第22話:忍者屋敷?
「よし、潜入」
どこのどいつが何を考えてこんなものを作ったのか知らないが、アホだ。こんなところにこんないかにもお金持ちですって屋敷を作るなんてな。この国には俺たちのような盗賊がいくらでもいると言うのに。
いきなり豪華な屋敷が建てられていた、と部下から報告が来たのが1時間前。もたもたしていたら他の奴らに盗られてしまうとすぐ動ける奴らを集めて奪いにきた。人数は10人しかいないが、1対1ならば王立騎士団にすらひけをとらない猛者だ。
なのに。
ウーウーウー! シンニュウシャ、シンニュウシャ!
「なにぃ!?」
庭に足を踏み入れた瞬間、警報が鳴り響く。ていうか何だこれ!? 魔道具か何かか!?
「リーダー!?」
「気付かれた以上はしょうがねぇ。邪魔するようなら殺れ」
出来ればスマートにいきたかったがしょうがない。こんな警報を付けたがゆえに殺されるなんて不運だな、とあざ笑い。
「リーダーッ!!」
「何だうるせぇ、な……?」
何だアレ。
きゅるきゅると金属がこすれる音を立てながら、屋敷の壁の中から何かが出てきた。筒をいくつも束ねたようなそれは、こちらを向き
「逃げろ!!」
パパパパパパ、と軽い音を立てながら何かを撃ちだしてきた。
「針!?」
逃げ遅れた5人に、細く透明な針が何本も突き刺さっている。この細さで透明なものを撃たれては、見切ることは不可能だろう。
針の細さゆえか致命傷ではないようだが、声すら出せずに崩れ落ちたところを見るに毒が塗ってあるようだ。
「散開! 各自で強奪! B地点で集合だ!」
「了解!」
不意をうたれたが、あの筒に狙われなければ何の問題もない。
即座に散らばり、こちらに向けて針を撃ちだし続ける筒から逃げ、転がるように屋敷の中に入り込む。
「くそ、ナメた真似しやがる……!」
せめてやられた分は取り返さなくては。こうして、俺は屋敷の中に足を踏み入れた。
※
「へえ。やるなオイ」
まさか初見でガトリング針を受けて半分残るとは。こちらの設定したレベルが低かったか、それとも向こうのレベルが高いのか。
「カエデ、これ何?」
不思議そうにマオが聞いてくる。いやまあ、多分しっかり説明してもよくわからないとは思うけどね?
「まあ防犯装置。いくらなんでも子供だけでこんな治安の悪い所に放置するわけないだろ?」
このシステムは、ある程度の敵意、害意を持ってこの屋敷に足を踏み入れた瞬間発動する。人に対して近寄れば近寄るほど、トラップも凶悪化する鬼畜仕様だ。全部知っている俺ですら突破は不可能だろう。
「この屋敷に悪い奴が入るとこうなる。ちょうど良いから、みんな見とけよ?」
ガトリング針で仕留めた5人のすぐ下の地面に穴が開き、すぐ後ろの牢屋にぶち込まれるのを確認して、画面を切り替えた。
画面の中には、2階の廊下の中程で、3人で固まって動いているのが映っている。
※
この屋敷は、一体何なんだ。嘘偽りない、それは恐怖だった。自分たちはかなりレベルが高いと自負している。主観的にではなく、客観的にだ。冒険者ランクもBに手が届く。
だが現に5人もあっさりやられ、リーダーともはぐれてしまっている。
「気をつけろ。まだ何か仕掛けがあるはずだ」
「おう。気を抜くなよ……」
仲間はまだやる気があるようだが、正直俺はもうごめんだった。さっきからずっと誰かに見られているようで、この屋敷の仕組みと相まって不気味極まりない。そして、当然のようにそれは起こった。
「おい、何か動いてないか」
気のせいか、目の前の扉との距離が開いていく。錯覚かとも思ったが、
「廊下が動いてやがる!」
気付いた瞬間、一気に速度が上がる。だがこのまま運ばれたら間違いなくろくなことにならない。一瞬で頭をよぎった嫌な想像を振り払い、近くのドアへ飛びつく!
「うおおおおおおおおおおお!!」
一人、連れて行かれた。ドアノブをつかめず、そのまま上がってきた階段の方へ運ばれていき……がこん、という音と悲鳴を最後に静まり返った。おそらく、もう帰ってこないだろう。
「行くか……」
「ああ……」
廊下は、いつの間にか動かなくなっていた。
とりあえず、近くにあった扉をいまや一人になってしまった仲間が蹴り開け、
「うわあああああ!?」
消えた。
正確に言えば、踏み下ろした足元にいきなり穴が開いて飲みこみ、そのまま閉じてしまった。
「何なんだ……何なんだよ、ここはぁ!!」
がくん、と力が抜ける。最後に俺が見たものは、床が生き物のように真っ黒な口を開けたところだった。
※
「後二人か。あいつは指示を出してたからリーダーとして……もう一人は部下かな。……ん?」
くいくい、と袖を引かれる。後ろを見ると、マオが不安そうな顔でこっちを見ていた。
「殺しちゃったの……?」
「まさか。捕まえた奴はみんな眠らせて牢屋行きさ。ほら、後ろにある壁の後ろに牢屋がある。見るか?」
ぶんぶんと横に首を振る。だろうね。わざわざ見たくもないだろうよ。
「ほら、生きて帰ってもらった方がこの屋敷に忍び込めないってわかるだろう?」
まあそれが一番安全だろう。復讐なんて2、3回失敗すれば不可能だって分かるだろうしな。
「おっと、そろそろ大詰めかな?」
ジャックがやたら真剣に見入っている。こいつが下ネタもエロネタも言わないなんて珍しいな、と思いつつも画面に集中することにした。