第21話:交渉成立?
絶句。地下室を見たときの反応を一言で言うなら、これが一番ふさわしいだろう。21人のストリートチルドレンは言うにおよばず、俺のやることに多少は慣れてるはずのマオとジャックも似たような反応だった。
一人を除いた体験者たちは、その巨大な空間の中心でこんこんと緑色の水を吐き出し続ける泉を見て何を思ったのか。
「察しのいい奴は分かったと思うが、君たちに配ったことのある回復薬の原液だ。これをちょうど良いくらいに薄めて、売るんだ。薄める分量が書いてあるカップも用意してある」
「え……?」
「あ、あとカロリーメイトも売るか。こっちだと妙に人気あるし」
カロリーちゃん、カロリーくんが出来るくらい。ちなみにストリートチルドレンズはモブなので犬耳以外は勘定に入れておりません。
「かろりーめいと、売るの!?」
「お、おう。てかマオ、顔近いって。食いつきすぎだって」
きらきらきら。目からビーム出せるんじゃないだろうか。
「ああん☆かろりーめいとが売られるなんて! アタシが一人占め出来ないのはちょっと嫌だけど、アタシが初めて食べたのが売られてみんなに知られるなんてぇ」
なんかくねくねしだした。ていうか大丈夫かマオ。カロリーメイト好き過ぎてキャラが崩れてるんだけど。
ドン引きしてないか、他の子も見たけど似たり寄ったりで恍惚とした表情の子がほとんどだった。……売るの止めとこうかな。なんか在庫を全部この子たちで食いつくしそうな気がするんだけど。
カロリーメイトが成る木でも作ってみようかな。まあしばらくは俺が補充して、なくならないか様子を見てみるか……
「というわけで」
まだくねくねしてるマオや子供たちに呼び掛ける。というかこらジャック、くねくねしてるの見てにやけるな。何考えてやがる。
「君たちの仕事は、俺の代わりに物を売ることだ。なに、いらっしゃいませーって言って売って、ありがとうございましたーって言えばどうとでもなる」
「ほ、本気っすか!? ここまで俺たちなんかにしてくれて、本当にいいんっすか!?」
あ、マオと同じようなこと言いやがった。境遇だけじゃなくて思考回路まで似てるんだな。いや、境遇が同じみたいだから思考回路も同じようになったのかも知れんが。
「いいのいいの。道楽みたいなもんだしさ。どうしても気になるんならあれだ、俺がオーナー。お前ら雇われ店員。住居付きで給料は売り上げを頭分け。これでいいだろ」
「え、あの、え?」
「はい決まり。質問ある人は手を上げて、元気よくはいと言ってから質問すること」
有無を言わさず決定。横暴万歳。
「はい! 僕たちはどれだけお金をお兄ちゃんに渡せばいいんですか?」
さすが、小さい子は順応が早い。そしてストリートチルドレンらしく、お金に対してきっちりしてるようだ。普通最初にお金の質問はしねーよ。
「渡さなくていいです。自分たちのために汗水流して働いて稼いでください」
「はい! そういうわけにはいきません! およそ7割が妥当だと思います!」
きっちりし過ぎだろ。ホントに子供か?大体7割って多すぎだろ。7公3民なんてやったら一揆が起こるぞ。
「分かりました。じゃあ売り上げの1割は俺がもらいます。9割で仲良くわけること」
「はい! それだとさすがに」
「却下ー。はい他にある人ー」
1割でも子供からお金を搾り取る鬼畜なイメージなのに、これ以上増やされたら死ぬ。罪悪感で。
「はい! 私たちはこれ使っていいんですか?」
そう言って指さしたのは、回復薬の泉。
「勝手にいくらでも使ってください。原価はタダです。ただし緊急事態以外で原液のまま使わないことと、あまり売らずにばらまかないこと」
価値が下がると困るし、これ原液のまま使い続けたら不老不死モドキくらいにはなっちゃうんじゃないだろうか。
「はい! かろりーめいとは食べていいんですかハァハァ」
「食べちゃ駄目です」
後なぜマオが質問してるんですか。その荒い息は何を期待していたんですか。君のキャラはどこへ逝ったんですか。
「はい!この家って……」
「あー、適当に……」
そのあとも、しばらく質疑応答が続きましたとさ。
※
大体質問終了。
「よし、もういいな?じゃあ後はそれぞれで部屋決めて寝」
ウーウーウー! シンニュウシャ、シンニュウシャ!
「あ」
防衛システムのこと説明するの忘れてた。
「何? 何!?」
「落ち着け―。ちょうどいいタイミングだし、最後の説明をしますよー」
まあ説明しても大して意味はないんだが。自動だし。
「はい、注目」
壁のスイッチを押す。くるりと一面の壁が回転して、巨大な画面を出した。
そこに映っているのは、この屋敷に忍び込もうとしている黒いネズミの姿。
さて、防衛装置のお披露目といこうか。