閑話:忘れられた本の話
「じゃ、いってらっしゃーい」
「おー。エスコートは任せろ! さてさて、マオちゃんどこ行く?」
「うん、行ってきます。どこでもいいよ?」
珍しく、というか。今日は俺がお留守番。まあ俺がそうなるように頼んだんだが。ただ心配ごとがあるとすれば、マオ(の貞操)がデンジャラス。頼むぞジャック。一応信頼してるからな……?
「……さて」
俺もただ休みたいから留守番をかって出たわけじゃない。投げっぱなしの伏線を回収しなきゃならんのだ。覚えているだろうか?『イエローモンキーでもわかる能力講座』。覚えてないよ、という人は第1話参照のこと。ポケットにつっこんだまま放置しっぱなしだったこの本、ふとしたことで見直してみたらタイトルが変わっていた。もっとも周りに他の人がいる時に見るわけにもいかないので、ここまで一切見てなかった。気にはなっていたんだが……。
「どれどれ……今度のタイトルは何かな」
『ジャップでもわかる通信講座』
あの爺は日本人になにか恨みでもあるんだろうか。というかこんな俗語使う神様ってアリなんだろうか。神様ってもっとこう、崇高なもんじゃないの?
内心はつっこみまくり、でも言ってもしょうがないので無視してページをめくる。そもそも通信講座ってなんだろう、テレパシーでも使えるようになるんだろうか。
『やっほー。元気かのー?』
「…………」
ぱたん。本を閉じる。
今の何。なんか書いてあった気がしたんだけど。確認のため、もっかいめくる。
『いきなり閉じるんじゃないわい! 神のありがたいお言葉じゃぞ!』
……うわぁ。通信講座っていうかこの本そのものが通信機なのかよ。テレパシーとか地味に期待してたのに。
これ、喋れば通信できるの? それとも書くの?
「爺? 喋ればいいのか、これ」
『おうおう、そうじゃそうじゃ。どうじゃ、そっちの世界をえんじょいしとるかの』
してます。ある意味で。拷問村とかチンピラとかネコミミとか。間違った方向に走ってます。
『うむ、まあそれはどうでもいいとして』
「どうでもいいのかよ!」
『男なぞどうでもいいわい。心配して欲しけりゃこう、ボインボインの女になるんじゃな』
うぜえ。神様じゃねぇよこいつ。ただのエロ爺だよ。
「何の用だよ。暇つぶしって言ったら呪いをかけてやる」
天国まで届くレベルのやつ。すごい藁人形とか、そんな感じ。
『そんなわけなかろうが。ほれ、能力について微妙に説明不足じゃったからな。この小説の前書きに書いてあるじゃろ?おぬしのステータス』
「確かに書いてあるな。毎回毎回うざいと思ってた」
『うざいっ!?』
だって途中から能力の更新もされなくなったし。それなのに懲りずに前書きを占領するし。もうなくていいんじゃね?
注※微妙になくなりました。
『いやいやいや、自分の力を把握するのは何よりも大切なのじゃ。そういうことにしておく。で、能力についてなんじゃが』
だから把握したのにいつまでもあるからいらないんじゃないかと……
『ある程度のレベルのものを使わんとレベルが上がらん。レベル1で出来たことをレベル2でいくらやってもレベル3にはなれん』
ほうほう、なるほど……って
「もっと早く言えや!!」
レベル上げるには必要ないと思って能力の限界も試さんかったわ!使えばレベル上がるからと思って常識的な範囲でしか能力使ってないし!
『おぬしが見なかったのが悪いんじゃろう』
うるせえ。人がいるんだよ、人が。うっかり覗きこまれでもしたらめんどくさいことこの上ないことになる。
『それも説明し忘れておったの。この本、おぬし以外には見えんから』
いや。もう、さあ。
「そういうことは最初に言えっつーの!」
※
『……まあ、こんなところかの』
「そっか。あいつら、元気なんだ」
一通り補足説明された後、聞きたいことはないかと言われたので俺がいなくなった後のことを聞いてみた。みんな落ち込んでたけど、もう元気になったそうだ。こっちは二度と戻れないんだから、ありがたい話である。
『うむ。おぬしに妹が出来たしな』
「マジで!?」
『マジで。まあ、まだ親にも気付かれておらんがな』
ちょっとショック。うわ、忘れられた気分?というかなんというか。それこそ俺の代わりに支えになってくれるんだろうから、嬉しくはあるんだけど……複雑だ。
ていうか俺の親頑張りすぎだろ。もう40近いくせに。
『実はおぬしの幼馴染にも弟が出来た』
「仲良すぎだろ!」
俺と椿のことといい、うちの親と椿の親はどれだけ仲がいいんだろう。うわ、見える。俺の妹があいつの弟に連れまわされる様がはっきり見える……
『ではの。最後に二つ、お得な情報を教えてやろう』
おほん、ともったいぶる爺。どうでもいいが、本にまでおほんと書く意味あるんだろうか。
『一つ目。この本は時たま更新される。行き詰った時に見てみると良いかもしれん。二つ目。近いうちに、おぬしは酷い目にあう』
「ちっともお得じゃねぇ!?」
特に二つ目。自分が酷い目にあうってお得な要素が一個も見つからねぇ……!
『まあ気をつけろ、ということじゃ。ではの』
その言葉を最後に、ぱらららららと勝手に本が閉じる。タイトルも消え、おそらく更新されるってときまでは見ることももうないだろう。
ぽい、と本を放り投げ、ベッドに寝そべる。
「妹、ねえ」
これもホームシックなんだろうか。まだ見ぬ、というか決して見ることのない妹に思いを馳せ、俺はゆっくりと襲ってきたまどろみに身を任せた。




