出す。イメージとしてはあれだ、掃除機パックを換える気分と言えば分かるだろうか。
「く、くそ……」
「ほらさっさと失せろっていってんだろ負け犬ども。しっし、ハウス!」
そんな恨みがましい目で見られても。殺さないだけ涙を流して感謝してもらいたいものだ。
「ほら、骨でも投げてやろうかー?」
「ちくしょおおおおおおおおおおお!」
走り去る負け犬諸君に優しい声をかけてやる。……いやまあ、二度と来てほしくないだけなんだけどね?
※
「というわけだ。どうにかならんかな」
「そんなこと言ってもな。恨まれるのは当然だろ」
「そうだよな……」
ところ変わってギルドの酒場。ジャックにくれてやった破魔の紅薔薇の慣らしに軽く依頼をこなして、乾杯がてらジャックに相談してはみたけれど、やっぱりいい考えがあるわけもなかった。
「いやさ、別に危険な訳じゃないんだぜ? ただいい加減にしつこいっつーか」
寝てるくらいに来るしね。起きてる時に来れば暇つぶしくらいにはなるんだろうが、寝てる時に来られてもただの睡眠妨害です。
「じゃあいっそ薬売るの止めれば……いや、もう無理か。下手したら暴動が起きるな」
「だろうな。薬が売れないで困ってる商人と薬が欲しい消費者じゃあ数に差がありすぎる」
そもそも、全ての分野で上回っている以上はいまさら消えたところで反発が高まるだけだろう。下手したらこの国で生活できなくなるくらいには。
「参ったな……薬は売るべきじゃなかったかもしれん」
「そんなことはないだろ兄ちゃん。薬を売ることで間違いなく助かっている人がいる、それで良しと――――」
「死ぃねええええええええええええええええ!!」
突きだされるナイフ、しかしそんなこともすでに慣れっこで。
「てい」
手首をひねって一回転。肩、肘、手首の関節を極めてやる。
「ぐえぇ! ち、ちくしょうがぁ!」
「はいはい、その手の台詞は聞きあきたから。さっさと出てけ、迷惑だ」
酒場から蹴りだす。まったく、俺まで出入り禁止になったらどうしてくれるんだ。
「とまあ、これが日常茶飯事なんだが。ええと何だっけ、助かっている人がいれば?なんだって?」
「……いや、すまんかった。軽く見てたわ」
「いっそ本当に止めるかな」
「え、でも薬が必要な人は――」
「それに付き合う必要はない」
「兄ちゃん、冷たいねぇ……」
「知るか。困るのはこの国の知らない奴で、俺には関係ないね」
いざとなればマオたちを連れてこんな国出て行ってもいいし。この国で誰が死のうが、こっちの睡眠不足の方が問題です。なんせ自分に降りかかってるわけで。
「わかった、ちょっと待っててくれ、なんとかしてみる」
「なんとかできるなら最初からどうにかしてくれ……まあ、頼むわ」
「あまり使いたくないんだよ。最終手段だから」
何する気だお前。
※
「ああうん、わかったわかった、だからそう言うな」
「はぁ……だから駄目なんですよ、わかってます?仕事がどれだけ溜まってると――」
「わかってるって。次帰ったらやるさ」
「今やってくださいよ! 仕事の紙が積まれすぎてもう白い壁になってますよ!?」
「あーはいはい。頼んだことはやれるか?」
「まったくもう……大丈夫ですよ、もう何人か行かせました」
「そうか、相変わらず優秀だな。どうだ、今日は一緒に食事でも――」
「仕事してください」
※
結論としては。その後、薬商人たちはなぜか全員タチの悪い呪いにかかり、我が回復薬のお世話になった。もちろん、その代償として今までの行為の謝罪、および二度としないよう誓約をかけさせてもらったが。
その時のやりとりは……マオが怒ると怖いことを知ったので各々自由に想像してくれ。ていうか思い出したくない……