第23話:大成功?
「ぎにゃああぁぁ…………」
はい、おしまい。俺たちが画面を見てすぐに、二人とも脱落した。ていうかリーダー(暫定)はぎにゃあってなんだぎにゃあって。いいとこ中年のおっさんが言う悲鳴じゃないだろ。
「すごかったっす……色々と」
犬耳の感想。ちなみに何がすごかったかというと、
「ところでみんな、何で前かがみなの?」
股間に打撃を加えられたシーンがあったからですよお嬢さん。
まさかトラップがあんな風に起動するなんて思いもしませんでしたよ?
「あれは撤去しておく。ちょっとあれだ、男として」
うんうんとうなずく男衆。あの痛みは男にしかわかるまい。まあ盗賊がどうなろうとどうでもいいとして。
「よし、じゃあもういいぞ。寝ろ」
もう遅いし。いくらストリートチルドレンで過酷な環境に慣れてるっていっても子供だしな。寝れるときに寝ておくべきだ。
はーいと元気よく返事をして三々五々散らばっていく子供たち。よほどベッドが楽しみらしい。
「さて、じゃあ俺は調整してくる。マオとジャックも適当に寝てろよ」
ええと、あの危険極まりないトラップの修正と防犯対策|(外出用)と……薬とかカロリーメイトの販売する場所や値段も決めておかないとな。おっと盗賊も逃がしておかないと。
やること多いなぁ……誰か変わってくれないかな?などと思いつつ、作業に没頭するのであった。
※
翌日。大食堂に子供たちを集め、最後……かは分からないが、とりあえず説明を全て終わらせることにした。
「じゃあまずは防犯についてだ。ここにペンダントが30個ある。外出するときは必ずこれをつけること」
きらきらと虹色に輝く石を加工したペンダント。まあ防犯対策と銘打つ以上、当然普通のペンダントではない。
「これ、持ってるとどうなるの?」
「良い質問だな。これは、この家の防犯装置を小型化したものだ。装備してる人を傷つけようとすると……お楽しみだな」
悪意の強さによって反撃する力も上がるけど。ちょっと脅かしてやろうくらいならまだしも、誘拐とか殺してやるとか思ったらその事を一生後悔するレベル。
「それと注意事項としては、これをつけてるから何されても平気だもんとか思うなよ?装備してる奴が悪いのに一方的に弱いものいじめしたり、犯罪を犯そうとしたら自分に牙をむくからな、これ」
無敵に近いからな、このペンダントつけてると。そんな奴らじゃないと思いたいが、悪事に使えないようにしておくのも防犯というものだろう。
「よし、もう質問はないみたいだな。次は薬とかの販売についてだが、しばらくはこの屋敷で売ってもらう。ほんとなら大通りの方で売るのが一番いいんだが……もう決まってるみたいだからな」
昨日のうちに空きはないか、ギルドの方に質問しに行ってみたが駄目だった。ある程度噂になるとか、実績を積めば融通も利くとか。コネなんてないしなー。
「いくらで売るの? 私たちで決めていいの?」
「あー……いや、出来ればこっちで決めた値段で売ってくれ。だいたいどのくらいが相場か良くわからんが、ある程度売れるかどうか確認してから値段を変えていこう」
確か普通の傷薬が5ブロン前後。こっちの基準なら100均で買えるレベルだから、こっちの値段のおよそ5倍と見ていいだろう。つまりカロリーメイト1つ10ブロン。
回復薬は……よくわからんが。飲めば一発で傷が治る薬なんてあるわけなかったしな。とりあえず傷が治り、軽い病気ならすぐ治るランクの薬はカロリーメイトと同じく10ブロンから販売開始してみよう。
「一応、看板は出しといた。後は俺たちがギルドとかで無料で配ってみたりするからさ、人気が出るようならそのまま売ってみよう」
『はーい!!』
「え!? タダで配るのか兄ちゃん!?」
おい、子供たちは分かってるのになのに何でお前が分からんのだ。
「いいか、まず無料で配る。効果を実感してもらう。ある程度人気が出るようならそのまま配るのを止めれば、みんな買いに来る。分かったか?」
「おお、なるほど」
ようやく理解したジャックとこくこくとうなずくマオたち。やっぱり過酷な環境にいただけあって、商売やお金のことに関してだいぶ賢いようだ。この分なら商売も任せておいて問題ないだろう。
「後はお前たちに任せた。いいか、食糧やお金もある程度は置いておくけど、それだけだ。自分が食べる分は自分で稼ぐこと! 大丈夫だ、お前たちならきっと出来るからな」
『はい!』
言い終わった瞬間、3年B組のごとく子供たちが駆け寄ってきた。
「うえっ、ひっ、あ、ありがどうございまずっずぅー」
「うわ汚ねぇ! ちょっとおい、なに泣いてんだよこら」
それと俺は男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない。ましてや鼻水と涙でぐちゃぐちゃの顔をした犬耳に。
「お兄ちゃん、ありがとー!」
「大好きー!」
ちょっと待てお前ら、上に乗るな! のしかかるな! やめろ涙をこすりつけんな何みんな泣いてんだよ!
「離せ、離せっての!」
もみくちゃにされる。子供と侮ってたけど、こいつら結構力あるじゃねーか!
「いやあ兄ちゃん、ロリコン冥利につきるねぇ」
「てめぇ何面白そうに見物してんだよ! 俺はロリコンじゃないし別にってこら! 鼻水を俺の服で拭くんじゃねー!!」
もうめちゃくちゃ。こうして、愉快な孤児院の1日目は始まった。そして俺の服は朝っぱらから涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃになったのでした…………
※
「いらっしゃいませー! あ、カロリーメイトですか? 2つですね、20ブロンになります」
「はい、回復薬ですね。中級ですか? 少々お待ちください」
あれから一週間。孤児院の売り場である庭先では、戦争が展開されていた。
「いやぁ……ここまで人気になるとは思わなかったな……」
「兄ちゃん知ってる?今やここの回復薬のせいで他の傷薬が軒並み売れなくなったっていうの」
知ってる。そのせいで何回か刺されかけました。
一週間で、この孤児院はすでにこの王都で知らぬものはない一大商店になっていた。というのも、ギルドで配った回復薬が異常に人気を博し、それが一般にも流出。傷にも効く、薬にも効く。高いがランクの高いものを買えば今まで不治の病と言われた病気ですら治るとなれば、人気が出るのは当然だった。
「マオもいきいきしてるなぁ……」
そう。マオもここで働いている……というか、売り子兼店長といったところ。最初のうちこそ亜人ということで冷たい目で見られていたみたいだが、あっという間になじんで看板娘。マオの笑顔目当てで来る客もいる……ジャックだけど。
「んん?兄ちゃんやっぱりマオちゃんの事が好きなんじゃ」
「そんなんじゃねぇよ。やっぱ自立しないとなー」
一時期は何も出来ないということで落ち込んでたマオ。それが今はいきいきしている。俺にあまり依存もしなくなった。前はせいぜいジャックくらいとしか話さなかったのが、他の子とも打ち解けてる。
「それでもマオちゃんはまだカエデのとこで寝てるんだろ?あーうらやましいなこのロリコンめ!」
「うるせぇ、ロリコンはお前だろうが。大体マオが俺のとこで寝てるのも人恋しいからであって決してそういう関係では」
「はぁ。兄ちゃんは本当にとっぽいねぇ。まあとっぽくない兄ちゃんは兄ちゃんじゃない、か」
「久しぶりではあるが人の事をとっぽいとっぽい言うな。あととっぽいが人の存在意義みたいに言うな」
いらっとするから。そしてその哀れむような、それでいて面白そうな目で見るな。すごくいらっとするから。
「あ、カエデとジャックだ。ちょっと、2人とも手伝って―」
「もちろんマオちゃんの頼みなら喜んで―!」
「めんどくさ……ていうか俺何で働かなきゃいけないんだよ」
「とか言って手伝うくせにぃ」
「うぜぇ、近寄んな!」
さぁ、気合い入れて手伝いますかね。